その性格でよく女神やってんな……

 

 相変わらず蒼禍は朱天の剣を見ている。

 長い前髪から覗く青い瞳から、少し涙が溢れているようにも見える。

 先に軽く話した方が良いかな。


「この剣が気になるんですか?」

『…それを何処で手に入れた』


「裏世界です」

『…やはり…そうか』


 朱禍が死んだ時は詳しく知らないからなぁ。

 あっ、朱天の剣を視れば良いのか。


『ねぇ、君は裏世界を往き来できるの?』

「いえ、出来ません。たまたまです」


 ハズラの神が興味深く聞いてきた。

 確かに往き来できる人間なんて居ない。

 私の場合は往き来というか特殊だからなぁ…


 今の隙にちょっと朱天の剣をチラ視しよう。

 ……ほうほう。


『その剣を譲れ』

「嫌ですね」


『なら、力付くで奪う』

「ん? アテアちゃん、相手の武器を奪って良いんです?」


「ルール上問題は無いが、批判は受けるのぉ。炎上って奴じゃ」

「ふーん。じゃあ仕舞います」


 言い方が嫌だから朱天の剣で戦ってやらねっ。

 という事で収納して無い無いした。

 代わりに折れないソードを使おう。

 おっ、蒼禍の魔力が上がっていく。

 怒ったかな。


 怒ったとしても、こっちとしてはいきなり武器を寄越せと言われて奪うなんて宣言されて、失礼にも程があるよ。


「ハズラドーナよ、どういう事じゃ?」

『あぁ…あの剣は俺の世界を助けてくれた英雄の剣なんだ。で、その英雄の身内が蒼禍って訳さ』


「ふーん。わっちらには関係無いの。勘違いじゃないのかえ?」

『勘違いじゃないね、あの剣は特殊だから。まぁ関係無いんだけど、譲っては貰えない?』


「あれはアレスティアが命懸けで手に入れた剣じゃ。わっちに聞かれても困るの」

『そうだよねぇ…』


 英雄…か。

 格好良かったなぁ。

 身内という事は元々は蒼禍みたいな感じだったのかな…

 もう会えないのが残念だよ…とても。


『…蒼点強化術』

「エナジースピード」


 蒼禍の身体を青いオーラが包み込む。恐らく朱禍の朱点強化術と似た肉体を強化する効果。

 素手だけれど、武器は持たないのかな?


『蒼点蓮華』

 急接近からの連撃。

 ライトシールドで防御っと。

 五発でシールドが割れるくらいなら余裕だ。

 でも顔を中心に殴ってきやがるな…


「…私流・白三日月」

 白い斬撃を至近距離から放つ。

 丁度私に強い攻撃を当てようとしていたからモロに衝突。

 光に呑まれながら吹き飛んだ。


『…蒼点破』

 光の中から青い光が発生し爆発。

 少しローブを焦がしているけれど、蒼禍に外傷は無い。

 やっぱり光属性はあまり効かない。

 でも全く効かない訳ではないから光属性で良いか。


「光飛斬」

『…無駄』


 光の斬撃を放ったけれど殴り飛ばされた。

 うーん…序列六位の補佐にしては、圧倒的なものが無いな。

 確かに強いんだけれど…重みが無いというか…

 私が強くなり過ぎた? …それは考えにくいけれど、普通の修業方法ではないしなぁ。


「武器はその拳ですか?」

『…何が言いたい』


「いえ、気になっただけです」

『…武器を使うとお前を殺してしまう』


「別に良いですよ。私も手加減をするのが面倒なので」

『手加減? はははっ、笑わせる! 蒼天の剣よ!』


 蒼禍が手を上に向けると青白く輝く剣が現れた。

 神武器とは違う…聖剣かな。

 剣から光が溢れ、蒼禍の身体を包むと…おー、青白く輝く鎧を纏っていた。

 格好良いー。

 あの剣の力かな?


「へぇー、魔装ですか?」

『武装だ…蒼剣・千武』


 蒼禍が詰め寄り高速の連撃。

 剣の軌道に折れないソードを添えて弾いていく。

 速さにさえ付いていけば私にダメージは無い。

 折れないからこそ鉄壁の防御。


『何故斬れない』

 蒼禍は崩れない私に驚いている様子。

 確かに蒼禍の方が私よりも強い。

 強いけれど、負ける気はしないよ。


「ふふっ、どうしてでしょうね。エナジーパワー! アビスセイヴァー!」


 折れないソードに深淵の闇を纏わせ、フルスイング!

