何者なんです?

 今日は特事班の詰所で書類の整理。

 色々な事件の資料があるなぁ…万引きから殺人まで。


 因みに『アレスティア王女殺人事件』の資料は見付けた。

『空から降り立った黒騎士が帝国第二皇子を狙い、それを庇ったアレスティア王女が身代わりに刺された。

 黒騎士はその後逃走。後を追っているが進展は無い。

 アレスティア王女の遺体が消えたのは、黒騎士の仕業とみて捜査しているがこれも進展は無い』


 概要と捜査状況が簡単に書かれているけど、進展は無い…か。

 一応フーツー王国とニートー帝国で共同捜査。結構な人員を投入しているから人員不足で、特事班にも影響が来ている。

 私がスカウトされたのは、これも一因かな。


 んー…黒騎士に会う事は出来るかな。

 情報が無さすぎるなぁ…覚えている事は…黒い鎧と、剣。それだけ。


「あっ、ロバートさん。調べて欲しい石があるんですけど」


 近くで項垂れていたロバートさんに白く光る黒柱石を渡す。

 …どうしたんですか?奥さんと喧嘩したんですか?

 ほうほう。忙しくて数日家に帰っていないんですか。

 奥さんに怒られますね。

 ストレス溜まっている顔していますけど…ヒールいります?

 じゃあヒール…肩凝り治った? 良かったですね。


 …ミリアさん、肩回してチラチラこっちを見ていますけど、ヒール欲しいなら言って下さい。

 今詰所には、ロバートさん、ミリアさん、私。

 レジンさんはしばらく騎士団本部に居る。

 クロムさんはしばらく魔法士団。

 もう一人は、私殺人事件の捜査班に居るらしい…


 あっそうだ。


「ロバートさん、第二皇子って新しい婚約者は決まったんですか?」

「あぁ、確かアース王国の王女様だな。元々アース王国だったらしいが、アレスティア王女の噂が凄かったからな…元鞘って奴だ」

「噂? アレスティア王女って『引きこもり王女』以外に噂はあったんですか?」

「そんな噂があったのか?あぁ…アスティは王国出身だからあり得るか…」


『引きこもり王女』は私がよく言われていた言葉。

 パーティーになると体調不良を起こし、式典になると高熱が出るという都合の良い体質を持っていた。

 半分は仮病だったけど…そのお蔭で学校以外では城に引きこもり…


 で? 噂とはなんぞや。

「貴族の子息…ほぼ全員がアレスティア王女の婚姻を希望したんだ。入学式の後直ぐにな…これは帝国の歴史でも無かった前代未聞の出来事。

 そのせいでアレスティア王女は他国に嫁ぐしか出来なくなったんだ」


 そうなの? 私モテモテだったんだね。やったぜ! とはならないのが貴族の世界。

 私が王国の貴族と婚約したら、貴族間の内部争いが起きる恐れがあったらしい。

 だから国王は王女をどう扱って良いか悩んでいたみたいだね。

 悩んだ挙げ句に皇帝に助力を願って、結果第二皇子と婚約…か。

 王女が死んで、収まる所に収まった訳だから結果的に良い方向に行ったんだね。

 …それならますます王女としては王国に帰れない。


 どうすっかなぁー。まぁ…第二皇子の婚約者も居る事だし、少し安心。今まで通りで良いか。

 王女だと言われても王女じゃないと言い張れば良い。

 髪の毛の色も変わって、魔力も変質してるし、大丈夫だね。



 …でも…ここまで育ててもらった分は返さないとなぁ…お金にすると幾らだろ?

 …解らない…ムルムーが居たらなぁ…

 ……あっ…そうか…私がムルムーを雇えば良いんだ!

 でもどうやって? …ムルムーの実家に手紙を送ってみるか。

 確か王国のロレンタ子爵家…ハードル高いなぁ…


 …今のムルムーを知らないから、どう動いたら良いか解らない。

 知っていそうな、それでいて安全な人…居ないな。

 仕方ない…直接行こう。


「ロバートさん、今度姉に会いに里帰りをしようと思うんですけど、いつなら行って良いですか?」

「んー…今月中には落ち着くから…来月なら良いぞ」

「おっ、ありがとうございます!」

「…一人で行くのか?」

「はい、そうですが…おかしいです?」

「あぁ、いや、気をつけてな」


 片道一週間…王都滞在を入れて二週間と少し…一緒に行ってくれる人は居ない。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 水の日。

 今日はリアちゃんとデート。

 という事で『パンケーキのお店パンパン』で待ち合わせ。

 ……

「おはよう、アスきゅん」

「おはようございます、リアちゃん。なんか動きやすそうな格好ですね」

「アスきゅんのもあるよ?」


 リアちゃんは紫色の『じゃーじ』という服を着ていた。

 動きやすくて可愛い服…くれるんですか?でも銀色とか、なんか恥ずかしいんですけど…


「あの、こんなに貰っちゃって良いんですか? お代は払います」

「良いの。だって世界一可愛い女の子にパンケーキを食べさせて貰えるなんて、お金じゃ買えないから」

「リアちゃん…」


 リアちゃんは今まで会った女性の中で、ダントツ美人だから世界一の美人はリアちゃんですね!

 ――ごふっ…ギュッてしないで、眼鏡が顔に食い込むから…


 私も『じゃーじ』に着替えて、二人でラジャーナへ。

 と思ったら、リアちゃんがパンパンへ入って行く。

 あれ? 忘れ物ですか? 私も来い?

 …リアちゃんに手招きされ、パンパンの二階…居住区へ。

 裏の階段を上ると、沢山ドアがある。

 一番奥がリアちゃんのお部屋。


 お部屋に入ると、ギュッとリアちゃんに抱き締められた。

 リアちゃんのおっぱいに、私の顔が埋まる。…至福。

 いや、なんで?

「――ふふっ、テレポート」

 バシュン――


「……へ?」

 身体に当たる風に違和感を感じ、リアちゃんのおっぱいから逃れた私が見たのは、見覚えのある荒野。

 …あれ? なんで?


「驚いた? ここはラジャーナだよ」

 …コクコクと顔を縦に振るしか出来なかった。

 ラジャーナ? さっきまでリアちゃんの部屋に居たのに…


 …もしかして。

「転移…魔法?」

「正解」

 …いやいやいやいや。

 転移魔法なんて、古代に失われた魔法だよ。

 転移ゲートはあるけれど…古代の遺物だから、一から作る事は出来ない。

 まして一人の人間が使うなんて…超級魔法じゃないか!

 リアちゃんの顔を覗き込むと、盛大などや顔…自慢したかったんだね。


「…リアちゃんは、どんな属性を持っているんですか?」

「…秘密」

 …リアちゃん…何者なんだよ…

 何? 可愛い女の子を守る正義の使者? 何言っているんです?


 荒野でニコニコ笑う美人さん。絵になりますね…いやそうじゃなくて…まぁでも…何者かなんていいか。私は正体隠して生きている訳だし、お互いに話したくなったらで良いですよね?


 友達ですから。


 でもちょっと、落ち着かせて下さい。

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