凹んだら何カップになるんだろう

 

 今日はヘルちゃんが出場する剣技大会の中等部門がある…今年から何故か男女混合で行われるから楽しみにしていた。

 私が起きたのは昼だ。

 そう、寝坊したよ…ちくしょう。


 幸い団体戦は午前中…午後から個人戦がある筈。

 団体戦で調子こいて速攻で終わらすお転婆さんが居なければね!


 剣技大会があるから人は多め…仕方ないので屋根の上を走って騎士団本部の訓練場に向かっている。

 あれ? 去年私が出場してから一年も経った? なんか早いなぁ…


 あっ、ベテラン騎士さんが私を見ている。屋根を走る金髪ぐるぐるメガネ黒女の怪しい私を…お久しぶりでーす。


 ぶんぶん手を振ると、振り返してくれた。

 私だってバレたな……夕方には騎士団長主催のアスティ捜索隊が結成されるだろうけれど、捕まらぬよ!




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




『これから準決勝を始めます!』


 はぁ…間に合った。

 階段状の観客席は空いていないけれど、立ち見出来る場所は把握済みだ。観客席から外れて奥の角へ行けば人も居ないし隙間から余裕で観られる。


 おっ、先客が居たか。

 赤いポニーテールを揺らして、青い制服を着たナイスバデーの女の子。最近特事官になったばかりで警備中のフラムちゃんじゃあないですか。

 気付くかなー。


「…ここは関係者以外立入禁止です」

「はい、関係者なので大丈夫です」


「アスティちゃん!」

「声でバレたかー。ごふっ…」


 ガバッと抱き締められ、私の胸部が圧迫された。

 制服って固い生地だから、フラムちゃんのおっぱいが凶器になり得る……凹むからやめて。そのままチューしようとしてきたので、唇に人差し指を添えて防御。ここでは駄目だよ。


「会いたかった…」

「私も会いたかったよ。制服…凄い似合っているね」


「ぅん…ありがとう。アスティちゃんのやり残した事…頑張ろうって思って」

「嬉しいよ。でも指南役辞めて大丈夫だった? ボニーちゃん泣いていたでしょ」


「まぁ、うん、でも私にとってアスティちゃんが一番だから!」


 フラムちゃん可愛いなぁ…

 この場所が担当らしいので、手を繋いで一緒に観戦する事にした。


『準決勝! シエラ・ノーザイエ選手対ジード選手!』


 シエラとジードか。

 ジードってあんな感じだったっけ? まぁ良いか。

 どっちもがんばれー。


「フラムちゃん、空いている日っていつかな?」

「いつでも良いよ!」


「じゃあ…最近はパンパンの二階に居るから時間がある時にパンパンに来てねー」

「うん! あっ、クーちゃんも会いたがっていたよ」


「クーちゃんも中々会えないからなぁ…フーさんはよく会うけれど…」


 クーちゃんは何処に居るのかなー…あっ、通信魔導具あったな。


「クーちゃーん」

≪…レティ?≫


「今フラムちゃんと居るよー」

≪行くです≫



『勝者! シエラ・ノーザイエ選手!』


 おっ、決勝はシエラかー。


『準決勝第二試合! ユーズリー・ガルート選手対ヘルトルーデ・ニートー・グライト選手!』


 ヘルちゃーんがんばれー。

 あっ、こっち見た!

 ぶんぶん手を振ると、嬉しそうにニヤニヤを隠している。


「あっ、そうだ。アレスティア王女が隣国に居るらしいよ!」

「ミーレイちゃんも言っていたね。フラムちゃんは生きているって信じる?」


「もちろん! 生きているって信じているよ!」


 キラキラした目で言われると、なんか恥ずかしい。

 フラムちゃんって結構純粋だから、本当に信じていると思う。


 おっ、始まるなー。

 ユーズリーって何処かで聞いた事あるなー。

 あっ、ヘルちゃんが私に一目惚れしたから纏まりかけていた縁談が破棄されて可哀想な事になった公爵家の人だっけ?

 気不味いねー。


「殿下…今一度考え直す事は出来ませんか?」

「無理ね」


「俺は…諦めたくない! 俺が勝ったら考え直して貰います!」

「はぁ…分かった。理由を教えてあげるわ」


 こんな場所で込み入った話をしておりますなー。

 ざわめきで観客席には聞こえないけれど、私にはバッチリ聞こえるよ。

 一応武器は刃引きの鉄剣か木剣で選べるらしい……うーん…結構差がありけりだぞ?


『始め!』


「うおぉぉお! ソニックエッジ!」


 低姿勢の踏み込みからの一閃。

 並みの人なら食らう。

 準決勝に出るだけあるな。


「無元流…」


 まぁ、並みの相手なら勝てたよね。

 ヘルちゃんがスルーッとすり抜けるように通り過ぎた瞬間…


「ごふっ!」

 男子が宙を舞った。

 あぁ…両腕が変な方向に向いているよ…


「…鳳仙花」


 あっ、頭から落ちたけれど大丈夫?


 しーん…と会場が静まり返ったな。


「理由は簡単…私に負けるような男は論外なの」


 かぁっこいー。

 しーんと静まり返ったお蔭で決め台詞が会場内に響いたよ。

 観客席の女の子達がキラキラとした瞳でヘルちゃんを見ている…


『勝者! ヘルトルーデ・ニートー・グライト選手!』


 ――ワァァァァァァアアア!


 歓声が凄い。

「ヘルトルーデ様ー!」「素敵ー!」

 すげえキャーキャー聞こえる。

 可愛いくて強い姫様だから女子からの人気が爆上がりだね。

 勝った後もチラチラとこっちに来たそうに見ている。

 後でねー。


「ヘルちゃん強くなったねー」

「うん、毎日訓練しているし女性騎士さんの訓練も一緒に指導してくれるの!」


「みんな上達しているかな? 中途半端になっちゃったから申し訳無くて…」

「大丈夫だよ! 参加者も増えてアクアシティからも来ているよ!」


「あっ、うん、良かったよ」


 私が居なくなって人気になったのか…そうか、良かったよ。私いらない子だったんだね。

 確かに私の事を嫌いな騎士さんも居たからね…良かったよ、うん。


「レティ!」

「あっ、クーちゃん。ごふっ…」


 私の胸に頭突き…ほんと凹むからやめてよ。


「レティ…会いたかったです」

「私も会いたかったよ。あっ、最近私の部屋にフーさんが住み着いているから連れて帰って欲しいな」


「…最近帰っていないと思ったら…」

「フーさんが店員さん達を襲う前によろしくね…あと落ち着いたら一緒に迷宮行こうね」


『これより中等部門、個人決勝を始めます!』


 おっ、始まるから少し前に行こう。


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