……初めまして

 

 ……んー……どうやら寝ていたみたいだ。

 戦闘音…ああそうか、ルゼルが来たのか。

 目は、開く。身体は元に戻ったみたいだ。負の根源は解除されていない、か。

 人形の身体とはいえ、死んだら元の私も死ぬから困ったものだ。

 ……なんだろう、視界一杯に雌豚がいる。とりあえず殴るか。


「ご主人さまぁぁ! お目覚めの一発ありがとうございますぅぅ!」

「状況説明して」


「この紐を引いて下さい」

「嫌。この首輪やるから説明して」


「こ、これは……」


 仕方ないのでミーレイちゃん用の首輪を渡すと、蕩けるような表情で喜んでいる。いや早く教えなさい。着けなくていいから。

 ああ駄目だ、失敗した。ハアハアして聞いちゃいねえ。

 雌豚を退けると、ロク、ナナ、テンちゃん、他の子達は遠巻きに私を見ていた。

 でも私に近い人物もいるな。私に何かを伝えたいような、物欲しそうな表情で正座しているお姉さん。


「じゃあ、ディアさん。状況説明、してもらえますよね?」

「……はぃ」


 さあディアさんよ、色々飲み込んでやるから先ずは説明してくれ。雌豚じゃあ話が進まないんだよ。ロクとナナ達に説明は…したみたいだな。結局ルゼルに依頼したのかね? そうなら一応味方という訳だけれど……


「あれから何分、戦っていますか?」

「ルゼルさんは、三十分ほど闘っています」


「天明はどうしたら死にますか?」

「完全に殺すことは不可能です。色々研究しましたが、強力な封印を施すしかありません」


「強力な封印、か。天明は自力で解除しましたよ。破壊神の封印を」

「…はい、ですが私が完全な封印禁術を組みました。これを使えば大丈夫です。」


 ふぅん、完全か。完全に殺す手段が無い以上封印しかない。

 身体は、動く。早いとこ封印とやらをしないと、天明がどんどん強くなる。現に私が戦った時より強い。

 ママンの様子は遠過ぎて見えない。転移で移動するか……転移したら巻き込まれて死ぬとかない、よね?


「じゃあ早速行きましょうか」

「待って下さい。その前に、お願いがあります」


「……一応聞きましょう」

「封印する前に、破壊神様の封印を解かなければなりません。お…アレスティアさんの力が必要なのです」


「……破壊の力が必要って訳ですか」


 静かに頷くディアは、少し気不味そうに私を見据えた。

 ……破壊神は私の血縁って知っているんだろうな。

 首に手の形の痣がある…ママンに首を鷲掴みにされて連れて行けと脅されたんだろう。可哀想に…力の差は歴然だったもんな。

 あっ、きっとルナリードが居るって聞いて、ママンが見ていない時に私がルナリードと会うかもと思って妬いてんな。

 ふっふっふ、だからルナリードの近くで闘っているんだね。お見通しだよっ!

