ここまでエンカウント率が高いのは初めてだ

 

「エーリン、これ着けて」

「指輪?」


 昨日リアちゃんに貰った封印の指輪を渡す。

 人差し指に嵌めて貰い、マッサージ開始。


 先ずは能力五割。

 ボキン…えっ、痛い。一気に折らないから余計痛い。

 次は能力三割。

 ギュリギュリ…やめろ、筋繊維を千切るな。


 能力一割……骨折から打撲に変わった感じ。

 まぁ、まぁまぁ良いんじゃない?

 殺傷能力が大分下がった。

 日常生活は能力一割だね。


「これを着けていれば負荷が掛かって修行になるんだって。私も着けているよ」

「お揃いですねー。修行になるなら大歓迎ですよー」


 良かった。

 角の封印じゃないから肯定的だ。

 この街は早々に出て、レイン王都を目指す。

 魔力も封印中だから、星乗りをするだけでも修行になる。

 星属性の強化も目標だから、丁度良い。



 昨日よりも、馬車の数が多い。

 流石は王都に近い街道。人の往来が多い。

 婚活イベントは一週間後。早めに宿を取りたいな。


「むー…」

 移動中、エーリンが水晶珠を出して占いをしている。


「何を占っているの?」

「この国ですよー。おっ、おー…来年あたり、霊樹から魔族がやって来るみたいですねー」


「へぇーそんな事も見られるんだねー。邪霊樹って何処かなー…おっ、王都に近い」

「んー? 霊樹の場所が解るんですかー?」


「うん、この地図に載っているよ」

「…それ、エルドラドの人に見せない方が良いですよー。戦争の引き金になります」


 邪霊樹の場所が解れば、その全ての邪霊樹の権利を主張してしまうらしい。つまり、領土を寄越せって事。

 帝国を脅すのに使えそう…エルドラドにこれを売ると言えば、何かしら言う事聞いてくれそうだし。

 エーリンは興味無い感じだから良いけれど、あまり見せない方が良いか。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 街道の馬車を追い抜かしていると、遠くに城のある街を発見。

 少し上昇して全体を眺めてみる。


「水路が多い街だね。手前が街で、奥が城のタイプか」

「ここで面白い人の観光をするんですねー」


「それ面白い人の前で言っちゃ駄目だよ」

「あっ、ごめんなさい」


「…謝るなんて珍しい。……もしかして、面白い人って私か?」

「そうですねー」


 …誉め言葉として受け取っておこう。

 エーリンは…変な人の部類だね。


 離れた場所に降りて、歩いて街道に合流。

 入口が三つ…上流階級用、王都民用、商業用。今は婚活イベントの影響で、婚活女子は商業用、観光客は王都民用の入口らしい。

 なので観光の私達は王都民用の入口に並ぶ。


 おー…商業用入口は凄い列。

 何時間待ちなんだろう。

 王都民用の入口は十分くらいで衛兵さんの所に到着。


「はい次の方ー」

「観光でーす」


「はい、千ゴルドです…はい、ようこそレイン王都へ。あっ、冊子をどうぞー」


 すんなり入れた…良いのか? こんなザルで。もう人が多くて面倒なのかな。まぁ入れたから良いか。

 人の流れが凄いな…とりあえず冊子を見たいので、立ち止まれる場所に移動。


 商業用入口の場所を見ると、婚活イベントの案内をしている人が居る。そこから手続きの為に指定の役所に行くのか。また役所でも並ぶ事になりそうで、待ち時間だけで疲弊するね。


 冊子を見ると…宿が多いのは中心辺り。

 先ずは部屋を取ろう。


 ん? 男子が三人前に立った。

「ねぇ君達、婚活イベントに参加するの?」

「…」


「王都初めてでしょ? 俺達王都に住んでいるんだ。案内するよ」

「……結構です。行くよ」

「弱い男には付いていきませんよー」


 なんだ、ナンパか。冷えた眼差しで乗り切る。

 …んー?


「王都は初めて? 案内するよ!」

「…結構です」


 なんだ?


「今暇? お茶しない?」

「結構です」


 十歩毎にナンパ野郎にエンカウントするんだけれど……うぜえ。

 こうなったら…変身! スチャッと地味眼鏡を装着。

 すまんがエーリンの分は無い。


 ……おっ! エンカウント率が下がった!


 ……なるほど、解ったぞ。

 婚活イベントで、地方から沢山の女子がやって来る。恋人が欲しい女子達が。

 厳しい審査に落ちた男子達にも、王都在住という強いアドバンテージを引っ提げてナンパに臨むと…成功率が異常に高い。

 別に王都で結婚出来れば良いっていう女子も少なくないからね。


 少ししつこいくらいじゃ衛兵は止める様子も無い…

 つまり、この王都はナンパの聖地……


 まぁ、うん…ここには住みたくないな。

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