挿話・運命に抗う者9

 

『その薬…正気か?』

「…えぇ、もちろん。禁薬作製・龍の涙」


『己を犠牲にしてまで叶えたい夢…か』

「ぐぅっ…ふふっ、犠牲に出来るものがある事は…幸せな事です」


 身体が熱い…邪神薬で能力の限界突破をしながら、龍の涙で身体能力を上昇させ身体の変質を防ぐ。


 私はルナ様とGの能力の一部を引き継いだ。

 ルナ様からは星天魔法、神聖魔法、深淵魔法、封印禁術、ダメージ半減、超回復、超逃げ足と安定した能力。

 Gからは禁薬作製、邪悪、混沌、呪術、仙術、卵肌、ゆで卵召喚、オラクル…という尖った能力ばかり。


 黒金の事は出来るだけ調べた。

 天異界での立場、能力、戦闘スタイル、経歴。

 裏世界序列二位、核星使ルゼル・タイタニア。

 ルナ様よりも強く、互角に戦える者は裏世界の王と呼ばれる存在と、天異界序列一位筆頭…ラグナレヴィア。


『くくっ、確かにそうだ。メガエナジー・スピード』

「――がっ!」


 嘘でしょ!?

 速すぎる! 一瞬なんてレベルじゃない!

 切り離した次元の壁に衝突して、肺の空気が全て吐き出された。

 ただ殴られただけでこの威力…


『…天獄拳』


 うゎ…痛いなんて思っている暇なんて無い!

 追撃を避けなきゃ!


「がっ…は…」


 このスピード…まずい。邪神薬の効果が追い付かない。

 避けようと思った時には、黒金の拳がみぞおちにめり込んでいた。

 黒金は真っ直ぐな黒い瞳で私を見据えて…油断や慢心なんて微塵も無い。くそっ、また追撃が来る。


『獄落』


 と思った瞬間には地面に叩き付けられていた。

 想定外も良いところ。

 レベルが違う。

 経験値が違う。

 格が違う。

 次元が違う。

 これが…頂点の強さ。


 空中に留まり、無表情に巨大なエネルギーを抱えた姿は…あらゆる災厄を目の当たりにした無力感に襲われる。

 でも、少しだけ…近付いた。


「…リフレクト…ミラー…フォース」

『その身に刻め、エナジーストライク』


 はははっ、強いや。

 純粋なエネルギーの塊を跳ね返す事は難しいな…反射魔法がヒビ割れてきた。

 でも…諦めない。


「もっと、力を…呪術・邪悪なる生贄」


 邪悪の力を解放。

 反射魔法の力に変換する。

 これなら…


『くくっ、面白い奴だ。二撃目…耐えきれるかな?』


 …今でギリギリなのに耐えきれる訳が無い。

 手加減無し、か。


「呪術・混沌なる生贄」


 やってやるさ。こんな所で諦めない!

 混沌の力を解放。エナジーストライクを侵食しながら私自身の強化。


『ほぅ…耐えるか。ではとどめだ、ギガエナジーストライク』


 ぅ…そだろ。

 デカイ。

 ルナ様の破滅の月歌に匹敵する大きさに、荒れ狂う海を凝縮したような超エネルギー体…この世界ごと吹き飛ばす気か…


「ぐっ…うぅ…」


 ズンッ! と全身に今まで感じた事の無い強い衝撃。

 ギガエナジーストライクが全てを、世界をも壊す勢いだ。

 …ルナ様より破壊が似合うよ。

 耐えきれるか…いや、無理かも…


『硬いな。だがそれだけだ。そして、点の攻撃に弱い。黒槍』


 まだ…強さは足りない。

 何か打つ手は…

 呪術中に仙術は使えない…

 逃げるなんてあり得ない。

 卵肌は戦いとは関係無い。


「ぐふっ…」

 黒い槍が…反射魔法を貫いて、私の腹に突き刺さった。

 まずい…穴が空いた。

 修復しないと。

 ヒビが…広がっていく…


『ここまで耐えられたのは、久し振りだな。楽しかったぞ、エナジーチェンジ・ブレイド』


 なんだ…エネルギーが…変化した。

 はははっ…本当に…笑ってしまう強さだ。

 エネルギーの塊が、巨大な剣に変化。

 真っ直ぐに、反射魔法を貫いた。


「強いなぁ…禁薬作製・不死鳥の心」


 死の瞬間って…こんな感じなんだなぁ…と、漠然と思ってしまう程に、巨大な剣が眼前に迫り、見事に押し潰された。

 痛い…どころじゃないか。

 死ぬのは嫌だなぁ…記憶が飛ぶから…

 でも…一番の目的は達した。


「いやいや素晴らしい…流石は主様の娘。十八禁魔法・亀甲縛り」

「――ふにゃっ!」

「アレスティアちゃん!」


『ん? アスティ? 誰だ!』

「少し…お預かりしますね。ではでは」


『エナジーブラスト!』


 ……あぁ、危なかった。えっ…追撃?

 丁度復活した場所が爆発…また死んだ。


 ……はぁ、復活…不死鳥の心は、一定時間普通のリスポン能力が付く。一回限りじゃなくて良かった…邪神薬と併用すると効果倍増だし。


 お姉さまは居ない。メイドさんも居ない所を見ると、お姉さま誘拐作戦は成功した訳か。

 それに、邪神薬の効果で大分近付いた。これで逃げる事くらいなら余裕…


『お前…アスティを、どこへやった…』


 後は…この怒れる黒金様から、どれだけ強さを得られるか…だな。

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