 うむ…嫉妬するママンを拝める機会なんてそうそう無い……よし、封印を解こうではないか。

 どうせルナリードは私に興味なんて無い筈だし。


「どうか、お願いします」

「いいですよ。あっこの包丁くれませんか?」


「あ…それは、はい。多分良いと、思います……メイドさん、良いですよね?」

「あぁ、元主様のものですが、いいんじゃないですか?」


「じゃあ貰いますね。雌豚、転移で連れて行け」

「かしこ」


『ア、レスティア……』

「ん?」


 なんだ? あっ、藁人形ちゃん! 生きていたんだねっ! 数珠ちゃんは…いない、か。いや、藁人形ちゃんの紐が黒い…目の位置に数珠の玉が二つあるし…合体したな。


『守ってくれて…ありがとう』

「守って? あぁ…」


 黒異天体解放の時に、抱えていたな。

 ウネウネキシキシして喜びを表現して、夜に見たら恐いな。


『お礼に、呪って、あげるね』

「うん…ありがとう」


 負の根源状態だから呪いは良い効果になるけれど、普段はやめてね。

 この呪いは、癒し効果…

 まぁ精神安定になるからいいか。


 さあ雌豚よ、転移するがよい。



「「……」」

「あっ、場所間違えました」


「おい、ぶっ飛ばすぞ」

「はい、ぶっ飛ばして下さい」


 早く転移しろよ。

 ママンのエナジーストライクの射線上じゃねえか。

 ディアはよくこんな奴と一緒にいるよな……いやいや早くしてよ。


『ん? アスティ避けろよー。エナジーストライク』

「あっ、自分ですれば良いか。転移」


 危ない危ない。射線上に居た天明は、エネルギーに呑みこまれてエナジーバリアで閉じ込められていた。

 ママンがチラ見している。ルナリードを復活させろと言うのね。

 丁度瓦礫の近く、ルナリードの石像は……あったあった。


「ご主人さま、どうしてぶっ飛ばしてくれなかったのですか? ぷんぷんっ」

「あ? 死ぬだろ。で、どうするんですか?」


「……この封印は邪悪、混沌、破壊の力を一定値当てれば解除されます。私が邪悪と混沌を使いますので、破壊の力をお願いします」


 雌豚が倒れた石像を起こして、ディアが邪悪と混沌の力を石像に当てた。

 ただ当てるだけで良いんだね。


「…破壊」

 私が破壊の力を当てると、石像の表面にヒビが出来、徐々に剥がれて色のある表面が現れてきた。


「あぁ、やっと……この時が…」

「はいじゃあ封印は解除したんで加勢してきます。転移」


「えっ……」


 お願いされたのは封印解除だからね。ルナリードと話す義理は無いよ。というか話す事が無い。

 呆然としていたディアを置いて、チラ見からガン見に変わっていたルゼルの元へと転移した。


『…アスティ、良いのか?』

「ええ、お願いされたのは封印解除ですから」


『我を選んだのだなっ』

「あぁ……なんか話すの恥ずかしくて。そうそう、ディアが完全な封印を組んだみたいですよ」


『ふぅん、信用出来るか?』

「出会ったばかりですから、出来ませんね」


『…そうだな。ん? 天明に動きがあったから行ってくる』


 もう何回殺されたのだろう天明の元へ行ってしまった。私が直ぐに来たからにやけ顔のルゼルを見られたから良しとしよう。

 私はどうしようかな…身体が治ったばかりであまり力を使えないし、座って観戦しようかな。

 よっこいしょ……椅子は無いから丁度良い瓦礫に座ろう。

 はぁ、ルゼル強いなー……はぁ。


「……」

『……』


 エナジーストライクとか黒異天体解放級に強いし。天明はルゼルを倒さないと私には到達しないから、ざまぁなんて思ってみる。


「ぁの……アレスティアさん?」

「なんですかディアさん?」


「あの、ですね。えー…ルナリード様の封印が、解けました」

「おめでとうございます」


「え…ありがとう、ございます。それで、ですね、ルナリード様が、アレスティアさんと少し話したいみたい……なんですよ」

「あー、天明をどうにかするのが先決ですよね? ということで行っていいですよ。私は力を使い過ぎたので休憩中です」


 ……早く天明をなんとかしなよ。封印するんでしょ。話すのは後でいいじゃん。

 ほれいけっ、しっし。

 私はチラ見が加速しているルゼルを眺めるので忙しいんだよ。

 ……誰かが来たな。

 さて、何を言ってくれるのかね。


『……礼を、言おう』

「……はい。どうも、初めまして、アレスティアです」


『……ルナリードだ』


 破壊神さんが隣に立っている。

 なんというか、変な感じだな。

 懐かしいような、むず痒いような、感じた事の無い変な感じ。

 まぁ何かを期待している時点で、私はこの人を親だと認識しているのか……

 認めたくはないけれど。


「……」

『…会えて、良かった。ア、アレス…ティア』


「……」

 幸い銀仮面をしていて良かったよ。

 眉間のシワがバレないからねっ。

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