本気を出す時は格好付けたいよね

 

「またね、クーちゃん。騎士さんの訓練宜しくね」

「早くラジャーナでデートしたいです」


 翌朝クーちゃんとバイバイして、転移ゲートを潜って宿に戻ると…エーリンが私のベッドで寝ていた。


「…エーリン、朝だよ」

「ふみゅ? あ…アレスティアー…何処さ行っていたんですかー」


「夜は転移ゲートで家に帰っているんだよ」

「私も連れていって下さいよー」


「ごめん、このゲート私しか潜れないんだ」

「むー! この扉ビクともしなかったしー」


 いや、絶対壊すなよ。

 というか…部屋の扉壊して入るなや。

 夜這いはされるよりするが良い…いやそうではなくて、宿の人に弁償しなきゃいけない。


 ほらっ、謝りに行くよ。なんで? って顔をするな。壊れる扉が悪い? 馬鹿なの? ここは人間の町なんだよ、業に従え。


 少し不貞腐れているエーリンと一緒に、宿の人に謝って弁償した。…リアちゃんに力を抑える魔導具借りようかな。



 町を出て、期待の眼差しを向けるエーリン。

 …星乗りを二つ出す。

 白は私。黒はエーリン。

 ほらっ、乗れ乗れ。


「わぁー! お空を飛んでいますよー!」

「はしゃぐと落ちるよ」


 制御は私なんだから、ぴょんぴょん跳ねるな。

 星を殴るな。動くな。…息はして良い。


「これどんな魔法なんですかー?」

「遺伝魔法みたいなものだから、詳しくは解らない」


「今度は風に流されるんですねー」


 説明しても、エーリンは理解する気が無いからなぁ。

 でも話し相手が居るのは良い事だ。


 次は街道に沿って、レイン王国の王都を目指そう。

 観光はしなきゃねー。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 王都までは後一日飛ばなければならない。

 街に寄ろうかなー。

 洞窟とか泊まってみたいなー。お泊まりセットはあるし。


 ……おっ、あれは馬車が襲われている?

 馬車を守る兵士三人の周りに、男が十人くらい武器を持って煽っている。

 盗賊かな?

 どっちも私の味方じゃないから、下手な行動は取れないんだけれど…少し観察。


「早く馬車の中身を出せよ!」

「お前らに出す訳が無いだろう!」


「良い所のお嬢さんっていうのは知っているんだ。大人しく出てこないと悪戯しちまうぞー! がはははっ!」

「大人しくしても悪戯するがなー!」


 お嬢さんを誘拐して、身代金でも貰うのかねぇ?

 助ける義理は無いけれど、エーリンの実力を見たいかな。



「エーリン、盗賊をやっちゃってー」

「はいー」


 気の抜けた返事をしながら、ヒョイッと黒い星から飛び降りた。

 魔力を練って具現化…あれは、魔剣? いや違う。

 身長を超える刺々しい金棒……うわ…


「鬼棍棒ー。ていー」


 鬼棍棒を先頭の盗賊に振り下ろし……地面を抉る音がした。

 あら、盗賊がお煎餅になっちゃった…


「なんだこいつ!」

「やっちまえ!」


「ほいー」


 バシュン……無造作に横凪ぎにしたら、盗賊三人の上半身が纏めて吹っ飛んだ。流石は戦闘民族、躊躇無いなぁ。


「お仕事お仕事ー」


 あっ、そういえば雇っているからお仕事なのか。

 鬼棍棒を盗賊に突き入れたら、お腹を貫通。ぐるんっと回すとトゲトゲが食い込んで断末魔の叫び。中々エグい技だねー。


 盗賊はあと半分。

 盗賊は撤退の準備に入っている。散り散りに逃げて生き延びようとしているな。


「逃がしませんよー。グランドプレスー」


 岩に押し潰される音が響き、散り散りになっていた盗賊がお煎餅に……ちょっと、一人取り逃がしているよ。

 指先にライトを付けて、ライトを起点にソルレーザーを発動。指先レーザー…足に当たった。胸を狙ったのに命中悪いな。

 盗賊が転んだ所をエーリンの放った岩が直撃。


 エーリンは呆然と眺めていた兵士達を無視して、私に向けてブンブンと手を振っている。よく出来ました。

 手招きすると、ヒョイッと黒い星に乗り込んだのでそのまま飛び立つ。


「――! ――!」


 兵士達が何か叫んでいるけれど、聞こえないからスルーしよう。


「盗賊弱いですねー。アレスティアはあの兵士に金品を要求しないんです?」

「しないよ。良い所の家はお礼って言いながら家に招いて囲おうとするんだよ。時間が勿体ない」


「そうなんですねー。人間は面倒です」


 そうそう、面倒だよ。

 助けたら濡れ衣着せられて捕まるとかあるし。

 解放されるには私兵にならないといけないだとか、エッチな事される。

 だから関わらないのが無難。


 ……なんだろう、良家の馬車が何台も同じ方向に進んでいる。

 次の街を越えたら王都…だとしたら何かイベントがあるのかな? お嬢さんが集まるイベント…気になるな。



 それから少し進んで、割りと大きな街に到着。

 並んでいる馬車は、ランクが高いものが多い…とりあえず並んでみよう。


「アレスティア、今日はここに泊まるんですかー?」

「そうだねー。何食べたい?」


「別になんでも良いですよー。それより、凄く見られていますねー」

「私達が可愛いからだね」


「可愛いって…もうー、恥ずかしーですー」


 ポキッ。

 やめろ。触んな。


「あの…あなた方も参加するんですか?」

 何やらお姉さんが伺うように話し掛けてきた。

 参加?


「参加? 何かイベントがあるんですか?」

「あれ? 知らないんですか? 王都で年に一度の大きな婚活イベントがあるんですよ」


 婚活イベントかぁ。私には無縁だけれど、女の戦いは見てみたい。…でも女性の比率が多いな。


「婚活イベント…だから女性達が王都に向かっているんですか…でも、男性が少ないのは何故ですか?」

「それは男性の参加条件が厳しいからです」


 へぇー。男性は年収一千万ゴルド以上、上流階級、一定以上の才能等々の基準をどれかクリアしないといけないのね。地方のお金持ちは相手が居るだろうし、自然と王都在住の男性に限られてくるのか。


 玉の輿を狙った女子達、貴族と結婚したい女子達が集まる……ドロドロしていそう。面白い人を見るのも観光になるね。


 お姉さんにお礼を言って、適当に宿を取ってエーリンの練習。

 相変わらず上達しない……

 うーむ。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 エーリンを振り切ってパンパンに帰ってきた。

 おっ、リアちゃん。


「赤鬼族の力を抑える魔導具ってありますか? 自分でオンオフ可能な奴」

「あるよ。はい」


 これは、指輪だね。封印の指輪か。

 嵌めてみる……うぉっ! 身体が重い…脱力感が凄いな。


「ありがとうございます。これって、着けていると修行になります?」

「なるよ。私も着けているし、魔力で強さを見る人を油断させる事も出来るよ」


 私用の指輪も貰った。能力を一割から五割まで調整出来る。とりあえず五割から始めよう。


 能力半減…本気を出す時は封印されし力を解き放つ…中々良いね。強敵が出たら格好付けてやってみよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る