先祖の記憶・ルビア

 

≪邪気が…≫

「…出たんだね」


 キリエがルビアに来て、二ヶ月くらいかな…

 とうとう世界樹が抑えきれない程の邪気が発生した。

 場所は南西。

 世界樹の森を抜けて、しばらく進んだ先らしい。

 やっとこの世界を見る事が出来るな。


 邪気が発生して、十日経つと邪族がわらわら出るらしい。

 邪族ってどんな奴だろう…少しワクワクしているのは不謹慎かな。


≪キリエ、邪族を退けたら…願いを一つ、叶えよう≫

「願い…かぁ」


 お礼、という事なんだろう。

 キリエの願いは、ルルに会う事かな?

 少し悩んだ様子だけれど、首を横に振った。


「願いを叶えたら、世界樹の力が減るでしょ? 無理しちゃ駄目だよ」

≪…辛い役目を押し付けてしまった…叶えさせて欲しい≫


「いや、願いは…自分で叶える。……そうだなぁ、戻ってきたら……あなたの花を、咲かせて欲しいな」

≪…分かった、約束しよう≫


「くふふ、楽しみにしているよ」


 なんだろうなぁ…格好良いな。

 私みたいに欲の塊とは違う。

 やっぱりドン底を経験すると、違うのかね。

 私はドン底の疑似体験だから…キリエとは言葉の重みが違うな。

 願いは…自分で叶える……駄目だ。軽いな。私は恵まれた環境過ぎる。


≪キリエ、女神には…気を付けて≫

「女神……分かった」


 女神…か。世界樹は女神と仲が悪いのかな……



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 それから、キリエは南西に星に乗って向かう。

 ……景色はさほど変わらない。魔物や動植物は違うけれど、それだけ。

 町や村が見えるけれど、文明レベルはこっちの方が上か。

 キリエも興味無さそうに町を通り過ぎている。


 ……辿り着いた場所は、周りに建物が無い荒野。

 黒く淀んだ霞が点在している。霞に近付くと、意識を持っていかれそうになるから近付けない。


 ここで待つしか無いという結論に達した。



 修業をしながら、二日経った時の…何か集団がやって来た。人間かな?


 白い服を着た集団…怪しい。

 あちらもキリエに気付いたのか、近付いて来た。

 ……武装しているから、邪族と戦う為に来たのかな?

 人数は……おぉ! わらわら居る! 千人は軽く居るよ! やったねキリエ!


 白い鎧を着たリーダーっぽい男が、集団の前に出て話し掛けて来た。


「君は、ここで何をしているんだい? もうすぐ災害が起きるから、逃げた方が良いよ」

「…私はその災害を止めに来たの」


「じゃあ…君が女神様の言っていた聖女なんだね!」

「…女神」


 女神は、キリエが来ている事を知っていた。この男が女神と話したというのなら、キリエと接触しなかったのは何故だろう。


「俺は勇者アドル、よろしく!」

「……キリエ」


 ん? 勇者? こいつが? 私よりも、ミズキよりも弱いぞ。

 大丈夫か? キリエなんか凄く嫌そうにしている…星体観測を使うなら、弱い奴は邪魔だよね。


「キリエ、折角だし…災害が来るまで親睦を深めよう!」

「…ごめんなさい、そんな気分じゃないの」


 なんだろう…この戦い、凄く不安。


 嫌な予感しかしないよ……

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