白銀獅子の剣

 

 翌朝、まだ太陽が出ていない時間に準備を済ませてパンパンへ。

 裏口の鍵を開けて、二階に上がる。

 そろりそろりと音を立てないように歩かないといけない。少しの物音で起きちゃう子もいるから。


 ヘルちゃんの部屋は解っている。

 夕方に遊びに行って女子トークをしに行くからね。

 ノックをせずに、スルリと部屋の中に入る。

 ……寝ていらっしゃる。

 お寝坊さんめ。

 仕方ない…起こすか。


 ベッドに寝ているヘルちゃんを観察。

 ピンクの生地にクマさん柄のパジャマ姿。髪を下ろしているから新鮮だ。

 大きなクマの抱き枕に抱き付いて、幸せそうな寝顔。起こすのが悪いと思ってしまうな…


 そーっとクマさん抱き枕を抜いていく。

 手を外して……足をどかして……よし、取れた。

 クマさんの代わりに私がヘルちゃんの抱き枕になるのだ。

 ……暖かい。このまま寝てしまいそう……


「んぅ……アスティ…好き」

 夢の中で私に会っているのかな?

 ここに居るよー。


「ヘルちゃん、私も好きだよ」

「…ふにゃ?」


 おはようのチューをしてあげよう。

 ……

 ……

 ……

 ……さて、起きようか。


 ヘルちゃんの準備が終わるまで、クマさんを抱いてゴロゴロしている。

 ……あっ、白銀獅子の剣を持っていきたいけれど、予定は明日引き取りなんだよなぁ…早く出来ているかもしれないし、ちょっと寄ってから行こう。


 抱き枕って良いな、私も欲しい。

 グレートモスの抱き枕とか無いかなぁ……商業都市に行けばあるかも。よし、闘技大会のついでに探そう。


「お待たせ」

「うん、武器屋に寄って行って良い?」

「ええ、もちろん良いわよ」


 そーっと部屋を出て、パンパンを出る。

 朝日が少しだけ顔を出して、薄暗い街がオレンジ色に染まっていた。

 この時間は綺麗だから好き。

 人も居ないし。


 路地裏へ行き、武器屋へ向かう。

 私とヘルちゃんは地味スタイルで、目立たず行動する。まだ酔っ払いがいるから。

 路地裏の酔っ払いがゴロゴロ寝ているエリアを抜けて武器屋に到着した。


 ――コンコン

 反応は無い。

 まだ準備中の看板が立て掛けられたまま。

 扉は開いている…ちょっと入ってみよう。


「すみませーん」

「ん? アスティか。出来ているぞ」


「おー、ありがとうございます!」


 白い鞘に納まった剣を受け取る。

 鞘はサービスで付けてくれた。

 持ち手はピッタリ。片手でも両手でも使える長さで丁度良い軽さ。

 引き抜いてみると…おー!

 雪のように純白の刀身。

 斬る事に特化した少し曲線形の両刃。

 柄には肉球のマーク…可愛い。


 あと、ナイフが二本。

 これは竜剣で作ったナイフかな。

 おー! 良いね良いね。

 暗器にも使えそうな長さだ。一本はチロルちゃんにプレゼントしようかな。


「定期的に持って来い。調整してやるから」

「ありがとうございます! 凄い気に入りました!」


「あぁ…サンダーホークの剣を貸せ、調整しておく」

「はい、お願いします」


 いやー来て良かった。

 ん? ヘルちゃんどうしたの?

 視線の先には、サンダーホークの剣。

 ……欲しいの? 雷属性だから相性良さそうだもんね。

 どうしようかなー…あげちゃうと予備の剣がミスリルの剣だけだから、不安なんだよなぁ。


「グンザレスさん、サンダーホークの剣ってまだありますか?」

「いや、火食鳥ならあるがその剣はサンダーホーク三体分の素材を使っているから、中々作れるものじゃない」


 ……三体分って…お高いんだろうね。

 爪を魔石で繋ぎ合わせて作る剣…製法は独自の技を使っているから秘密との事。

 出来ればヘルちゃんの剣も強化したい。

 ラジャーナで良い素材があれば持って来よう。


「良い素材があったら持って来ますね」

「おう、助かるよ」


 武器になる素材リストを貰った。

 Sランクの魔物素材…私が見逃している物も多い。先に貰っておくべきだったな。


 武器屋を出て、転移ゲートへ。

 転移ゲートは一日中やっているから助かる。ご苦労様です。



 ラジャーナに到着。

 まだ早朝なのに人が多いな。

 新人だと早朝から頑張らないと生きていけないんだろう…

 他の街で頑張った方が稼げるんだけれど、ラジャーナに拘る人が多い事多い事。


 ヘルちゃんと素早く行動。

 南門の衛兵さんに手を振って、門から出たら一気にダッシュ。


 新人冒険者が付いて来ていたからね。

 絡まれたら時間が無駄だから。


「ヘルちゃん、荒野まで走るよー」

「ええ、懲りないわね。彼らも」


 みんな生きる為なら何だって利用するからね。

 まぁその内、色々と解らせてあげなきゃね。

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