姉妹喧嘩が終わったので……

 

 空高く打ち上げられたクーちゃんが、空中で体制を整えて空に停滞。疾風輪の効果か。

 岩龍の一撃を魔槍で受けたのか、ひん曲がっている。

 魔力を通すと元の魔槍に戻ったけれど、魔槍を曲げる程の攻撃って容赦無いな。


 フーさんは岩龍と共に受け身の姿勢でクーちゃんを見上げている。成長した姿を見せて欲しいというワクワクした表情にも見えるし、とても嬉しそう。

 妹が会いに来てくれて、本気で闘ってくれるんだ。

 そりゃ嬉しいか……


 私は妹と喧嘩なんてした事無かったから、こんな風にぶつかり合えるのは…羨ましい。凄く。

 父親が違ったから監視もあって、本音で語り合った事は一度も無かったなぁ。

 兄には嫌われていたし…誕生日すら何も言わないとか、今考えるとやべえ奴だなとは思う。



「ふふっ、やっぱり…お姉ちゃんは強いなぁ…」


 風がクーちゃんに集まっていく…段々強くなって、地面から立ち上る竜巻が発生。

 風が強くて飛ばされそう…

 竜巻が上昇…いや、クーちゃんに向かって凝縮していく。

 凄い…竜巻が球体になった。

 更にバチバチと雷が発生している。


「行くよ…私の全力! 天罰の嵐!」


 凝縮していた竜巻が一気に解放された。

 雷を纏う風が縦横無尽に吹き荒れ…

 風に触れた物が次々と切り刻まれた。


 もちろん私の所にも風が来る訳で…十枚重ねたライトシールドがバキバキ壊れていく。

 あっ、やべっ、残り二枚。アビスシールドっと。

 …ん? ライトシールドと合わさって銀色のシールドに変化した。

 おっ? おぉっ? おー!

 鋭い風をキンキン跳ね返している!

 すげー! 魔法の鏡だー!



「あらあら、クーは天才ね。お姉ちゃんも頑張っちゃおうかな」


 吹き荒れる鋭い風が岩龍を削っていく。

 このままだとフーさんが切り刻まれるけれど…表情は変わらない。


 クーちゃんが魔槍を振りかぶり、渾身の力を込めて投げた。

 凝縮された嵐が岩龍へと衝突。

 そのまま岩龍を貫き、クーちゃんが放った落雷と共に破裂。


 岩龍がバラバラになって飛び散った。


 吹き荒れる風がフーさんに直撃。

 でも…そよ風を受けているように髪が靡くだけ…

 やっぱり…あのアクセサリー達はクーちゃんの疾風輪と似たような物か…常時発動とか卑怯だよ…

 フーさんが手を振ると、真っ赤な杖が出現…魔杖か。

 炎が三つ出てきた。何をする気だ?


「大地を照らす慈愛の炎。大地を溶かす紅蓮の炎。そして大地を作る、起源の炎。三つの炎が合わさる時…古の炎が甦る。炎の章…第九十九……おいで、灼熱龍グドラーム!」


『グボォォオオアア!』


 ……は?

 ……なにそれ?

 ……反則でしょ。


 灼熱龍グドラーム…私でも知っている。

 古の召喚士が、国を守る為に命と引き換えに召喚した伝説の召喚獣。

 城よりも大きな体躯。

 触れる物全てを燃やす深紅の龍鱗。

 口から吐き出される灼熱の炎は一万の兵士を凪ぎ払ったと伝わる。


「久し振りね。グドラーム」

『ふんっ、我を喚ぶなぞ…お前も物好きだな』


 うん、クーちゃんが涙目だ。というかもう泣いている。

 負けを悟ってしまったな…あんなの出されちゃ心が折れるか。

 空中から降りて、拳を握りしめてフーさんを睨んでいる。


「…くっ…うぅ…参り…ました…」


 悔しいだろうなぁ…

 フーさんに勝つ為に、相当な努力してきた筈だ。

 それでも、届かなかった。

 遥か高見から見下ろされる感覚……


「あらあら、もう終わりなの? 最期までヤらないと…あら?」


 フーさんがクーちゃんにとどめを刺す前に、私が二人の間に立つ。

 フーさんは嬉しそう。

 見上げれば灼熱龍もこちらを見て、少し笑った気がした。……私は美味しくないよ。


「すみませんが、勝負は終わりと判断しました。折角なので、私とヤりませんか」


「ふふっ、ふふふふふ。灼熱龍を見て、そんな事を言えるなんて…あなた最高ね」


 ずっとウズウズしていたんだ。

 妖精さんに貰った力を試したいって…

 正直、どんな力か解放しないと解らないけれど、私の中の何かが…今だと告げている。


「フーさん、灼熱龍さん、私の力を受け止めて欲しい……魔眼解放」


 パキリ…頭の中に響く、何かが割れる音。

 そして、脳裏に浮かぶ二つの光。

 一つは、銀色に輝く光。

 もう一つは、白い鎖で雁字搦めに封印された光。


 今は、銀色の光だけという事か。

 光を取ると、暖かいものが流れ込んで来た。

 懐かしい気持ちに、涙が止まらない。

 ……これは、キリエの魔法…ふふっ、そうか……妖精さんがくれたのは、星属性と呼ばれる力。


 私の目の前に白い魔法陣が現れ、更に黒い魔法陣が現れる。

 そして、二つの魔法陣が合わさり銀色の魔法陣へと昇華した。


「…くふっ、お待たせしました」

「…これは…レティちゃん、噂以上ね。こんなの…天才じゃあ片付けられないわ」


 銀色の魔法陣が光を放つ。


「…環境魔法・星体観測」


 そして、煌めく星々が舞い上がった。


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