挿話・運命に抗う者10

 

 殺気で、押し潰されそうだ。


「彼女の力がどうしても必要でして、用事が済み次第安全に帰します」

『信用出来ない。今直ぐ返せ』


「それは出来ませ…」

 ん…と言う前に心臓を貫かれた。

 容赦…無いな。予備動作無しの高速抜き手なんて躱せないよ…


『アスティは何処に居る?』

「教えられ…」

 ません…まで言わせてよ…首を跳ねられてしまった。

 ……うわ…リスポンした場所で待っていた。


『こんなに頼んでも駄目か?』

「」


 反応する前に殺さないでよ。

 頼んだの基準が解らないし…

 ちょっと…まずい、不死鳥の心の効果が切れる前に距離を取らないと。


『メガエナジー…』

「――仙術・神光分身!」


 危なかった…神聖属性で強化した私の分身を百体出現させた。

 邪神薬の効果で、一体一体はここに来る前の私程の強さ…凄い、力が漲っている。


『ふむ、この結界を壊して自分で探すか。メガエナジー・ショットガン』

「「「リフレクトミラー・フォース!」」」


 散弾のエネルギーならっ!

 よしっ、跳ね返した!

 数体やられたけれど、直ぐに復活出来る。邪神薬の効果も加わって、力も上がった。最初からこれをすれば良かったな。


『むぅ、本気を出せばこの世界の者達が死に絶える…歯痒いな』

「禁薬作製・エリクサー」


 魔力切れや体力切れは無いから、このまま行けば黒金を超えられるかもしれない。

 散弾を倍加して跳ね返し、黒金に直撃したけれど、まるで効いていないな。


『……』

 なんだ?

 黒金が私の様子を観察し始めた。目的がバレた?

 それかずっと受け身だから不振に思ったか…ならば攻める!


「「「古の光に照らされ、優美に輝く月の都よ。悪しき者を迷わし、聖なる光で浄化せよ! 月鏡の大迷宮!」」」


 私百体の儀式魔法。

 神聖、深淵、混沌、空間属性を融合させた大迷宮に、天異界の者達諸とも黒金をご招待だ。

 私というゴールに辿り着かない限り、出る事は出来ない。

 それに、大迷宮に居る限り、少しずつエネルギーを吸収出来る。

 これを使えたのは、僥倖だったな。


「……本当に、迷宮に居るのかな?」


 黒金は、私を見据えたまま動かなかった。

 それが凄く不気味で、この迷宮が直ぐに壊される気がしてならない。

 規格外な強さ…きっと邪神薬じゃ、超えられないな。

 天明のように、本当の能力じゃない限り。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ……三時間、経った。

 正直、ここまで持つとは思わなかった。急激に強くなった後の、完璧な封印禁術の術式を組めた。

 きっと外では、天異界の精鋭による包囲網が敷かれているだろう。

 この迷宮に触れたら呑み込まれるけれど、もうすぐこの迷宮は解除される。


『…ディア、目的はなんだ? お前に殺気が無さすぎる』


 黒金が私に辿り着いた。

 イチでも三ヶ月掛かった迷宮を三時間…凄いな。


「愛する人を守る為。という目的ではいけませんか?」

『…あぁ、そうだな。我も愛する娘を助けたいんだ』


 娘…か。

 お姉さまは黒金を母と呼んで慕っていた。

 誰からも愛され、黒金をも虜にする…なんという天運の持主なのだろう。

 いや、それだけお姉さまが魅力的という事。

 助けたい、守りたいという想いは…一緒、か。

 でも、黒金に依頼する場合…膨大な報酬を支払わなければいけない。


 私には、それを支払う能力は無い。

 これからも。


「天明…という者を封印する。これが私の目的です」

『それに、アスティが何の関係がある?』


「今……ルナリード様が天明を抑えている状態です。破壊の力があれば、完全な封印が出来ます」

『……そこに、ルナリードが、居るのか?』


「は…はい。えっ、はい、あの…」


 な、なにこの殺気とも違う圧力…黒金が一歩踏み出す度に後ずさってしまう…


『我も、連れて行け』

「えっ…それは…」


『天明だかなんだか知らぬが、手伝ってやる。だから早く連れて行け』

「でき…」


『ぁあ"?』


 ません…なんて言えなかった。

 既に首を掴まれて、殺される寸前だった。

 例え不死鳥の心を飲んでいたとしても…この眼光は…こ、怖い…

 これは、脅しだ。

 絶対に肯定以外認めないという…


「……ます」

『よし、行くぞ。と、その前に…ルナリードと運命の瞳…ディア、以前我に会ったと言っていたが、アラス出身だな?』


「…それはもう死んだ人間です。行きましょうか」

『ふぅん、まぁいい。早く行くぞ』


 正体はバレているのかな。

 でも、この封印禁術さえあれば……



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 無理矢理付いてきた黒金と共に、お姉さまが待つ拠点へと戻って来…


「な、なんで…」

『…あれが、天明か?』


「はい…はっ! お姉さまが!」


 黒いローブを着ていたからお姉さまだと解るまで時間を要してしまった。

 …まずい! まずいまずいまずいまずいまずい!


 お姉さまが天明と戦っている!

 それに何故ルナ様が居ない!

 いやそれよりも止めないと!


『あれを倒せば良いのか。ふむ…』


 黒金が首を傾げながら戦闘場所へ向かって行った…

 ……黒金の強さなら…


 いや…もっと駄目だ…

 天明が邪神特性で強くなる!


 あぁもぅ!

 止めないと!

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