隠していたアレな本が机の上に並べられていたら、天を仰ぐしかないよね
「アテアちゃん、行きますよ」
「今忙しいのじゃ」
「パンケーキに生クリーム乗せているだけじゃないですか。仕事の邪魔なので行きますよ」
「アレスティア…わっちを邪魔なぞ言うのか…泣くぞえ」
「自分で歩かないくせに何を言っているんですかね。らーめんを送る判断は私に委ねられましたから、私を怒らすと知りませんよ」
「わっちを脅すまでになったか…これは、女神代理を勤めても良いじゃろ……」
……アテアちゃん、そんなに女神の仕事が嫌なのか…いや働きたくないだけか。
根本的に私と一緒なのが少し嫌。
「アテアちゃん、今アテアちゃんの代わりに居る方ってどんな方ですか?」
「さっき会ってみたがな……それがの…」
「何か問題でした?」
「家を掃除されてしもた…ピカピカやの…」
「……良い事ですね。これで遊びに行けます」
「奴が帰るまで駄目じゃ…机を見たらジャンル毎に綺麗に並べられた薄い本やらがあってな…切なかったの」
「心中お察し致します。むしろその御方が居る内に行かないと家が汚れるので、リアちゃんと一緒に行こうと思います」
アテアちゃんを抱っこして、私の部屋に行く。
ベッドがこんもりしていたけれど、無視してゲートをくぐった。
最近私の部屋にベッドが増えた。今日はフーさんが寝ている気がするけれど夢だと思えば良い。
ゲートをくぐると、部屋にはミズキだけ。いつもの軍服っぽい服を着て真面目な表情で薄い本を読んでいた。
とりあえず幅広いジャンルを渡したけれど、今読んでいるのは女の子同士の百合系……私のせいでそちらに目覚めたかな。
「ミズキさん」
「――ふぉっ! あっ、おっの、レティ…」
「おはようございます」
「おっ、おはよう」
「百合系が好みですか?」
「好みというか、勉強というか、試したくなる事も多いなって…」
「定期的に心の治療はシますので、その時に披露して下さいね」
「うん…あっ、隣の部屋で宰相が待っているよ」
ほう、わざわざ来て待っててくれるなんて、自分の立場を解っていらっしゃる。
じゃあ着替えようかな。ミズキにアテアちゃんを渡す。
白いメイド服に着替えて、地味眼鏡は外した。
これでいつもの白い人…アレスティアちゃんになったので、アテアちゃんを返して貰ってミズキに案内してもらう。
ミズキが先に入り、私も続けて入ると待っていたのは宰相ともう二人…見た事のあるおっさんと見た事のある男子。
「お初に御目にかかります。わたくしはアース王国を束ねるマティアス・アース・ユスティネと申します」
「私は宰相のゴーエン・スパートと申します」
「わ、私は、アース王国王太子…アリーモブナ・アース・ユスティネと、申します!」
えー…っと、国王、宰相、モブ王子の順番か。
王は茶髪に茶髭のおっさん。宰相は目付きの鋭いおっさん。モブ王子は金髪で…特に目立った感想は無い。
「この御方はアラステア…この世界で女神をしています。私はお世話をしている者です」
礼をしないように真っ直ぐ前を見て答える。私達偉いんだぞーってアピールしながら…アテアちゃんは相変わらず抱っこしているので、おっさん達に背を向けて生クリームをチューチュー…やる気ねぇな……一応女神だと信じ込ませる為に、アテアちゃんには神気と呼ばれる神の力を垂れ流しにして貰っていた。
神々しいよ…幼女アテアちゃん。
国王達に跪かれると、私は平民だから罪悪感がヒョコヒョコ顔を出して来る。しっし。
「この度は我が城に来ていただきありがとうございます。あの…そちらのお子様が…アラステア様なのでしょうか…」
「ええ、現在この世界に脅威が訪れています。その脅威から世界を守る為に、女神の力を大量に使い子供の姿になってしまいました」
「なんと…女神様が…」
「脅威とは…いったい…」
「この世界とは違う世界からやって来た魔物です。討伐したいのですが、私達の力だけでは足りません。そこで…ミズキ様にお願いをしました」
話の流れは私が考えたよ。アテアちゃんはゴロゴロしていただけだからね。アテアちゃん…やる気を出さないと、どんどんらーめんから遠ざかっていくよ。
ミズキが横からチラチラアテアちゃんを見て、可愛いー…って呟いている…駄目だよ、毒されたら私みたいにシリアスな場面でふざけるようになっちゃうぞ。
「お願いとは…魔物の討伐でしょうか…」
「はい。ですが…今のミズキ様に勝ち目はありません。そこで…私が他にお願いした者達と共に修練を積んで貰おうと思いまして…この城の地下にある迷宮を解放してもよろしいですか?」
「はい、是非とも我が城をお使い下さい」
ははー…って感じだな。
神気があると国の王でさえ圧倒されるのか。神気欲しい…でも神気を得たら確実に仕事を押し付けられる。
とまぁ…ミズキは女神の依頼を受けたから割りと自由になったし、エーリン達も堂々と来て良くなった。迷宮も自由に使える。
これで用事は終わりかな。
宰相だけだったら色々言えたんだけれどねー。
「ありがとうございます。では…天界に戻ります」
天界とは、人の間でアテアちゃんが住んでいると云われている場所。
「あ、あの! 聞いてもよろしいですか!」
「ん? どうぞ」
モブ王子、どうしたよ。
天の使いを呼び止めるという…これは後で怒られるぞー。
「あなた様のお名前を…教えていただけないでしょうか!」
ほう、ほうほう。これはチャンスが巡って来たな。
「私の名前は…アレスティアと申します」
「えっ…」
私の名前にモブ王子が素直に驚き、国王と宰相が硬直した。
良いね、その表情…
「ふふっ、みなさんの頭を過ったアレスティアと同一人物ですよ」
「アレスティア王女…生きて…いらしたんですね」
「ええ、正確には一度死にました。その後、アラステア様に拾われましてね。私の遺体が消えて騒ぎになったようですが…」
良いね良いねこの雰囲気。
モブ王子は陰謀を知らない様子だな…国王と宰相は下を向いて目を合わせてくれない。
ミズキは少し顔が強張っていた。
「その事を…フーツー王国は知っているのですか?」
「いえ、フーツー王国は知らないと思いますよ。もちろん…私が、どうして殺されたのかも…知らないと思います。そうですよねぇ、皆さん」
「「……」」
ふっふっふっ、楽しいなぁ。
思わず笑ってしまうよ。
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