……強いな。

 

『魔法凍結』


 ――パキパキパキパキ

 凍り付いた世界の中で、黒い柱は氷の塊となり…消えていった。

 白銀獅子の身体は所々黒い傷が出来ている。

 ダメージは与えている…か。


 …待て…待て待て待て…魔法が凍る?


 そんなの有りか?


 攻撃魔法というよりは…己の世界に引き込むという事?

 たちが悪い…私の攻撃魔法が封じられたと同じじゃないか。


「…アビスフレイム」


 パキパキ…

 黒い炎を発射。

 私の手を離れた瞬間…凍結。

 砕け散った。


「…うわぁ」



『…名を訊こう』

「…アスティと申します。あなたのお名前は?」


『…バラス。これを使わせたのは、アスティが二人目だ』


 バラス…名持ちか。

 名前がある魔物は…賢く、強い。


 これは…私を認めてくれたという事か。

 環境魔法を使う程の相手。

 本当に、光栄だ。



 それなら…解放しよう…

 対抗出来るのは…解放した深淵の闇。

 黒三日月よりもドロドロとした力…


「深淵の瞳…解放…」


 ズキズキと右目が痛い…痛いけれど我慢。

 ドロドロと真っ黒い霞が右目から溢れる。

 思考が荒れるからあまり使いたくは無いけれど…その分思考が加速するから攻撃特化になれる。


 目から黒い何かが這い出てくる絵面はかなりキモい。キモいけれど、それを突っ込む人は居ないから良しとしよう。


 私の周囲二メートルに黒い霞…これが限界か。でも、この範囲なら魔法が使える筈。


「アビス・セイヴァー」


 ――ギュォオォオ

 竜剣が漆黒に染まる。

 そして、ボタボタと黒い何かが滴り落ちる。

 …本当に、悪者の能力だよねこれ…


 白銀世界が発動している間は、他の魔法は使えない筈。

 …と、信じている。


 剣を軽く振る。


「黒の衝撃」


 黒いエネルギーを飛ばして私がエネルギーを追い掛ける。

 バラスは黒の衝撃を前足で叩き落とした。


 目の前にはバラス。


 真っ向勝負!


「――無元流・乱れ黒桜!」


 先ずは脳天に一閃。

 顔がズレて躱される。

 バラスと視線が合う…笑いおって…


 右前足。

 左側面から弾かれる。

 まだまだ!


 少し力んで起動を変え…たてがみ狙い。

 毛先を斬る程度。



 ならば前足を横に一閃。

 ――ガキィンッ!

 爪で弾かれた…爪硬い!


 鼻先!

 黒の衝撃を放つ!

 あっくそ氷の壁!

 無詠唱かよ!


 バラスの爪が伸びた!

 これは視えたから剣で起動を変える。


 次は口を開いて…


『グォォオオ!』

 氷のブレス。

 おい…


「アホかぁ! アビスシールド!」

 黒い盾で防いでみるけれど、急ごしらえだから強度が…

 バキッ…やっぱり。


 それなら…攻撃は最大の防御。

 黒盾が生きている内に…

 深淵の瞳を最大出力!


 ビキ…ビキ…

 右目が焼けるように痛い…

 ……なんだ…背中に違和感…でも気にしていられない。


『ククッ…まるで堕天使だな。白銀世界よ…我の矛と成れ』


 楽しそうに笑うバラスが白銀世界が集束していく…

 環境型と攻撃型があるのか…


 集束が洒落にならん…

 距離を取ろう。


「アビスフレイム」

 横にアビスフレイムを放ってみる。

 …消えない。よし…これなら…ぅわ…


 ……バラスの頭上に巨大な氷柱。

 鋭い矛先が向いている方向は、もちろん私。


 デカイ…恐らくこれがバラスの最大攻撃。


「くふふっ…防いでみせますよ」


 私の周囲に発生している深淵の闇を、アビス・セイヴァーに全て乗せる。


 黒い刃が肥大させる。

 私の身長を越え、更に大きく大きく…


『面白い…ならば防いでみせよ。環境魔法派生・白銀氷壊』


 来た。


「私流奥義…黒滅」


 全ての闇を剣に乗せて…

 振り下ろす。


 ――オォォオォオォ!


