結局私は甘いな

 

 覇道の周囲に、無数の魔法陣……これは天明の汎用型魔法陣か。

 超攻撃特化の魔神装・覇道に、天明の超魔法特化、超再生、超魔力回復、そしてリスポンが合わさったのか……究極生命体アスティちゃん、もうこれは一つの到達点だ。


「私にも、基本属性を使える日が来たのか……ふふっ、ふふふふふふふふ……神位魔法・クリティカリティフレア!」


 うは…魔法陣が全部光って……いきなり神位魔法かよ! そんなら私も! ってそれどころじゃねぇ!


 ──もう、限界です…

 ──くっ…こうなったら……

 結界が焼ける! これ以上はディアとルナリードが持たない!

 赤白青と燃え盛る灼熱の空間を走り抜け、ディア達の所に到着!


『結界にダメージゼロ!』

 結界をぶん殴ってダメージゼロを強制付与!

 くっそ熱いけれど、私にも再生能力はあるからなんとか…

 ああくそ、広範囲過ぎて消費が激しい……

 でも結界は修復されていく、私と閻魔が制御すればなんとか安心だ。


 ……目の前のルナリードが相当な疲労状態…口から血が流れ、今にも気絶しそうな程。

 無理を通り越しているのに、気丈に振る舞うなんて、意地っ張りだな。服やペンダントもボロボロだし……そのペンダント……私の写真だ。

 ……なんだかんだで、嬉しいもんだ。


『アレスティア…すまない』

『別に…謝る必要はありません。私が悪いんですから』


『何も、悪くない。私が天明を作ったから…』

『ふふっ、破壊神さんってもっと冷たい方だと思っていました』


『冷たいさ。アレスティアに、何もしてあげられなかった』

『……そう思うのなら、これからして下さい』


 ……なんか驚いた顔をされると変な感じ。

 私も甘いなぁ。

 まっ、これから生き延びる事が出来たらね。

「「ディア様!」」

 その時、ドサッ…と、ルナリードから少しの距離にいたディアが倒れた。

 ディアも同じく、無理を通り越していたんだろう。

 ロクナナが回復しているけれど効果無し、か。


「ロクちゃんナナちゃん、私がやるよ」

 覇道が次の魔法を放つまで少しだけ時間がありそうだから、結界をスポッと抜けてディアに駆け寄り上半身を起こした。


「はぁ、はぁ、はぁ…」

 呼吸と動悸が激しい、視点も定まっていない。私に身体を起こされた事も気付いていないくらい、限界に達している。

 よくここまで、頑張ったな……


『……エナジーヒール』

 全然回復しない。

 武神装の影響か、回復が下手くそだ……でもほんの少しくらいは回復したかな。


「はぁ、はぁ、ルナ、様、ありがとう、ございます」

『……コーデリア、こんなに無茶して…死ぬ所だったぞ』


「無茶、しないと、後悔、します、から」

『死なれたら私が後悔するよ。ほれっ、エリクサー作れるんだろ? 早く作って飲め飲め』


 制約があるか知らんが予備ぐらい作っておけ。

 ディアが一瞬硬直…震える手でエリクサーを作製し、目を閉じながら飲み干した。

 呼吸は整ったけれど、動悸は激しいままで目も閉じたまま。まだ治っていないのか?


「あの……」

『まだどこか悪い? 目が痛いとか?』


「その……」

『どうした? 喋れないとか?』


 ゆっくりと目が開き、至近距離で目が合った。運命の瞳は…変わっていないんだな。

 ……どうしたよ。真っ赤だぞ。ルナリードかと思ったら私ですまんね。

 少し見ない間に、随分と良い女になっちゃってまぁ。普段の私なら嫉妬しちゃうぞ。


「わ、私の、こと……」

『話したい事は沢山あるけれど、今は回復に専念して』


「……すみません…私…」

『謝んな。私がなんとかしてやる。だから休んでろ』


「私…私…」

『泣くな。(元)お姉ちゃんに任せなさい』


「おねえ…さまぁ!」


 よしよし、私の方が年下なんだがね。

 ったく、コーデリア…私より苦労しやがって。ところでロクナナはコーデリアの娘なのか?

