いやぁ…眼福です

 

『来るぞ』

「やるかの。すまぬが賢樹、己の身は己で守ってくれの」


『解っている。だがもし、儂が力を使い果たしたら…儂を討ってくれ』

「…考えておく」


 邪気が強くなってきた。

 キリエの時みたいに、黒い霞がモンモン立ち込めていく。

 本当にアテアちゃんだけで戦うのか? おや?


『賢樹さまぁー!』『女神さまぁー!』『私達も戦いますー!』『がんばりますぅ』『……』


 妖精さんだぁー!

 初めて見たー!

 あっ、クーちゃんが薬で幼女妖精になれるから初めてでは無いけれど、本物の小さい妖精は初めてだな。

 へぇー。

 ちっちゃーい。

 私の手の平サイズ。

 持って帰りたーい。


「お主ら久しいのう。助力感謝するのじゃ」

『任せてくださーい!』『ギッタンギッタンにしてやるんだからー!』『準備体操ー!』『緊張してきましたぁ』『……誰?』


 妖精って普段何処に居るんだろう…気配すら無いもんなぁ。

 五体…五匹? 五人…かな?

 一人一人顔も違うし、髪の毛とか違うから属性も違うのか?

 赤、青、緑、白、黒…

 それにしてもよく喋るなぁ…アテアちゃんの周りをくるくる回っているし……女神と妖精…写真に納めたい。

 一人おとなしい妖精さんが、アテアちゃんの胸の上に座って私の方を眺めている…胸に座れるスペースがあるのかよ…くそっ、幼女につるぺた継続の呪いを掛けてやりてぇ。


 ――オオォォオォォオ…


 来た…地の底から這い出てくる怨嗟の呻き。

 場所は賢樹から数百メートルの位置。次元の歪みの向こう側だ。

 地面から生えるように、真っ黒い円柱が伸び…周囲の森が一斉に枯れて荒地と化した。


 見やすくなったのは良い事なのか? でも自然破壊はよろしくない。

 円柱は高さを増し、十メートル、二十メートル、三十…四十…五十…キリエの時と同じくらい。


『守りは任せろ。深緑の守護』

 賢樹から緑の光が発生し、アテアちゃんと妖精さん達を包む。

 防御と魔法防御が上がる魔法……というか何故私は魔法を視られる? 能力が使えるのか?

 試してみよー、深淵の瞳ー。


「なんじゃ…扉が大きく…」

『力が増したー!』『気を付けてー!』


 ……ごめんなさい。

 本当に…ごめんなさい。

 いや、ちょっと待ってよ。

 何故干渉出来る?


 ――グジュ…ビギュ…ダグュ…


 ルルの妖精さんの力か? いや、それだと存在するだけで能力は使えない。星の力? うーん…記憶だと思うから干渉は出来ない筈。

 まるで私が魂だけこの場所にやって来たみたいな…この場所…過去に…私って今どんな状態?


 過去? 過去と言えば…時間。

 時間と言えば…リアちゃん…


 あっ…あー…あぁー…もしかしたら…リアちゃん、暇だからって私に何かしやがったな。

 魂だけ過去に飛ばしたとか…確かリアちゃんって、時間逆行くらい出来るらしいし。

 でも…それってこの時間軸を知らないと出来ないよね?

