やっぱり来ていたか。
流石剣聖の孫…結構速い。
先ずは真っ直ぐに全力疾走。
大通りまで行けば私の庭だ。
よし、段々引き離している。
路地裏に入って直ぐに曲がって曲がって元の道へ。
オレンジ女子の姿は見えない。このまま大通りへ……
「えーん! えーん! ママー!」
迷子!
「君、お母さんとはぐれちゃったの?」
「…うん」
「一緒に探そう?」
「ありがとう…」
あぁ! 身体が勝手に!
無駄な正義感が発動した!
くっ、追い付かれる。でもこの子を置いてはいけない…
こうなったら…
――来た!
手の平をオレンジ女子に向けて…
「一時中断! 迷子優先!」
「…分かった」
何を中断して何が分かったのか解らないけれど、オレンジ女子は私の後ろをゆっくりと付いて来ている。
少し安心。理性はあるみたいだ。
「君の名前は?」
「…イーシュ」
「イーシュちゃんだね。先ずは騎士団詰所に行こうか」
「…うん」
そういえばオレンジ女子の名前を知らない。
名字がノーザイェイだから、困ったらノーザイェイさんで良いか。
幸い詰所は近く。
詰所に入ると、イーシュちゃんが駆け出した。
「ママー!」
「あぁ! イーシュ! ごめんね…ごめんね…」
良かった良かった。
「あっ、ヘボンさんお疲れ様です」
「おぅアスティ。助かったよ……あれ? 後ろの…」
「あぁ…今停戦中です」
「お、おう…まぁ…頑張ってくれ。あっ、あのクッキー嫁も感動していたぞ! ありがとうな!」
「それは良かったです。では」
詰所から出て、オレンジ女子と目が合う。
……何? 何か言おうとしているけれど…
「…優しいのね」
うん。優しいよ。慈悲深きアスティちゃんとは私の事だよ。
落ち着いたかな。
この不毛な闘いを終わりにしよう。
「もう、追い駆けっこはやめにしません? 不毛ですよ」
「……分かった…ねぇ…あの剣は…何処で手に入れたの?」
「ラジャーナの荒野を抜けた先にある草原です」
「…そこに誰か、居た?」
「人間は居ませんでした」
「そっ…か…」
……もしかして、前の持ち主が知り合いとか?
でも私達が産まれる前に亡くなっているからなぁ…
「前の持ち主を知っているんですか?」
「お爺様の師匠なの」
なるほど。オレンジ女子が憧れる剣聖の師匠が使っていた剣を、こんな地味な奴が持っているなんて許せなかったんだね。
だからと言ってあげないよ。
バラスとの友情の証と勝手に思っているんだから。
「そうでしたか。私にとってもあの剣は大切なものなので、譲る事は出来ませんよ」
「解っているわよ…そんなの…でも…お爺様は欲しがるかもしれない」
「だとしても譲りません。たとえ力付くでも負けませんし」
「ふふっ、大した自信ね」
「くっくっく…本当に、大した自信よのう」
オレンジ女子がビクッとしながら声のした方向を見る。
私は気付いていた。校門に居た時から魔力感知に怪しい反応があったからね。
見た目はガッチリしたお爺さん。
五十代くらい…爺やと同じくらいかな。口ヒゲが似合うね。
「…初めまして、アスティと申します」
「これはご丁寧に。セドリック・ノーザイエだ」
「…私に剣を譲れと言いに来たんですか?」
「いや、師匠の剣を拝めるならそれに越した事は無いが……師匠の剣を持つに足る奴なのか…知っておきたいと思ってな」
「それで…どうでした?」
「是非とも…俺と闘って欲しい」
「嘘…お爺様から申し込むなんて…」
…楽しみで楽しみで仕方無い顔をされちゃあね。
私も、剣聖の剣を拝めると思うと…楽しみで楽しみで…
視線が交わり、お互い笑顔になる。
「ええ…喜んで」
堪らないね。
この瞬間。
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