欲しいものと聞かれたら正直に答えるでしょ

 

 寝ようと思った時には外が明るくなり掛けていたので、仮眠だけ取った。

 ムルムーの部屋にはライラが居たから、ケモ耳をわしゃわしゃ…


「ふにゅ…アレスティア…くしゅぐったい…」

「じゃあこれは?」


「ふみゅっ…ふんっ…あふゅっ…らめっ…そこっ…」


 …自重しよう。危ない危ない…ここは健全な場所だ。

 よし、部屋を出よう。店員さん達は活動を開始しているな。


「あっ、アスティちゃんおはよー」

「チロルちゃんおはよー」


「アスティさんおはよーございます」

「レーナちゃんおはよー」


 …なんか昨日の夜の出来事が無かったかのような気軽さ。

 なんだろう…ヘルちゃんが仕切っているからかな。


「昨日誰の部屋に逃げ込むかと思ったんですが、ムルムーさんでしたか」

「みんな寝た振りだったのかいっ。あっ、フリシアちゃんおはよう」


「ぁ…はぃ…おはよう…ございます」


 …目を合わせてくれない…嫌われてしまったか。

 好き嫌いや合う合わないは人それぞれだからなー。その内会話出来るくらいに仲良くなれたら良いけれど、無理強いは出来ないね。

 あ…昨日いきなりチューしちゃったのが原因かね…

 フリシアちゃんって呼んで馴れ馴れしいか…


「夢の為に進むのを、陰ながら…応援しているからね」

「ぁりがとう…ございます…」


 …陰ながらとかキモいか…下向いちゃったし。

 うん、こういう時は逃げよう。さらばだー。

 ちくしょう、嫌われた後ってどうやったら仲良くなれんだよ。


 はぁ、気持ちを切り替えよう。

 そういえば朝に第一皇女が来るんだっけか。


 とりあえずホールを覗いてみる…もう来ていた。

 第一皇女と侍女さんとおっさん…皇帝か。

 そういえば侍女さんと皇帝の名前知らねえな。まぁ良いか。


 カウンターにヘルちゃんが立って何かを話している。

 そろりそろり…あっバレた。


「アスティ、待っていたわよ」

「ヘルちゃんおはよー。みなさんお早いですね」


「帝国の未来が掛かっているからな」

「まぁそうですが、外の方々は邪魔ですね。営業妨害ですよ」


 護衛なのか解らないけれど、外にずらりと人が居る。あらぬ噂が立つから邪魔だぞー。


「解った。帰らせる」

 皇帝が入口の扉を開けて帰らせている…高官やら大臣やらかな。


「ありがとうございます。では、質問したい事があればどうぞ」

「えぇ…あなたにとって、ベアトリスクは敵なの?」


「まぁ敵と言えば敵ですね。私の親を殺し、失敗作の扱いを受けていましたから」

「…ちょっと待って…ベアトリスクが親じゃないの?」


 皇帝が、えっ…て顔をしている。私が元王女って先に言っておけよ。話が戻って進んでを繰り返す会話は面倒なんだ。


「社会的にはそうですが、私だけ別の物から産まれたので血の繋がりなんてありませんよ」

「そう…だったの。だからか…」


「何か違和感がありましたか?」

「えぇ…レイン王国からアレスティア王女の噂が流れた時…私はベアトリスクと会っていたの。その時…アレスティア王女を見付けたら、秘密裏に引き渡して欲しいって…」


「秘密裏に殺す気満々ですね。ベアトリスクの目的は、コーデリア姫を王にする事でしょうし…妨げになるものは消してしまいたい訳ですね」


 偽物アレスティアの存在は、私…本物にとって罠。本物が名乗り出れば偽物を消して帝国との婚姻に使えるし、名乗り出なくても帝国との婚姻で深い繋がりを得たままに出来る。

 偽物アレスティアさんは使い捨て…ただそれだけの存在…

 まっ、幸せそうだから放っておこう。


「それでアスティ…ルーセントとの婚姻が出来なくなるが、後悔は無いのか?」

「は? 無理矢理婚約しようとした癖になにゲボい事言っているんですかね。あっ、そうだ。皇帝さんにお願いがあります」


「…聞こう」

「私、ヘルちゃんと結婚したいんですよ。だから…娘さんを下さいっ」


「「「……」」」

「もぅ…アスティ、恥ずかしいじゃない…ばか」


 ヘルちゃんがもじもじして…可愛いのう。

 いやー、皇帝に会ったらこの台詞を言いたかったんだよ。

 親の了承ってあった方が良いし。


「まぁ、うん、良い…ぞ」

「本当ですかっ、ヘルちゃんやったねー!」


「お父様…ありがとうございます」


 やけに素直だな。まぁ第一皇女の命を救っているから、交渉なんてする気は無いか。

 お三方、微妙な顔をするでない。私とヘルちゃんはハッピーなんだから受け入れておくれ。


「しかし…同性との結婚となれば、法律が邪魔をするな…」

「はい。という事で第一皇女さんには私達のような人達の為に同性婚の整備をお願いしたいです。それ以外には特に求めないので宜しくお願いします」


「……善処するわ」

「姉さん、善処じゃ駄目よ。確実に達成させて」


「まぁ、うん…色々条件を付与しないと難しいかも」


 ……何か問題かね?

