さっ、帰ろう

 

「はぁ…はぁ…もう、駄目…ですぅ」

「諦めんな! エーリンなら出来る!」


「早く宝石嵌めて下さいよー。ビクともしませんよぉ?」

「言ったじゃん。宝石嵌めるくらいなら帰るって。次は私がやるよ」


 まだ試していないのは…裏世界の炎。扉の前…エーリンの死角に入って、扉の隙間にアビスフレイム。ロックされている部分を壊せば開く筈。

 何故か中が視られないんだよなぁ…楽しみ。


 ふんふんふーん…切っれるかなー。

 深淵の瞳で構造を視ながら、少しずつ少しずつ。

 黒い炎で溶かして、レーザーブレイドで切る。


 ゴーリゴリ。ゴーリゴリ。

 後ろを見ると、至近距離にエーリンの顔があった。あっちいけ。

 ゴーリゴリ。ゴーリゴリ。

 ガコッ。おっ? 抜けた?


「開いたよ!」

「おー…執念ですねー。ドン引きですよー」

「出来るものなのね…学会に報告出来るわよ」


「知恵と技術と欲望があれば出来ないものは無い」

「アレスティアのそういう所好きですよー」


 じゃあ早速、オープン。

 ……ん? 誰か居る。なんか黒髪の男の人が白旗を降ってこちらを見ている。


「あれって何の意味があるの?」

「エルドラドでは、白旗を振るのは降参するから命だけお助けをーって意味ですよ」

「エルメシアも似たようなものね」


「ふーん。でも部屋の中に罠が沢山あるから、降参すると見せかけて騙し討ちする気だよ」

「悪い奴ですねー」

「ああいうタイプは変な能力を持っているから、無視で良いと思うわ」


「あの人以外に何も無い。宝箱も視えないので、帰りますか」

「良いんじゃないですー? ハズレボスですしー」


 とりあえず扉を閉めよう。

 なんか、えっ…て顔をしているけれど、変な力を感じるから関わらない方が良いな。


「ハズレボスって何?」

「実入りの無いボスですよー。迷宮の主が人間の場合は確実に実入りが無いです。お宝を入れない場所に隠すので」

「そうね。あれは人間…迷宮の核がある部屋に、迷い人が入り込むケースが結構あるのよ」


 へぇーそうなんだ。迷宮って色々あるんだなぁ。

 フーさん曰く、交流を深める事は難しいらしく、自分と自分の迷宮以外を信用していない。過去に交流を持とうとした権力者がいたけれど、権力者の街ごと根こそぎ迷宮の栄養にされた過去もある。


 それなら帰ろうかな。

 調査資料になんて書こう…あんまり書くと攻略組を頼まれそうだから、前半だけ書こう。


「じゃあ満足したから帰ろうか」

「はいー」

「レティちゃん、私は帰るわ」


 はーい。ありがとうございましたー。

 転移ゲートを開いて、またねー。…なんか手に握らされた。握った感覚は…布の塊?


「これなんです?」

「ふふっ、私だと思ってね」


 あぁ…恐らくパンツだ。大魔導士フーメリアのパンツ…高値が付くだろうな。売らないけれど。

 ありがとうございます。

 フーさんは妖しく笑って去っていった。

 広げてみると…うん。色だけ言うと紫。


「さっ、帰ろう。星乗り」


 びゅーん。上昇するだけで出口に到着。


 私兵達は…山の麓に居るな。恐らく私達を待っていたんだと思う。なんか豪華な馬車もお目見えしているし…


「アレスティアー、お迎えされていますよー」

「王都で落ち合う約束をしているから、無視しよう」


「まぁ良いんですがねー。ちなみに占いによると、ここの領主…ロートン公爵家はさっきのハズレ人間と接触を図って、栄養になっちゃいます」

「そこまで視れるんだね。まぁ隊長のニコライさんにはそれとなく言っておこう」


 私兵達の居る方向から少しずれて飛ぶと、私達の方へ移動を始めた。なんか警笛みたいなものを鳴らして、おいでおいでしている。

 最初はゆっくり…引き寄せて…近付いて来たら……一気にゴー!


「アレスティアー、性格悪いですよー」

「もうそろそろ王都へ行きたいからね」


「王都に着いたらビッケの町の場所を調べて、ミズキって人に会ってから、隊長さんにお礼を貰うんですねー」

「そんな感じ。ミズキが会ってくれるかが問題だけれど、まぁ大丈夫でしょう」


「普通に会えないんですー?」

「会えない。この国の英雄だし」


「ふーん。強いんですかー?」

「強いよ。メンタルはクソ弱いけれど」


「豆腐メンタルって奴ですねー」


 豆腐って何さ。やわこい食材? なるほど、私も使おう。

 豆腐メンタルのミズキさん…うん、しっくり来る。


 ロートン公爵兵団さん達を引き離し、スピードを上げて王都へ向かう。予定ではあと二日掛かるけれど、本気を出せば今日中に着く…ショボイ地図が正しければ。


「そうそう。王都に着いたらアレスティアって呼ぶの禁止ね」

「えー、今更変えられないですよー」


「そろそろレイン王国の噂が届いていると思う…だから噂の人が私だとバレたら、王都で活動しにくいんだよ。アスティ、レティのどちらかで」

「アスティー…レティー…うーん…訛れば大丈夫ですよー。ぁんれすてぃあー」


「あっ、良いね。アンレスターみたいに違う名前に聞こえる。採用」

「ぁんれすてぃあー、おぅとさ着いたば買いぬしばって」


「方言使わないでよ。何を言っているか解らない」

「ぞげぬことゆわね。こんれっつぅ」


 まぁ目を視れば解るけれど、視たら負けな気がする。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 エーリンの方言と戦いながら、町や村を通り過ぎ、女性騎士の集団を通り過ぎ、しばらーく飛ぶと、大きな建造物…城らしきものが見えてきた。


「すんろあっと」

「城があった。行こう…で良い?」


「正解ですー」


 先ずは外観…尖塔の連なったような形の尖った城。城を囲むように堀があり、正面に大きな懸け橋があるタイプ。

 城の周りは行政施設。その近くに貴族街らしきものがあり…外側に一般のエリア…城を中心にした円状の街並み。上から見ると綺麗だな。


「直接入っちゃおうか」

「悪い子ですねー」


 さて、どこに降りよう…街道は人が多いし、街中も人が多い。

 人が少ない場所…城か貴族街…の公園発見! ささっと降りて何食わぬ顔で歩いた。


 よし、ミズキを探そう。

 魔力感知をフル活用…城を視ると……居た。城の中層。


「エーリン、宿取っておいて」

「はいー」


「ん? やけに素直だね」

「私は超可愛いから目立つじゃないですかー」


 服がな。エーリンにお小遣いをあげて別れる。

 高い宿で良いからねー。


 じゃあ、早速城へ行こう。

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