私、アレスティアには夢がある。私にしか、叶えられない夢だ。

 

 あの戦いから少し時間が経った。

 大変だったよ……色々と……ラグナさんがやっぱり試練までのコーデリアの処遇を忘れていたからわちゃわちゃしたし、ロクナナにも実行犯としての罪がある事を最近知ったし、おっさん集団の代表が私を引き込もうとアラスに来てルゼルがキレたり、覇道がひょっこり出てきたり、ルナリードが店員さん達に捕まって今も居るし、リアちゃんの後遺症を治すのにリアちゃんが嫌がるから説得したり、雌豚と意気投合したムルムーが今私の尻を触っているし……色々あり過ぎたな。

 旅行は大人の事情で割愛したけれど、楽しかったよ……とても。


「アスティ、準備出来た?」

「うん、でもなんで私は騎士団の制服なの?」


「投票で一位になったからよ。アレス君騎士団バージョン」

「ふーん。まぁアスティちゃん猫耳バージョンじゃないから良いか」


「それは三位ね」

「二位は?」


 今日は、ヘルちゃんと一緒に城へ行く事になっている。なんでも姉のヴァランティーヌが皇帝になるから戴冠式らしい。忘れていたけれど、一応剣聖と大魔導士の称号持ちなので私も参加しないと駄目だってよ。今日で辞めてやるがなっ。


「二位はアレス君王子バージョンよ。付き合わせて悪いわね」

「ううん、一応義理のお姉さんの晴れ舞台だからねー」


「でも、今日試練があるんでしょ?」

「そうなの。やる事も一杯なの」


「皇帝が変わると色々手続きもあるからね。アスティの場合は特に」

「ほとんど特事班に丸投げにするけれどねー。そろそろ行こっか」


 ドレス姿のヘルちゃんが、似合う? と、ツインテールを揺らして誘惑してくるから困る。ヘルちゃんの部屋から出ると、死んだ目の幼女がルゼルに抱えられ連行されていた。


『あぁアスティ、行ってらっしゃい』

「行ってきます。アテアちゃんは何をやらかしたんですか?」


『今日序列戦がある事を黙っていたんだ。我も付いて行こうと思ってな』

「嫌じゃ、ルゼルが来るとズルだのチートだのと責められるんじゃ……わっちの気苦労を解ってくれの」


『良いじゃないか、後数年頑張れば序列五位も夢じゃないぞ』

「そうですよ、五位になれば夢のニート生活ですよ?」


 ルゼルの立ち位置は、幼女の管理するアラスの中にあるアレスティア星の女神という…屁理屈を並べた結果アラスの女神としても活動出来るらしい。だから幼女はルゼルと組むという望まない形でぼっちから解放された。


「ふんっ、ルゼルが居る世界に研修したい神が居ればの。アレスティアは試練頑張っての」

「はい、今回は伸び伸びやりますよ。五戦の内の一回戦ですから」


 ジョーカーの試練は五回ある。

 五柱の女神と戦う形で、今日は一回目。なんでもみんな忙しいらしく、一気に戦うのは難しいらしい。

 序列戦と似た形式で、私とコーデリア対女神と補佐。

 勝つに越したことはないけれど、負けても五戦の内容を考慮だからなんとかなりそう。

 私は星の能力禁止だから、結構な縛りプレイなんだよなぁ…コーデリアに期待だ。

 因みにコーデリアは天異界本部に居る。流石に野放しは駄目と言われたけれど、待遇は良いらしい。


「アスティ、時間がないから急ぐわよ」

「えー、転移で良いじゃん」


「一応私は皇女だから、順序があるのよ。城の前からスタートね」

「はいはい。じゃあ行ってきます。転移っ」


 幼女とルゼルに手を振って、転移で城の前に到着。

 なんかざわざわしているけれど、戴冠式だから厳戒態勢なんだな。


「なんか様子がおかしいわね」

「気のせいじゃない? 急ぐんでしょ?」


 正門から中に入ると、ざわざわが大きくなってきた。気にせず控え室に行こうとした所で、ヴァランティーヌの侍女さんが息を切らして走ってきた。久しぶりー。


「恐れ入ります! 力を、貸して戴けませんか!」

「どうしたんですか?」


「ラジャーナに……魔物の氾濫が起きました。殿下の晴れの舞台…被害を最小限にしたいのです! お願い致します!」

「あー良いですよ」


「ほっ、本当ですか! ありがとうございます!」

「じゃあヘルちゃんも行く?」


「嫌よ、私はか弱いのよ」

「めんどいだけでしょ」


 か弱いったって災害級くらいなら簡単に倒せんじゃん。

 知っているぞ、幼女と序列戦で活躍してんの。私は参加出来ないから寂しいんだよね……


「もしそのまま試練に行ったら私はラジャーナに置いていかれるのよ? ぼっちなんて絶対嫌」

「多分ここにムルムーが居るからぼっちじゃないよ」


「駄目よ、もう決めたの。戴冠式で遅れてやって来るイケメンの騎士が私を攫うのよ。よろしく」

「妄想ダダ漏れじゃん。間に合ったらね。転移」


 ヘルちゃんの妄想の実現の為に頑張るか。

 転移した先は、ラジャーナの上空……へぇー、なんか久し振りだな。ラジャーナは兵士や冒険者達の防衛線が張られ、ラジャーナから数キロ先には魔物の軍勢。邪霊樹が暴走したかな……バラスは引っ越ししたからその影響かも。