 蒼禍の剣を弾き胴に衝突。

 青白い鎧にヒビが発生。

 そのまま空中にかち上げた。


『くっ…この力は…』

「耐えて下さいね! 私流奥義・黒滅!」


 負の力を剣に乗せ、振り下ろす。

 どす黒いエネルギーが蒼禍を呑み込んだ。


『ぁぁああぁぁああ!』


 この技…怨嗟の声が前よりすげぇな…

 深淵の力、そして妖呪の力も合わさり、どす黒いエネルギーが以前よりも凶悪化している。

 表世界で使う時は気を付けないとなぁ…世界が汚染されるレベルだぞ。

 なんかどんどん悪者感が増しているなぁ…天使が使う技じゃないよ。



『……アラステア、あの子は本当に人間か?』

「人間じゃ、変態だがの」


『邪悪と混沌の力を持って自我を保っている人間を初めて見たよ』

「わっちを超える逸材じゃよ。羨ましいじゃろ」


 どす黒い闇が収縮。

 呑み込まれていた蒼禍がボトリと落下した。

 鎧に闇が絡み付き、身体を浸食している。

 意識はあるけれど動けなさそう。

 勝負あったかな?


「私の勝ちですね」

『かっ…くっ…なぜ…』


「…心を鍛えよ。己の心に打ち勝つ者が大きな困難を乗り越えられる」

『なっ…それは…』


「あなたのお父さんは、とても強くとても格好良かったです」

『いま何処に! 何処に…居るんだ…』


 私が首を横に振ると、蒼禍の目から堰を切ったように涙が溢れていた。


 朱天の剣を視た時に、朱禍の記憶も視れた。

 朱禍はハズラで裏世界の進攻を食い止めた英雄…恐らくキリエがルゼルと闘った時代だな。

 主神ハズラドーナと魔王と呼ばれていた朱禍が手を組み、激しい死闘の末…朱禍が深魔貴族と相討ちになり、進攻が止まった。

 そしてその魔王朱禍の一人娘が蒼禍という訳だ。


「朱禍さんは、最期まで楽しそうに笑っていましたよ。思い残す事は身内の事だと言っていましたが…」

『……』


 遺言を伝えたから、これで朱禍への義理事は終わったな。


 ……で? どうすれば良いの?

 とどめを刺すの? この空気で? 流石に空気を読まない私でもとどめを刺せないぞ。


 幼女を見ると、キラキラした目で親指を下に向けて首を掻っ切るポーズ。

 やめろ、今日一番の笑顔を向けるな。

 笑ってまう。

 ヘルちゃんなんか笑いを堪えて口が半開きじゃないか。

 空気壊しやがって…どうすんだよ。


「あの、ハズラドーナさん。私の勝ちで良いですか?」

『あぁ、うん。もし良かったら、また蒼禍と会ってくれないか?』


「良いですが、朱天の剣は譲れません。朱禍さんが私に使って欲しいと言って下さったので」

『それは承知さ。朱禍が託した理由が解るし…蒼禍、聞いていたな?』


『…はい。あ…名を訊いていなかった。教えて欲しい』

「アレスティアと申します」


 戦いは終わったので、倒れている蒼禍に手を差し伸べてみる。

 蒼禍は少し迷ってから、私の手を取った。

 そのまま少しひんやりする手を引き上げて立たせ、ヒールを掛けて歩ける程度に回復してあげた。


 蒼禍が回復されて、キョトンとしながら私を見る。

 見詰め合う事数秒。


『非礼を詫びたい。人間だと思って見下していた』

「気にしなくて良いですよ。慣れていますから」


『そういう訳にはいかない。何か力になれる事があったら言って欲しい』

「いえ、特に…」


 無いです。と、言おうとしたら凄く悲しそうな表情を向けてきた。

 えー…困る。


「……考えておきます」

 とりあえず保留にしてヘルちゃんの所に逃げよう。


「アスティ、お疲れ様。格好良かったわよ」

「へへへー、ありがちゅ」


 ……隣に蒼禍が来たな。

 いや、丸眼鏡さんの所に行きなよ。

 さっきから丸眼鏡さんが独りで眼鏡をクイッと上げているじゃないか。

 眼鏡でボッチとか既視感凄い…可哀想じゃん。


「よし、じゃあやるかの」

『あぁ、お手柔らかに』


 おっ、幼女がやる気になったな。


「アレスティア、早く来るのじゃ」

「なんでですか?」


「一緒に戦うのじゃろ?」

「いや、頑張って下さいよ」


「えっ…」


 親に捨てられた子犬みたいな顔しないでよ…

 えっ、私もやるの?

 聞いていないよ。


『今日は気分が良いから、この際二人で来て良いよ』


 見学モードだったのに…

 仕方ない。

 でも格上に勝てる見込みはあるのかね?


「アテアちゃん、大人モードを見せてくれるなら頑張ります」

「元に戻らないと勝てないから良いぞえ」


「やったー」

「……ん? あれ?」


「どうしました?」

「……忘れた。どうだったかの?」


 えー…戻る方法忘れたの? 

 どうすんのさ…


「早く思い出して下さい」

「…まぁ、戦っている内に思い出すじゃろ」


 雑だなぁ…ほんとよくこんなんで女神やっているよなぁ…


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