 ……まぁ、色々大変なのは解るよ。出生率が下がったり納税率が下がったりで貴族の反発が多いし、同性カップルを嫌悪する人も一定数居る。教育も変わるし…


「直ぐにとは言いませんよ。いずれ各国も認めるでしょうし」

「…どういう事?」


「私達の婚約はアラステア様公認です。帝国の対応が遅かったら、アース王国で結婚するので宜しくお願いします」

「……」


 幼女公認…これを世界に発信したら同性婚を認めざるおえないだろうね。早くても貴族の反発があり、遅くても各国から白い目で見られる。

 がんばれよー。駄目なら駄目でアース王国で国王達を脅して盛大な結婚式でもしてやろう。


「まだ聞きたい事はありますか?」

「そうだな。今後…フーツー王国には関わる事は無いのか?」


「お世話になった方に恩返しをしたら、関わる事は無いですね。もし帝国に宣戦布告したら私に言って下さい。正面から叩き潰すので」

「それは…頼もしいな」


 頼れ頼れ。デッカイ月を落としてやるから。

 細かい事はあると思うけれど、大まかな質問はそんなもんかね?

 …おっ、侍女さんどうぞ。


「脅威を討伐した後は…どうなさるのですか? 出来れば殿下の補佐をしてもらいたいのですが…」

「んー…私、意外と忙しいんですよ。不定期にこうやってカウンター越しに話すのなら良いですが、基本はヘルちゃんと話を進めて下さい」


「了解しました。ヘルトルーデ様、宜しくお願い致します。先日のお礼をしたいのですが…何か希望がありますか?」

「そうね。困った時にあなたの頭脳を貸してくれたらそれで良いわ」


「しかし…それでは…」

「私より、アスティに何かしてあげたら? 襲撃犯を捕まえたんだから」


 私も頑張ったんだぞー。

 ヘンリエッテが死にかけたけれど、頑張ったんだぞー。

 襲撃犯のヒロットを捕まえたからご褒美おくれっ。


「それについては俺から恩賞を与えるつもりだ」

「何をくれるんですか?」


「…家と土地でどうだ?」

「結局パンパンで寝るので要りませんよ」


「じゃあ…俺の持っている武具とか」

「自前の剣があるので要りませんよ」


「…他に思い付かないから聞くが…何が欲しいんだ?」

「ボニーちゃん」


 ……凄い嫌そうな顔をされた。

 聞かれたから答えたのに。皇帝なんだから顔から気持ちを悟られないようにしなよ。


 ボニーちゃんこと、ボニーアヴリル・ニートー・グライト第三皇女。

 レインの王子と婚約するんだってよ。

 私に一目惚れしたとかいうレインの王子と、ヘルちゃんの可愛い妹の結婚をぶっ壊す使命が私にはあるのさ。


「……考えておく」

「えー、考えるだけですかー。皇帝さん、娘さんをもう一人下さいっ」


「いや…アヴリルは…素直で良い子なんだ」


 素直で良い子だからなんだよ。それなら天使の所に来ても良いじゃねえか。

 あ? 私の心が穢れているから嫌なのか?

 苦渋の選択みたいな顔をするなよ…

 ヘルちゃん掩護射撃だー。


「お父様、アヴリルは既にアスティにどっきゅんラブです」

「……」


 どっきゅんラブ…ヘルちゃんも私にどっきゅんラブ?

 おっ、尻をさわさわしているからどっきゅんラブなんだねっ。

 でも尻の中心は駄目よ。


「天使の元へ行くと言えば民衆の支持も上がりますよ」

「ぐぬぬ…俺の意見だけでは…決められない…」


 えー、良いじゃん。

『うん』という二文字で済む話なんだよ。

 じゃないと侍女さんの処女を私が貰う事になるじゃん。


 なんつってー…ヘルちゃんっ、カンチョーは駄目っ、一応お客さん来ているんだから店員さん達のノリは駄目っ!


「姉さん、今決めなくても保留で良いわ。時間は沢山あるからね」

「解った。ルーデ、ありがとう」


 第一皇女と侍女さんからのお礼は保留…待てば待つ程期待が膨らんじゃうぞー。


 その後は細かい質問や雑談を交えて終了。

 ベアトリスクとの話もまた今度かな。


 よし、用事は終わったから…リアちゃんが戻って来たらエルメシアにゴーだ。

 あっ、エーリン捕獲しないと。

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