 ロクナナ…私の脇腹に頭ぐりぐりしてくすぐったい。

 幼女はシャイニング亀甲縛りを無視して雌豚の上でご飯中……

 積もる話があり過ぎるけれど、ちょっと離して。

 離して、お願い。


『そろそろ、覇道の追撃が来るから離して』

「お姉さま、お姉さまお姉さまお姉さまお姉さま」


『あの、離して』

「……私も、戦います」


『いや、あの強さ見たでしょ。死ぬよ』

「ずっと、夢だったんです。お姉さまの隣に立つ事が……大丈夫です。絶対死にません」


 夢、なんて言われたら困る。

 その言葉に弱いんだ。

 ちょっとロクナナ、匂い嗅がないでよ。


『アレスティア、私からも頼む。コーデリアの願いを叶えてやって欲しい』

『……覇道の私は、私が止めてあげたい。だから、この戦いは一人で…いや、そもそも閻魔と一緒だから一人じゃないのか…』

「お姉さま…」


 覇道に私は一人じゃないから強いって言ったばかりだな。

 禁薬作製があれば私も延命しながら戦えそうだけれど…

≪一緒に戦ってあげなよ≫

 そうは言うけれど直ぐ死ぬよ?

≪大丈夫、ダメージゼロは口移しで付与出来る≫

 嘘でしょ。さっき殴ったら出来たじゃん。

≪人には口移し!≫

 どうせ見たいだけでしょ。

≪……≫

 ……くそ、黙りやがった。

 普通に付与出来るか試してみるか。


『ダメージゼロ……やっぱり駄目か』

 …くそ、効果ねぇ。

 いや、流石に口移しはしないよ。いきなりチューされたら引くでしょ。

 その前にこの状態でしたらコーデリアの精神が耐えられるか解らない。


「私には禁薬作製がありますから」

『零魔法じゃないと禁薬を作る暇も無いよ。うーん……流石にやっちゃ駄目だよなぁ…』


 私の唇に人差し指を当て、ダメージゼロを指にキープ。おっ、いけるいける。そのままコーデリアの唇に…≪きひっ≫…あぁ! 四散した! 閻魔このっ……


「あ、あああの…何を…」


『…零魔法を人に付与するには口移しらしいんだよ。流石に…』

「――よろしくお願いします!」


 近い近い。裏世界の王の私でチューしたらどうなるか知らんぞ。只でさえノーマルな私でも魅了が追加されるんだからさぁ。

 まぁそうも言っていられない状況なんだけれど……あっ、覇道がまた神位魔法を放った。結界内が雷の竜巻でピカピカーって、凄い事になっている。

 今は属性魔法を使えるから、私より調子に乗っている状態で狙って来てはいない…か。

 しゃあなしに……


『……後で文句言うなよ。ダメージゼロ』

「んっ……」


 ……

 ……

 付与出来た。

 閻魔てめぇ後で覚えていろよ!

 こんな時に自主規制したくねぇんだからな!

≪怒っちゃやーよ≫



『……コーデリア、行くぞ』

「は、はひっ…脚に、力が…」


『……雌豚、なんとかしろ』

「かしこ。十八禁魔法・感度リセット」


『あっ、破壊神さん…あそこでいじけている方に伝言をお願いしても良いですか?』

『あぁ…目に見えて落ち込んでいじいじしている奴にだな。良いぞ』


『ありがとうございます。約束、守って下さいね。と、お伝え下さい』

『ん? 分かった』


 ルナリードにどんよりとしたルゼルへの伝言を頼み、復活したコーデリアと共に荒れ狂う結界内へと足を踏み入れ、覇道の元へと向かった。

 やっぱりダメージゼロを付与して良かったな…入った瞬間に雷に打たれて爆発に巻き込まれて……これじゃあ致命傷だよ。


『コーデリア、私の運命はどうなっている?』

「視えません。どちらのお姉さまも、高い所にいますから」


『そっか。自分の運命は?』

「……視えません」


『今更嘘なんて吐くな。言ったろ、なんとかしてやるって』

「……お姉さま…素敵過ぎます……」


 もっと落ち着いた再会だったら、ゆっくり話せたけれど…今は必要最低限。生きるか死ぬかの話。

 コーデリアは世界を破壊したから天異界の牢獄に行く可能性が高い。その前にこの戦いで死ぬかも知れない。多分どちらかだろう。

 ルゼルが復活してくれたら聞きたい事もあったけれど、私が少し突き放してしまったから、ショックで立ち直れていない。私の事になるとメンタル弱いからなぁ……


 っと、覇道の元に到着。

 はははっ、楽しそうに笑うなぁ。


「やっと来た。禁薬作製に頼るつもりだね」

『そうだよ。私は一人じゃ何も出来ないからね』


「人は頼るべきだが、期待はしないものだよ」

『他人はね。コーデリア、エリクサー量産よろしく! リミッターゼロ!』

「はいっ!」


 覇道は天明という永久機関を手にした。

 それなら、私もコーデリアの量産エリクサーという永久機関で戦うのみ!

 これは卑怯ではない! 戦略だ!


『はっはっはー! 先ずは最初の全力全開! 深淵神位魔法! ダークネスフォース・ジ・アビス!』


 深淵の闇で、全てを塗り替えて、私色に染めてやるよ!

 さぁ、二撃目準備!

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