剣聖。

 

 非公式な試合だから、極力人の居ない場所を希望した。

 道場は人が居るし、帝都に被害があると大変。


 という事で剣聖と共にラジャーナへ。

 あっ、後オレンジ女子も付いてきた。


 南門で少しざわついたけれど、剣聖が鋭い眼光と威圧で黙らせた。

 私は威圧を放つ事は出来ないから羨ましい。

 私みたいなチンチクリンな奴は強い魔力を発しないと効果はない。魔力を発すると攻撃表示とも取れるから、バランスが難しい。

 やたら威圧を放つルール違反な奴はボコボコにされるし。



 場所は荒野の手前。

 人が一番居ない場所。

 魔物が来ても魔力感知で解るから大丈夫かな。



 私はサンダーホークの剣を持ち、剣聖は片手に長剣を持ち対峙。

 大剣かと思ったから意外だな。


 オレンジ女子は少し遠くで見学。


「シエラ、よく見ておけ。この闘いを己の糧とするんだ」

「はい!」


 シエラって言うんだね。

 覚えておこう。剣聖と引き合わせてくれたから。



 それにしてもこの剣は振りやすいな。

 竜剣よりも速度が出そう。


「その剣は…やはりお前がグンザレスのお気に入りか」

「だとしたら嬉しいですね。剣聖さんは大剣かと思いました」


「大剣は魔物相手にしか使わん。……俺の事はリックと呼べ。今から対等の関係だから、敬語も不要だ」

「ふふっ、了解。リック」


「全力で来てくれ。じゃないと意味が無い」

「言われなくとも」


 全力…魔法も有りの殺し合いか。

 非公式だからこそ出来る事だね。

 じゃあ…ずっとウズウズするのも難だから、やりますか。


 あっ、眼鏡は外そう。

 アレス状態になったら、シエラから何かが聞こえたけれどリックから視線を外せない。



「シエラ…一応号令頼む」

「はっはい! それでは…始め!」


 シエラの号令で私も戦闘モード。

 精神を研ぎ澄ましていく。

 先ずは…


「…無元流・静界」


 場の空気を支配。

 これに深淵の瞳を合わせれば、半端な攻撃は通じない。

 深界と名付けた方が良いかな。


「くくっ、やはり試合とは違うなぁ。帝国流奥義・技の結界」


 ……これか、店長が言っていた静界と似た技。

 確かに…同じような技。

 それに威圧も混ぜているから、並みの相手じゃ動く事も出来ない。


「ライトソード」


 剣に光を纏わせる。

 時折火花が散るのはサンダーホークの特性か。


「ライトニングソード」


 バチバチ!

 リックの剣に雷が纏わり付く。

 これは厄介だなぁ…雷は攻撃範囲が広い。


 でもまぁ…

「キュアリング」

 状態異常を常に防げば痛いだけ。



 ニヤリと笑ったリックが振りかぶる。

 先制いただきって事ね。


「雷撃」


 ――バチバチ!

 雷が広範囲に放たれた。

 縦横無尽に駆け巡る雷を躱すのは至難の技。


 でも…全部視えるんだよ。

 少し右にズレ、私に当たる軌道を剣で弾く。


 一瞬の間。


「飛光斬!」

 雷を斬り裂きながら直線の軌道。

「――壊撃」

 もちろんこれくらいは弾くか。

 なら…


「飛光五連斬!」


 五つの斬撃を同時に放つ!

「雷壁」

 バチンッ!

 雷の壁に防がれる。

 これを弾くか…雷の密度も高い。



「……ねぇリック、帝国流剣術とは随分違うね」

「そりゃ、流派なんて基本だ。自分に合った剣術は自分で編み出さなきゃいけねぇ。アスティもそうだろ?」


 流石は剣聖。

 柔軟な思想だ。

 ならば見せてよ。


「激しく同意――乱れ桜・光」


 軌道の違う光の刃を飛ばし距離を詰め…

 リックが防いだ隙に脚を狙う。


「くっ――雷昇撃」

 ――バチバチィ!

 掬い上げる斬撃と共に下から上に昇る雷。


 流れに身を任せよう。


 ――ガキンッ!


 リックの剣に私の剣を合わせ空高く打ち上げてもらう。


 真下にはリックが追撃の構え。

 このまま落ちたら確実に攻撃を受ける。


 普通に落ちたら…だけれど。


「――ソルレーザー!」


 ――キィィイイ!


 狙うは私!


 光の柱を乗せた光速剣技…

 防いでみてよ!


「私流・光墜閃!」


「はははっ! 凄え! 奥義・雷光昇炎斬!」


 雷を纏う炎の斬撃…

 凄い凄い!


 ――バキィィイッ!

 雷炎と光の剣が衝突。

「――ぐぅ…」

 リックは地面にめり込み…


「くっ…やっぱり軽いか」

 私は遠くに吹っ飛ばされた。

 飛ばされながら反動で折れた腕をハイヒールで回復。


 着地してリックを確認。

 まだ這い出してはいない。

 いないけれど、纏うオーラは上昇している。



 とりあえず、ゆっくり戻ろう。

 ふふ…楽しそうに笑うなぁ…


「……こんなに…楽しいのは久しぶりだぁ…」


「私も…楽しいよ」


 人間相手に闘うのが楽しいなんて初めてだな。

 いつも魔物相手だったから。


 ――バチバチバチ!

 リックから溢れる雷。それと炎も噴き出している。


「本気で…いかせて貰う」


 雷と炎…本当に凄いや。


「ふふっ…アビス・セイヴァー」


 私も…少し本気を出そう。

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