先祖の記憶・核星の天使

 

「月よ! くっ、魔力が…」


 インガラ戦でほとんどの魔力は使ってしまった。

 無表情で見据えるルゼルは 逃がしてくれそうにも無い。

 逃げるとしても、逃げ場所なんて無いのだけれど……


 展開している星の数も大分減っている。

 こんなんで月を形成しても…せいぜい半月。


『ふむ…底を付いた魔力でこれだけの魔法…流石はヤツの弟子か』


 ん? ルルを知っている? でもキリエに聞き返す余裕が無いか…

 ルゼルは動かない。

 撃ち込んでみろというように、人差し指をクイッと曲げた。


「くっ…うぅ…断罪の…月!」


 月が光と闇に染まり、ルゼル目掛けて墜とす。

 もう…魔力の限界を超えているよ…


 大質量の月が墜ちていくけれど、ルゼルはまだ動かない…

 接触する寸前…

 ルゼルが片手を上げる…まさか…

『ふむ…』

 ズンッ…と片手で受け止めた。

「嘘…でしょ…」

 まじかよ…こんなの…

 ルルより強い。


『メガエナジー』

 バキッ! 月に亀裂が…

 亀裂が下から上へと到達して、全体に広がり…バキバキと割れていく。そして、バラバラに砕け散った。

 ルゼルを中心にして、月の瓦礫が四散していく光景は、魅入られる程に綺麗だ…


「……」

『大きくて重いだけでは、我には届かない…キリエよ、もう一つ…力を持っているだろう? 最後まで足掻かねば、未来は無いぞ』


 力…妖精さんに魔法を貰っていたな。キリエは、どんな魔法を貰っていたんだろう。

 使わないと、殺される。

 ルゼルは力を示さないと興味を失うだろうな…だからこそ、やるしか道が無い。


 キリエが、震える身体で星属性の魔力を練る。

 でも、魔力が足りない。

 力を使わないといけないのに……使えない。

 世界樹の葉を口に含んでみたけれど…もう、効果は無かった。


『…使えないのか?』


「くそ…何か…魔力を…」


 魔力を回復する手段が無い。

 ルゼルが腕を組み、目を細めると…キリエの焦りが伝わってきた。

 視線をさ迷わせていると、ふとインガラの残骸が目に入った。

 そして、インガラの残骸に向けて歩き出す。

 何を、するんだ…


 ルゼルは黙って見ているから、攻撃はしてこない。

 朦朧とする意識の中で、インガラへと辿り着いた。


「魔石を…使えば…」


 残骸を掻き分け、黒い球体を手に取る。

 確かに魔石の魔力を使えば、魔法は使える。

 使えるけれど、不完全にしかならない…


 キリエが球体に残りの魔力を通し、魔法を発動させる。

 黒い球体に、銀色の魔法文字が刻まれた。

 これは…黒い球体を使った立体魔法陣。

 ……っ! キリエ! 球体と一緒に使っちゃ駄目だよ!


「この魔法は…そうか……ごめんねお母さん。もう…会えそうに無いや」


 目の前の景色が、涙で歪む…

 妖精さん…なんで、こんな魔法を…

 …進化の魔法…人を捨てなければ、未来は無い…のか。


「…進化魔法・星に願いを」


 黒い立体魔法陣を…胸に押し当てると、キリエの中に入っていった。

「うっ…くっ…あっ…あぁぁぁぁぁぁ!」

 そして直ぐに身体が無理矢理作り変えられるような強烈な痛みが襲って来る。

 痛い…痛い…私にも伝わって来る。

 悲しみと憎しみが織り混ぜられた感情と一緒に…


「…はぁ…」

 ……

 キリエの中に、邪族の力が入って…人から、邪族になったのかな?

 外見の変化は、解らないけれど…

 魔力は回復した。

 内包している力も上がっている。


『…そう…それで良い。…メガエナジー』


 ルゼルが腕を振り上げると、黒銀色のエネルギー体が無数に現れた。うわ…一つ一つが…インガラの本気並みの力…


 …キリエ、来るよ。


 …魔法陣? キリエが展開した魔法陣は白、黒、銀色に輝いている。

 …なんだ…この魔法…知っている。


「…こんな魔法、使いたくなかったよ。再生禁術…エターナル・リヴァイヴ」


 魔法陣が、キリエに入り込む。

 その瞬間…

『バレット』

「――かはっ」

 黒銀のエネルギーに胸を貫かれた…


 …キリエの胸に風穴が空いた、でも…瞬時に胸の風穴が塞がった。

 再生の禁術、エターナル・リヴァイヴ。魔力が尽きるまで…再生を繰り返して絶対に死なない魔法。


 やっぱり…この魔法は、私が殺された時に発動していた。

 まだ私は覚醒していなかったから、中途半端に発動していたせいで、夜になってから再生が始まったと思う。この魔法のお陰で、私は生きていたのか。


 謎が一つ解けた。

 解けたけれど、今は…


「こんなの…痛いだけ…月蝕!」


 キリエの生き様を、見届けよう。


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