目の前に居るのは、私が望んだ未来の一つなのかもね

 

「まさか、武神装だったなんてね。驚いた」

『驚け驚け、今の私は裏世界で一番強いらしいぞ』


 恐らく、ルゼルよりも強くなっている。実感は全く無いけれど、あくまで恐らく。どう強くなったとか、最近インフレが凄かったから実感湧かないけれど、とにかく強くなったと思う。

 閻魔の声は一応聞こえるな…やりすぎるなって言っている。そんなもん分かっている……使っちゃいけない力がある事ぐらい。


「楽しみだ…破壊神剣・覇剛!」

『零魔法・ダメージゼロ。衝撃ゼロ』


 覇道の力任せの一撃を、ふんっと不動で弾いた。

 私のしょぼいダメージゼロとは桁違いの力だな。ルゼルのメガエナジーストライクくらいなら動かなくても弾けるよ、きっと。

 凄いな武神装って……

 いや、私が凄いのか。

 《調子に乗るでない》

 調子に乗らせてよー。


「ふふっ、凄い。覇連撃!」

『はっはっは! 無駄無駄無駄無駄!』


 破壊の一撃を受けてもビクともしない!

 腹を突こうが膝の皿だろうが喉だろうが痛みはない。脳天からの振り下ろしもガキィィィンと防ぐ。

 凄い凄い! 完全に負の根源の最上位変換だ。

 でもこのまま攻撃を受け続けていたら私の時間が来てしまうか……


「これならどう? 私流奥義・黒滅!」

『効かないね! 不幸ダメージ・因果!』


「かっ……あっ」


 どす黒いエネルギーを弾き、覇道の身体に無数の穴が開くと、膝を付いて血をダラダラ流し始めた。

 不幸をダメージに変える概念攻撃、これだけではダメージなんて入らない。私はハッピーだから……でもそれに私の因果、美少女百人やらを追加したらそれはもう不幸過ぎて大変だ。不幸ダメージの余波がヘルちゃん達の結界に風穴を開けているくらいだし…

 あっ、藁人形ちゃんってどうなった!? 居ない…もしかしたら…私が来る前にもう…くそ…藁人形ちゃん…


『魔神装・覇道は超機動、超攻撃防御特化……真っ直ぐな強さだ。真っ直ぐだから隙がある…私の様な、ねちっこくて捻くれた武神装には敵わないよ』

「ははははっ! それなら力で、捩じ伏せてやる! メガエナジー・パワー!」


『メガエナジー、か。私はその力に憧れた。累積ダメージ・因果』

「ぐ……負け、無い! 超覇一閃!」


『ゼロシールド。純粋に力を求めていた…そう思うようになったのは、なんでだろうな』

「まだまだ! 超覇勝撃!」


『効かないよ。ゼロストライク』


 メガエナジーで強化された覇道の一撃はとても重い。重いなんて表現して良いのか分からないけれど……

 あっ…防ぐ度に結界が……


 ──これ以上抑えきれません! 結界に私の禁術を乗せます!


 ディアが叫んでいる。確かに結界にヒビが発生して危険だ……

 ──駄目だコーデリア! 今の状態で禁術なんて無茶だ!

 ──でも! 他に方法は無いじゃないですか! そこの幼女は戦力外ですし!

 ──お腹……空いた……


 あれ? ヘルちゃんが居ない…

 《イリアスたんの所だよ》

 見てたのね。


 ちょっとそこはギリギリだな。

 禁術を使ったらディアが犠牲になる…か。

 それでも守れる保証なんて無いよなぁ……ちょっと待て……ルナリード、なんて呼んだ?


「隙あり! 魔法破壊!」

『ぐぺっ!』


 痛ーーっ!

 《気を抜くからだ》

 閻魔さんもリアちゃんとヘルちゃん見てた癖に!

 《私がダブル聖女を見逃すとでも?》

 気持ち解るのが嫌!


「超破壊撃!」

『やばっ、黒異天体!』


 ローブを開いてズボンのポッケに仕舞っていた黒異天体解放!

 私のポッケを犠牲にして、覇道は吹っ飛んだ。幸いズボンの下はスパッツ…パンツ丸出しは免れたな。

 《横から見たら股間からすげービーム出てたぞ》

 言うなや。


 ──ねえヘルたん、アスきゅんって今……どこからビーム出したの?

