馬鹿野郎…

 

 一言で言うと……格が違う。


『おや? これはどういう事でしょう。邪悪と混沌を持ち、星の力を内包する下等生物。非常に興味深いですねぇ…解体して調べてみましょうか。その前にこの世界を調べましょう…調査』


 ロンドは軽い口調で笑いながら、自身を確かめるようにコキッコキッと身体を鳴らした。

 ……どうすれば良い。

 現状…羅刹煌を倒すのに半分以上力を使っている。

 エーリンが戻って来たとしても、勝機は限り無くゼロに近い。

 それでも…


「…負ける訳にはいかない。私が死んだら…世界が終わる」

『ふむふむ。この世界は…過去に深魔貴族の進行に失敗した世界ですかぁ。女神アラステアが星の力を代償に防衛。おや? おやおや? 転移が使えませんねぇ……なるほど』


 幸い転移能力は封じたまま……実はそれが悪手だった事が解る。

 私が死なない限り、転移は戻らない。それに呪いを解除しても無駄だ…もう、ロンドの興味は私に移っている。

 つまり…ロンドは私を殺さなければ裏世界に帰らない。


 参ったなぁ…話し合いで帰って貰う可能性が潰えた。

 帰って貰おうだなんて弱気だけれど、それほどまでに差がありすぎる。


「…エナジーブースト」

『くくっ、それぞれの能力は使いこなせてはいないみたいですねぇ。それならば余裕です。邪神セツにやられた傷が治っているのは幸いでしたよぉ』


「魔眼…解放」


 やるしかない。

 幸いロンドは自分の身体を確認中で仕掛けてこない…今の内に。

 以前、星体観測を覚醒させた方法で妖精さんから貰った力を解放する。

 ……脳裏に浮かぶ光。

 前は白い鎖に雁字搦めだったけれど、鎖は一本だけになっていた。

 ……外れない。

 くっ、何か条件があるのか。


『感謝を伝えた訳ですし、もう対等…いや、下等生物ごときにわたくしが対等なんておかしいですねぇ。跪きなさい。重力百倍』

 ――ズンッ!

 身体が重い!

 これは…重力魔法。

 ヤバいヤバいっ、磔にされるっ!


「くっ…エナジーパワー」

 軽く百倍の重さにしてきた…私の体重が◯◯だから◯◯◯◯キロになっているのかっ。

 ヘビー級アスティちゃんにしやがって!


『おー、耐えますかぁ。ですが攻撃は防げませんよね? 魔炎弾』

「ぐっ…」

 蒼い炎が私の腹を貫いた。

 貫かれた場所からじわじわと燃えていく。

 エナジーヒールを掛けながら、どう生き延びるかを必死に考えていた。


『ほうほう。粉砕の竜巻』

 今度は竜巻っ…重力のお蔭で飛ばされない変わりに骨がボキボキだよっ!

 バリアは壊されるから無意味。

 エナジーパワーとエナジーヒールで無理矢理耐えるしか……

 ……そうだ。

 あの魔法なら……

 でも、この竜巻に耐えなきゃ。


「あっ、くっ、エナジー…ライト」

 ライトを光の道で繋いで光速移動。

 これなら…回避出来た。

 危ない…骨が折れ過ぎて意識が飛びそうだ。

 ハイエナジーヒール……このままじゃジリ貧だよ。


『素晴らしい。下等生物で耐えられた者はあなたが初めてです』

「そりゃ…どうも」


 この隙に白と黒の魔法陣を展開。

 星属性を重ねて…


『……サークルブレイク。魔炎爆流』

「ぁぁぁぁあ!」


 魔法陣を壊され、蒼い炎に呑み込まれた。

 熱い熱い熱い! 熱いを通り越して身体が痛みを拒否している! 炎を消さなきゃ!

 アビスコールド! ハイエナジーヒール!

 ……駄目だ、治りが遅い。


『あぁ…すみませんねぇ。魔法陣を見るとどうしても邪神セツを思い出してついついカッとなってしまうんですよ。次に出したら即殺します』


 結局…私は生かされているだけか。

 はははっ、情けない。

 調子に乗っていたツケが回ってきたか。

 はぁ……回復する時間を稼がないと。


「…どうして、邪神と、戦う事に、なったのですか?」

『下等生物に言っても仕方がないですが、良いでしょう。邪神セッテンシュゼツは四体で一つの神という特殊故に、性格や意見がバラバラという面倒な存在になっているのですよ。その中で邪神セツとは相性が合わなくてですねぇ…何が平和だ…くそが』


 ヤバい…質問を間違えたか。

 ロンドがイライラしている。

 平和…裏世界では受け入れられない単語か。

 機嫌を戻さないと…


「平和は…いけないですよ…ね?」

『そうっ! 世界を邪悪に染め上げてこそ邪神の務め! 平和なぞ不要! 愛なぞ無意味! 下等生物と馴れ合う事なぞ反吐が出る!』


 あっ…ご機嫌斜め…くそ、失敗した。

 でも…ある程度回復は出来た。

 出来たけれど、上空に巨大な蒼い炎の塊が出現。


 身体は上手く動かないから躱すのは難しい…か。

 魔法陣を出したら殺される…どうするどうする。


「…レスティアー」

 エーリン?

 駄目だ、今来ちゃいけない!

 あーもう!


『仲間が来ても無駄ですよぉ。蒼い太陽!』

「一か八か! リフレクト・ミラーフォース!」


 鏡の魔法が耐えきれるか…

 大きな熱量を持つ蒼い太陽が墜ちてきた。

 ははっ、凄い魔力。

 大地に墜ちたらこの世界が燃えてしまうかもしれない。


 接触…駄目だ、直ぐにヒビが…

 エーリン…来ちゃ駄目だよ。

 鏡を押さえても無駄だぞ。


「アレスティアー。手伝いますー」

「巻添え食らうから…来ちゃ…駄目だよ…」


「大丈夫ですよー。アレスティアは私が守りますからー」


 エーリンが胸元から小瓶を取り出した。

 それは…迷宮で見付けた小瓶……っ!


「それは…なに?」

「御先祖様…鬼神様を身に宿す、鬼族の伝説の薬です…」


「やめろ…それは毒だ」

「へへっ、私は家族の仇を討たなきゃいけないんですからー。アレスティアー、大好きですよー」


「エーリン! 飲むなぁ!」


 少し困ったように笑って、小瓶…鬼神薬を飲み干した。

 馬鹿…それを飲んだら…


『ぐっ…ぁっ…がぁっ……鬼神…拳』


 エーリンの拳に赤いオーラが纏わり、鏡ごと蒼い太陽を殴り飛ばした。

 雰囲気が…変わった。

 赤いオーラを纏い、何処か懐かしいような…哀しみを持った雰囲気。


『なに? 弾かれただと? その妖気…まさか…』

『あぁ…こうやって喚び出されるのは、幾年振りか…』


「エー…リン?」

『……そう。分かった。エーリン、あなたの覚悟…受け取りましょう』


 そんな…馬鹿野郎…命と引き換えに、力を得るなんて…

 エーリン…いや、鬼神がロンドに詰め寄り、赤い拳で殴り飛ばした。一瞬にして見えなくなる程の勢い…これが、鬼神の力…


 そして、追い掛けるように鬼神が走り去った。


 ……私も、追い掛けよう。

 泣くのは後だ。

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