 幼女に聞いても忘れたって言うだけだし…



『ギャギャ!』『グギャギャ』『グブブ』『オゴォォオォ』


 色々考えている内に、円柱から真っ黒い魔物が飛び出してきた。

 種類も前と同じ…黒いゴブリンや黒いオーク。

 蟻の巣から蟻が一斉に出てくるように膨大な数だ。

 前と違う所を探してみる…うん、私が円柱を大きくしたくらいだな。


『来たなバケモノ! 赤き力よ! 炎帝フェルドラージ!』

 赤い妖精さんが大きな大きな炎を出し、押し寄せる魔物を焼いていく。一気に数百倒したー、すげー。


 小さな身体なのに、こんなに凄い魔法を放てるんだな。

 …よく視ると、妖精の身体は魔力体…魔力の塊だ。だから周囲の魔力を使いながら上手く魔法を放っているのか。


『私も私もー! 青き力よ! 水帝ハイドロリーム!』

 青い妖精さんが大量の水を出現させ、無数に発生する魔物を呑み込んでいく。

 呑み込まれた魔物は渦に巻き込まれ、空高く打ち上げられた。


『いっくよー! 緑の力! 風帝トルネードファーガ!』

 打ち上げられた魔物達が粉微塵に斬り刻まれていく。

 魔物の欠片が黒い雨のように降ってきた…ばっちい。


『みんな私の分も残してよぉ。黒のちからぁ。闇帝ジェノサイドホール』

 おー…地面が黒く染まり、魔物達が底無し沼に嵌まる様に沈んでいく。

 これ良いな。罠に最適だし、時間稼ぎにもなる。


「おー、期待以上じゃ。中々やるの。お主はやらぬのか?」

『……頑張る。白の力…光帝プルガシオンレーザー』


 白妖精さん…少しおどおどしているのが可愛い…私の推しだな。

 大きな光の球体が出現。

 そして球体から極太レーザーが射出した。

 うおーすげー。

 ソルレーザーの何倍の威力だろう…レーザーが通った後は硝子質に変化した地面だけが残っている。


 妖精さん達が魔法を放って次々と魔物を撃破し、かなりの優勢。

 アテアちゃんはやらないのかな?

 がんばれー。


「はぁ…わっちもやるかの。十を超え、百をも超える苦しみ…鋭利な涙が溢れた先は、慈悲なる歓喜。神級魔法・千苦の光」


 上空に大きな魔法陣が出現。

 その魔法陣から無数の光の針が、豪雨の様に降り注ぐ。

 一つの針で魔物が息絶えていくから、一匹残らず殲滅していった。


 いやー、凄いなぁ。

 邪族進行の第一波は完全勝利だ。

 でも…ここからが本番。


『気を抜くなよ。強いのが来るぞ』

「確かに…そうじゃな」


 黒い柱が凝縮していく。

 五十メートル超から、四十、三十、二十? えっ、十メートルまで凝縮した。

 キリエの時…インガラは三十メートルくらい。

 これ、どうなるの?


「キャハッ、キャハハハハ!」


 円柱の中から、甲高い笑い声が響いた。


『女神さまぁー! こいつ強いー!』『うー、どうするー?』『やるっきゃないしょ!』『困ったなぁ』『……怖い』


 妖精さん達がビビる程、禍禍しい気配。

 これは…邪族の深淵の力じゃない。

 混沌の力。


「キャハ、神が一柱…弱い星かぁー、ハズレだなぁーキャハハ。まぁでも、滅ぼせば混沌神様に褒めて貰える」


 円柱から出てきたのは、黒いベレー帽を被り、黒い軍服を着た黒髪の少女。右手に、蛇の頭みたいなぬいぐるみを装着していた。


「ちっ、お主ら下がっておれ。わっちがやる」

『女神さまー気を付けてー!』『私達もやるよー!』『……また、誰か来る』


「僕は混沌神様の一番弟子、サースト。弱者に名乗る僕って優しいーキャハハハハ!」

「混沌神…ちと厄介じゃの。……あ? なんじゃ?」


 混沌神の一番弟子…か。まともな奴ではなさそうだ。

 ……ん? また誰か来る?

 黒い円柱からじゃない。

 キリエが入った次元の歪みから。


「よしっ、とタイムリープ成功! あれ? 世界樹の前で戦う歴史なんてあったかな? んー? あれー? 世界樹じゃ…ない?」


 え……

 うそ……

 呑気に世界樹を見上げる桃色の髪の超美人お姉さま。

 でも今と雰囲気が全然違う。なんか、顔に傷痕があったり、初々しい感じ。

 ……眼福。


「おっ、遊んでくれる奴が増えたねぇキャハハ」

「なんじゃお主、早く逃げるのじゃ!」


「えー…と。これって…もしかして…違う世界? あぁ…まじかぁ…私ってまた迷子なの? はぁ…またサティに怒られるぅ…」


 こんな状況で項垂れるマイペースさ。

 やっちまったーっていう顔でおでこをペシッと叩く古くさいリアクション。

 間違いない。

 若い頃のリアちゃんだ。


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