迷宮へ

 

 早速王都を出て、星乗りで迷宮へと向かう。

 宿はお金を払っているので、部屋を取っておいてくれるから安心。

 多少遅れても婚活イベントは一週間やっているし。


「アレスティアー、迷宮って行った事ありますー?」

「無いよ。いつかは行こうと思っていたの。エーリンは?」


「エルドラドの民は迷宮で修業するんで、よく行きましたー。石畳の迷路型ですねー」

「へぇー。詳しく聞かせて」


 エルドラドには迷宮が沢山あって、一つの部族に一つの迷宮と言った具合に集団毎に迷宮を持っている。

 もちろん迷宮には難易度があるから、強い迷宮を所有している部族が強い。時折迷宮を巡って争いもある。


 エーリンの部族は割りと高難易度の迷宮らしい。

 それならレイン王国の迷宮は余裕かな。

 地図の説明に中位迷宮って書いてあったし。ランクはCかな?


 帝国では迷宮をEからSランクで振り分けている。

 帝都から転移で行けるダンジョン中継都市フィッシュボーンは、DからSランクの迷宮に行ける場所…いつかは行きたいな。


「あれかなー」

 十分くらいで直ぐ着いたな。近い。


 型は…洞窟かな?

 洞窟の前に小さな店が並んで、武装した人達が居る。

 物陰に降りて、少し観察。


 お店は…薬や非常食、素材の換金所、宿泊所、武器防具と意外と充実している。儲かっているんだな。

 駐車場には馬車が並んで…豪華な馬車もある。貴族とかが来ているのかな?


 迷宮の入口には、小さな検問と衛兵さん。武装した人がお金を渡して入っていくのが見える。お金があれば入れるのか。


「こんにちはー」

「子供は保護者の同意書と身分証の提示、それと千ゴルドだ」


 持ってねぇー。

 深淵の瞳ー。


「はい、千ゴルド」

「…通れ」


 ふぅ。

 深淵の瞳で顔パスにしてしまった。

 ズルしてすまぬ。


「アレスティア? 今、何かしましたー?」

「うん。ちょっとね」


 そういえば、エーリンに深淵の瞳の事を言ったらどうなるんだろう。邪神の力…もしかしなくても神扱いだろうな。

 例え言っても、今と関係は変わらないと思う。


 まぁそれは置いておいて、今は迷宮だ。


 大人五人が並んで歩ける大きさの入口。

 入ってみると、薄暗い。

 洞窟なのに真っ暗ではないのか。


「ライト」


 光を飛ばして明るく照らす。

 中は広い。魔力感知で他の人に出来るだけ会わないようにしよう。迷宮での強盗や殺しは多いって聞くし。

 という事で、人の居ない道へと進む。


「迷宮の地図って買いましたー?」

「いや、買っていない。視れば良いから」


 そう。視れば大体解る。

 この階の構造、罠、魔物、壁の材質等々。

 ズルし過ぎかな。


「それも遺伝魔法ですかー?」

「そうだよ。私は魔眼持ちなんだ」


「おー! 凄いですねー! 私はまだですが、お兄ちゃんが魔眼持ちだったんですよー!」

「へぇー、何の魔眼?」


「鋼の魔眼で、鋼の肉体になるんですよー。アレスティアは何の魔眼です?」

「闇系統だよ」


 エーリンが興味津々で私の前に来て、至近距離で目を見詰めてきた。

 ……そして右目の前に移動。ジーッと眺めている。あんまり近付くと私の吐息でクラクラしちゃうぞー。

 ……ほら、鼻息が荒くなってきた。離れろー。右目を見過ぎると心を奪われるぞー。

 ……ほら、顔も赤くなってきた。もう駄目だぞー。


 そのまま顔を前にやろうとしてきたので、サッと離れた。


「あっ…なんで離れるんですかぁ…」

「今チューしようとしただろ」


「ちょっとくらい良いじゃないですかぁー」

「駄目。口を打撲したくない。行くよ」


 あんまり見詰めるから、私も視えたじゃないか。

 もし…エーリンを見捨てる事が出来なくなったら、エルドラドに行かなければならない。

 まぁ暇人だし、行っても良いんだけれど…その前にもっと強くならないとな。



 ライトを先に飛ばして、洞窟を進む。罠を視ながらなので、私が先頭。エーリンは後ろ。


「魔物弱いね」

「アレスティアが強すぎだからですねー。私まだ何もしていませんよー」


 指先にライトを付けてソルレーザーを放つ、名付けて『ユビーム』。

 このユビームで出てくる魔物を次々と貫いている。

 魔物は骨剣士、ゴブリンソルジャー、デカイ蜘蛛、トカゲ、大体Dランクの魔物かな。

 貫くと、素材を遺して消える。

 骨剣士は魔石、ゴブリンは魔石と内臓、蜘蛛は魔石と糸、トカゲは魔石と牙…と言った感じで、魔石と素材が残る。死体が消えるから戦いやすいな…どんな仕組みなんだろう?


「何しているんですかー?」

「本で読んだ迷宮の特徴を一つ一つ確認しているの」


「それ何の意味があるんです?」

「私にとっては意味があるんだよ」


 骨剣士の魔石を地面に置いて十分くらい待つと、吸い込まれるように消えていった。

 早く回収しないと駄目なのか…大変だな。


 この迷宮は正直、探索よりも検証が主だ。

 迷宮という存在は、私の持論が合致するのか。



 洞窟は迷路のようにグネグネとした道。枝分かれしている道も多く、方向感覚がおかしくなる。

 私は深淵の瞳があるから大丈夫だけれど、他の人は地図必須だな。


「おっ、あった。階段」

「おー、迷わず到着なんて凄いですねー」


「でも他の人達は居ないなぁ。別の階段か」

「不人気のルートなんですねー。強くて実入りの少ない魔物が居たら、そのルートは嫌われますし」


 階段は一つじゃないから、稼ぎやすいルートに行くのは当然か。


 階段を降りて、降りて、降りて……結構深いな。

 しばらく降りて、たどり着いたのは大きな鉄の扉がある部屋。


「あっ、ボス部屋ですねー」

「へぇー、これがボス部屋かぁ」


 へぇー。へぇー。ボス部屋。強い魔物が出る部屋で、倒せば次に進める。出てくる魔物は一定の場合と、ランダムの場合、それと倒せば倒す程強い魔物が出る場合。


 人が居ないとすると、一番人気の無い、倒せば倒す程強い魔物が出る場合かな。

 良いね。楽しみ。


「じゃあ開けますねー。……あれ? 開かない。どうやら先客が居るみたいですねー」

「誰かが居るとロックが掛かるんだ。ふーん……あれ?」


「えっ…開いた」

 私が扉を押すと動いた。なんで?

 まぁ良いか。これ幸いなので、中を覗いてみる。

 激しい戦闘音。

 状況は…

 倒れている鎧の人達。

 中心には、三人が戦闘中。

 対する魔物は…


『クックックッ…脆弱なる人間共よ。我に勝とうなど一万年早い』


 黒い筋肉質の身体に、手に持つ大きな黒い剣。

 蝙蝠のような翼を広げ、獰猛な笑みを浮かべた…悪魔?

 明らかに人間側のピンチだな。


「アレスティアー、お取り込み中ですねー」

「そうだねー。どうする?」


「決まっているクセにー」

「ふふっ、じゃあ…行こっか」


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