 奈落に住まう怨嗟の声と共に…

 どす黒いエネルギーが巨大な氷柱と衝突。


 氷柱を黒く染めるけれど…


 ――バキッビキ

 力は…氷柱が上…


「くっ…ふぐっ…もっと…力を…」


 流石に…力の差が…

 氷柱に亀裂…

 あと少し…あと少し…


 ――バチンッ!

 拮抗は少しの間…

 黒いエネルギーが四散…

 不味い…氷柱が来る…


「こんな所で…立ち止まる事は出来ない! ソルレーザー!」


 ――キュィィイイイ!


 亀裂を狙ってソルレーザーを当てる。

 中心部分。


 バキバキバキバキ!


 氷柱が真っ二つに割れ、物凄い勢いで私の両側面を通り過ぎた。

 なんとか生き残ったけれど……


「はぁ…はぁ…はぁ…」

『…これを防いだのは、お前が初めてだ』


 バラスは魔力を使い果たしただけ…

 私は身体中が軋み、右目からは血が流れ、深淵の力は使い果たした。

 私自身の魔力は残っている。残っているけれど…ソルレーザーは効かない。


 バラスを倒せる力が足りない。



 バラスはゆっくりと私に近付く。

 余裕だな。


 ったく…災害級だなんて…予想外だし…

 ミズキはよく災害級に勝ったよなぁ…

 ……

 ……ミズキ、か。


 ……ふふっ、そっか…必要なのは力じゃない。



「ふふっ…バラスさん。力も魔力も速さも、認めたくは無いですが心の強さもあなたが上です。ですが…私にも取り柄がありましてねぇ…ライトソード」

『ほぅ…最期の言葉として聞いてやろう』


「私の取り柄は…魔法操作。――ライト!」


 ――ポンポンポンポン!

 バラスの周囲に百を超える光の玉。

 これ事態には攻撃力は無い。


 バラスが興味深くライトを見ている。

 これだけじゃないよ!


「勝利へと導く輝きの道! シャイニングロード! 連結!」


 ライトとライトを繋ぐ光の道が出来上がる。

 クモの巣のように張り巡らされた光の道。

 ミズキのペガサスは出せなかった。出せなかったけれど、この道があれば…それで充分。


 この道に乗るのは…私。


 勢いよく近くのライトに飛び込む。


「――光速剣!」


 ――ザシュッ!

 バラスの背中を斬り裂く。

 バラスが後ろを振り向くけれど、そこに私は居ない。


 …今の攻撃で私の右腕が折れた…弱いな…自分の技に耐えられないなんて。

 それでも…

「ハイヒール」

 回復しながら斬り刻む。


『ぬぅ…氷壁――ぐぅ!』


 そんなの視えている。

 氷の壁しか作れない事も知っている。

 だから後ろから斬れば良い。


 光の道を光の速さで移動する技。

 移動しながら剣を振るう。

 振るう度にバラスの傷が増え、私の身体も壊れていく諸刃の剣。


 回復が追い付かない。

 折れて回復を繰り返すから麻痺してきた。

 それでも…ここで倒れる訳にはいかんのですよ!


「光速剣・天誅!」


 頭上のライトから下のライトへ光速移動。

 渾身の力で振り下ろす。


 ――バキンッ!

 竜剣が折れた。

 不完全な斬撃だけれど、バラスが膝を折り地に伏せた。


「はぁ…はぁ…」

『ぐっ…ふっ…見事だ…』


 斬り伏せられても尚、力強い眼差しは変わらない。

 くそ…強いな…


「……」

『私を…倒しに…来たのだろう…とどめを刺せ…』


 とどめを刺せば、勝利。

 でも…納得いかない。


 私の攻撃リズムに合わせていた。

 光速剣を展開するまで待って貰った。

 私を殺すチャンスは沢山あった。

 納得いかない。


「…グレーターヒール」

『何…を』


「参りました…私の負けです。また…出直して来ます」


 完全に…私の負けだ。


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