 ──股間ですね。


 恥ずかしくて超攻撃魔法使っちゃうぞっ。

『使っちゃ駄目』

 使っちゃいけないって言われると、うずうずしちゃうよねっ。

 《あれはほんと駄目だから》

 えー…駄目って言葉はスパイスなんだよ?

 反物質生成って気になるじゃん。

 本当に駄目?

 《だーめ》

 ぶー。


「はぁ、はぁ、やるね。やっぱり、性格は違うみたいだ」

『そりゃもちろん。私という超美少女を切り離した罪は重いよ』


 まともに会話をする気になったかね。

 疲れが見える…そろそろ限界なんじゃないか?


「顔は一緒だから、私も超美少女だね」

『ちっちっち、甘いね。超美少女はただの美少女じゃあない。決定的な違いがあるのさ!』


「教えてよ。つまらなかったら許さないから…超破壊奏!」


 まだ答えていないんだから攻撃やめろし。

 破壊の力が真上から墜ちてきた。

 ゼロシールドの張り直し……気を抜かなければ破壊されない、筈っと。

 よし、防いだ。


『それはね…私か、私じゃないかだよ!』

「……」


『ふっふっふ、超美少女の私には、超可愛い必殺技がある!』

 《無いぞ》


 覇道は私が深淵に覚醒した時みたいな容赦の無い真面目な性格。

 私は覇道が切り離したシリアスにふざけるお調子者の性格。

 どちらも私だから、片方が消えたら私じゃなくなりそうで……なんか遠くからため息が聞こえて来た気がする。


「……咎星剣…私に見せてよ、あなたの力…」

『無視…だと……なんだ? あの変な力…』


 覇道が咎星剣を掲げると、今まで感じた事の無い力を感じた。

 この力…なんだ? 何処かで見たような…

 深淵の瞳がんばれー…うん、わからん。


 閻魔さん、教えて下さい。

 《咎星剣は、使う者によって能力が変わるから解らない》

 へぇー。じゃあ分離前の私は、魂を斬る能力だったという訳かな? 因みにルゼルは?

 《絶対固定ダメージ…どんな防御も貫いて、そっと触れるだけでも固定のダメージを与える。後は、インフィニティパワー…力を溜めれば溜めるほど際限無く攻撃力が上がる。後は……なんか二つくらいあった筈》

 それ反則じゃね?


「……はぁ、なるほどね」

『何の能力? アビスレーザー』


「それはね…変換」

『…それは咎星剣の元々ある能力だよね?』


「焦らないでよ。この能力は一回しか使えないんだから」

『それは、天明……』


 天明の身体を取り出して……これは、嫌な予感しかしない。

 《……止めろ。取り返しが付かなくなるぞ》

 止めたいんだけれど……身体が動かないんだ。

 《よく言う。笑っている癖に》

 違う…とも言い切れないか。私が強くなる瞬間って…やっぱり嬉しい。

 例え違う私だとしても……もちろんこれがおかしい事だって解る。解るけれど、私は覇道が力を得る事を喜んでいるんだ。


 だってそうだろう……私なんだから。

 私は自分が好きだ。大好きだ。

 覇道だって、自分が好きなんだ。

 見届ける事が、自分への礼儀。


「究極能力・超高進化」

『……ははっ』


 天明と、合体した。

 背が伸びて大人の姿に成長し、漆黒の鎧の後ろから黒い翼と、蜘蛛のような翼が生えた。

 それに魔力が跳ね上がった。

 普通の吸収とは違うな。己を失わずに最大限に天明の能力を行使できる…永久機関じゃないか。

 …ちょっと、まずいかな。


「ははっ…ははははははははっ! 私は、もう、死なない!」


 閻魔さん、私は天明と合体した覇道に勝てる?

 《さぁ、アレスティア次第……かな》

 なるほど……咎星剣をつかったにしろ、私は裏世界の王を超えようとしているのか。

 この道を突き進む覇道は誇らしいね。本当に。


 でも駄目だ。覇道は私が止めないとどこまでも突き進んで孤独になる。

 私が死んだら、守ってくれる人も、側に居てくれる人もいない…

 そんなの、私が耐えられる訳ないよ。

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