 しゃーなしに、やるか。


「久し振りの星体観測!」


 魔物の軍勢の前へ行き、星体観測を発動。星になって星属性はどうなるのやら……試しに星を一つ落とすと、一キロくらいのクレーターが出来た。あっ、これ反則魔法だ。

 やれやれー。おっ、なんかデカイのいるな。


 魔物って、星が世界を創る時には居ない。

 星が他の星から情報を得る時の歪みによって発生する病原体みたいなものから生まれる。元はつまり次元の歪みから生まれるんだ。

 星が星と会話する程、世界の文明が発達する程、歪みが大きくなり、魔物や裏世界から負の力が溢れ、放っておくと取り返しが付かない事態になる。

 そこで神という世界を管理する者が居て、世界は長生き出来るという仕組みがあるんだけれど……ムルムー何これ? 台本?


「遠くから割れんばかりの歓声が起きている。称賛する声、勝利の雄叫び、喜びの叫び」


 えっ、なになに⁉︎ ムルムー何言ってんの? なんかリアちゃんのメモ書きが……やだっ、これ読むの? なんか恥ずかしい。……何撮ってんのさ。これパンパンでみんな見てんの?


「つ、強くなったなぁ…」

「たった一人、歪な山の上で佇む者……」


 もしかしてこのくだり全部やんの? 私の台詞とかあと一行じゃん。えっ、何? オープニングで使う? ムルムーとリアちゃんの趣味じゃねえか。笑顔が無いのは困惑一色だからだよ……

 崩壊の邪龍ってなにさ、どれさ、グチャグチャにしちゃったからただの汚ねえ山だよ。

 なに? 台詞?


「夢を…叶えに行こう」


 ……まぁ、夢を叶えに行くのは間違っていないよ。

 正確には夢の第一歩だけれど。

 なんかたぶれっとがブルブルしてんな、ルゼルか?


「姫さま、ナイスでーす。良い画が撮れました」

「はいはい、どう致しまして。あっ、そろそろ試練が始まるって」


「最初はどんな相手なんです? 姫さまが指名したんでしたっけ?」

「そうそう、最初の相手はキリエさんなんだー。どうしても戦いたくてねー無理言っちゃった」


「じゃあ私は撮影頑張りますね」

「はぁ……だろうと思ったよ」


 はぁ、ムルムーはたくましいよ……


「そういえば、姫さまの夢ってキリエさんのお蔭で変わったんですよね? そろそろ教えて下さいよ」

「そうだね、過去にキリエさんがルビアという世界を救った訳なんだけれど…裏世界に負けた世界もあるし、他にも勝った世界もある。世界や星には多種多様の歴史があるんだ…沢山の英雄がいるんだな…って」


「じゃあ前みたいに死んだ世界を復活させるんですか?」

「それもあるけれど、私の夢は沢山の世界の真理や歴史を知る事、かな」


「真理? 星になって真理は知りましたよね?」

「概要だけだよ。星によって、世界によって。それぞれの真理や歴史があるんだ。なんか知りたくない?」


 物語が好きな私にとって、世界で一番強くなるよりも、ずっとワクワクする事。

 星の能力で英雄の生き様を直接知れるなんて最高だし、星の最高傑作世界を沢山見たい。

 その為に、ジョーカーになれば幅が拡がる。


「それは時間の掛かる夢ですね。それでも私はどこまでも付いて行きますよ」

「ふふっ、何年掛かるかわからないよ?」


「良いですよ。ルゼル様に可愛い姫さまの記録を残すという大きな任務を受けまして、晴れて女神の仲間入りを果たしました」

「えっ、知らないんだけれど……ぇっ…もしかして……」


 ルゼルが私の女神になって、眷属やらを増やせるようになった……じゃあ他にも……なんか、私の知らない所で何かが起ころうとしている気がする。気になる、気になるよっ。

 あっ、もう時間だし……


「じゃあ姫さま、行きましょうかっ!」

「う、うん……」


 私の周りは相変わらず、らしいというか……

 きっと、これからもゆるい感じで話が進むんだろうなぁ。

 まぁ……それが楽しいから、いっか。




 ♀×♀×♀×♀×♀×♀×♀



 最後まで読んで戴きまして、ありがとうございました。

 アレスティアさんがキリエさんとの繋がりを作れた所で書きたい事は大体書けましたので、本編は完結です。


 一応…この続きの話はありますが…仮タイトルは『アスきゅんジョーカーへの道』(裏タイトルは『アスきゅんJKになる』)

 アスターの残念女神達とのバトルとか地球へ行くとかあるのですが、私自身忙しくて他が一区切り付いたら考えますかね。


 あとは、評価等いただけると嬉しいです。

 では、次は18禁ばーじょんで会いましょう。

 ありがとうございました!

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