ゴールには連れて行こう

 

「アレスティアー、回復してあげなかったんですー?」

「うん。高級薬を持っているみたいだったからね」


 奥へ進んでいくと、今度は石壁のエリアに変わった。綺麗に整備された灰色の通路。

 出てくる魔物は少しだけ強くなった程度かな。


「あの男子、アレスティアの事熱い眼差しで見ていましたよー」

「ふっ、私は罪な女さ」


「あの男子に興味無さそうでしたねー。どんな人がタイプなんですかー?」

「可愛い女子だね」


「えっ…私の…事ですかぁ?」


 頬を染めるな。触っても大丈夫にならないと論外だよ。


「エーリンは私の事が好きなの?」

「もちろんですよー。恩人ですからねー。命を救って貰ったら命で返す…赤鬼族の常識ですねー」


 義理堅いな。

 言っている事は本当だし、信用は出来るか。


「エーリン、私はこの国を出たらアース王国へ行く。付いて来る?」

「はいー。付いて行きますよー」


 エーリンは相変わらず笑顔で接してくる…無理しやがって。

 はぁ…なんだかなぁ…予定が決まりつつあるな。


 結局、私はエーリンを見捨てるなんて出来ない…か。

 …リアちゃんは手伝ってくれない案件だろうし。


「アース王国にはね。女神アラステア様が居るらしいの。崇拝していない神様だけれど、大丈夫?」

「…大丈夫ですよー」


 迷宮に入って直ぐ…エーリンの記憶が、少しだけ視えた。

 焼けた家。

 壊れた町。

 殺されていく同胞。

 …赤鬼族は、蒼き魔物に滅ぼされた。


 記憶の中のエーリンは、泣いていた。激しい憎悪、悲しみ、自分だけ逃げた後悔。

 この笑顔が、明日には消えてしまいそうになる程に…不安定な心。自分の占いだけを信じて、私に辿り着いた。

 目指す先は…


「エーリン、ちょっとギュッてさせて」

「えっ、なんですかいきなり…」


 少しだけエーリンを抱き締めた。すまぬが抱き締め返すなよ、バキバキだから。パッと離れて顔を見ると、困惑していたけれど嬉しそうだった。


「もし…強い力を手にしたら、エーリンならどうする?」

「…強い力。……さぁ、どうしましょうかねー。思い付かないです」


「そう。思い付いたら教えて」

「……へへっ、なんだか見透かされているみたいですねー」


 言いたくなったら言えば良い。

 恐らく、エーリンのゴールは勇者ミズキだ。

 ミズキなら、蒼き魔物を倒せるからだと思うけれど…


 私を頼ってくれなかったら…嫉妬しちゃうだろうなぁ。

 でも…ゴールには連れて行こう。

 そこからは、エーリンの選択次第。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 通路を進んで、魔物をユビームで倒すの繰り返し。

 もっとサクサク進めるものだと思ったけれど、一階層で一日くらい使いそう。正直飽き……と言ったら駄目か。


「アレスティアー、飽きましたー」

「先に言わないで。折角だしお宝ゲットくらいはしたい」


「まともなお宝なんて隠し部屋くらいですよー。直ぐに見つけられませんよー」

「隠し部屋…なるほど」


 深淵の瞳ー頑張れー。

 少し力を込めれば、広範囲で視れる。

 今まで使わなかったのは、ズルしているみたいで気が引けていたから。もう飽きた以上使おう。


 ……

 ……この階は無い。

 でも…隠し通路はあるな。


「エーリン、こっち」

「はいー。その魔眼便利ですねー」


「使い勝手は悪いけれどね」


 辿り着いたのは、行き止まり。でも壊れる壁だ。

 ユビーム。

 おっ、壊れた。

 壊れた先は階段。


 …なんか壁の材質が黄色くなったな。


「おー! 階段ですねー! 行きましょー!」


 やっと変わった景色に、エーリンがぴょんぴょん階段を降りていく。私も付いていくと、直ぐに階段が終わった。


 階段が終わった先は、大きな黄色い扉がある小部屋。

 ボス部屋か。


 とりあえず少し開けて覗いてみた。

 ……

「エーリン、帰ろう」

「んー? 私も見せて下さー……帰りましょうか。いや、ちょっと考えましょう!」


「なんで? 嫌だよ」

「色付き扉のボスの先はお宝の場合が多いんですよー。ちょっと考えましょう!」


 えー…いやー。

 カタツムリだよ。

 でっかいカタツムリだよ。

 無理だよ。

 キモいよ。

 ウネウネしているんだよ。

 キモいよ。


 考えるまでも無いじゃん。


「じゃ、じゃあここから狙い撃ちすれば良いんですよー!」


 それが出来たらボスの意味無いじゃん。

 普通出来ないでしょ。

 ……あっ、でも私なら出来るかも。


 扉を少し開いて、ユビームを放ってみる。

 バシュン……あっ、効いた。


「ソルレーザー!」


 死ねぇぇぇぇぇぇ!

 ……


「ソルレーザー!」


 消えろぉぉぉぉお!

 ……


「ソル…」「アレスティア…もう死んでいますよー」


 ……形が残っているじゃないか。

 嫌だよ。凄く美味しそうな匂いがするんだ。

 気持ち悪い……


 そろりそろりと扉に入って、遠回りをしながら奥の扉へ向かう。

 ちょっ、エーリン置いていかないでー。

 香ばしい貝の匂いが辛い。


 ……

 ……なんとか奥の扉を通った。

 帰り道、ここを通りたく無い。


「あっ、アレスティアー。ありましたよー。宝箱!」

「うん、そう…ちょっと待って」


 開ける前に休憩しようぜ!

 服がカタツムリ臭いんだ!

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