武器屋へ行こう。

「おはよう、ティーダ君」

「おうアレス。今日も地味だな」


 翌日、学校へ。今日は国語。国語は得意分野だけど、帝国の国語はどうだろう。

 学活では、ラジャーナで新人が無謀な戦いをしているから、誘われても絶対付いていかない様にという連絡。

 皆はバカだなーって言っているけど、新人冒険者って生活厳しいから、そう選択するのも不思議じゃないよ。

 一番安い保存食って、すげーマズイんだ。食べた事あるかい?寿命が縮むくらいマズイんだ。



「アレスはラジャーナ行った事あるのか?」

「あるよ。ティーダ君は?」

「まじか、俺は無い。親に絶対行くなって言われてるし」


 まぁ、弱い者はラジャーナに行くなというのは帝都の常識。

 屈強な冒険者が多数在籍。衛兵も強い。

 何故なら、魔物の強さが他とは違う。


 ラジャーナ周辺で一番多い魔物のランクはC。次にBが多く、次がFEDA。Cを5とすると、Bが3、FEDAが1ずつ、Sは稀だけど。


 つまり、単純計算すると…ランクFのゴブリンを狩りに行く為には、オーガに 20体以上回遭遇しないとゴブリンに会えない。

 まぁ、低ランクの狩り場はあるからあくまで目安だけれども…


 帝都周辺の魔物がF、Eランクがほとんどと言えば、どれだけ危険地帯か解ると思う。

 ラジャーナで活動していると言えば一目置かれるのは当然で、毎年名声が欲しい新人冒険者が散っていくのは事実。



 学活が終わり、国語の教室へ移動。国語は人気があるので、大きな教室に行く。1~5組と6~10組に分かれて講義。


 ティーダ君は薬草学の講義に行くので、別の男の子と移動して行った。私は国語に行く人の流れに付いていく。


 教室は100人以上入れる広さの大教室。前の方に座っているのは成績上位の人が競っている場所なので、入り口にある出席表に印を付けて後ろの方へ。


 後ろにあまり生徒は居ない。先生に良い印象を覚えられた方が成績が良くなる可能性が高いから。内申点だね。

 私の場合は、特事官という事で…内申点は爆上げな筈だ。そう信じているだけだから実際は解らないけど。



「ねぇ、隣良い?」

「あぁ、どうぞ」


 見た事無い女の子。二組じゃ無いね。

 あっ、フラムちゃんがキョロキョロしてる。ここだよー。


「おはようアレス君、後ろだったんだねー」

「おはようフラムちゃん」


 フラムちゃんが私の隣、見た事無い女の子の反対側に座る。

 男の子達がチラチラ振り返っている。人気だねフラムちゃん。

 睨まないでね、私は女の子だよ。



「ねぇ、私ミーレイ。よろしくアレス君」

「うん、よろしくミーレイちゃん」


 ミーレイと名乗った女の子は、青い髪で少したれ目の優しそうな顔をした女の子。泣きボクロは色気がありますね。

 フラムちゃんとは対象的な顔付き。フラムちゃんが優しそうじゃないという事では無いけど、フラムちゃんってつり目がちというか、猫目だから。


 ミーレイちゃんは一組。成績上位者。後ろに居るのは気まぐれかな。



「フラムちゃん、今日は三番の聖域に行くから。駄目なら一番」

「うん、解った」


 三ヶ所ある聖域の内、今日は三番の聖域に行く予定。言っておかないとすれ違うから。


「二人は仲良いのね。付き合っているの?」

「仲良しだけど、付き合っていないよ」


「ふーん。慌てない所を見ると本当みたいねぇ」


 確かに、付き合っているみたいに見える。

 一緒に帰っているし、一緒の場所で働くし、そのままお泊まりするから一緒に寝るし……ふむ。


 フラムちゃん、顔赤くしちゃ駄目。抱き締めたくなるから。


 男の子諸君、講義中だよ。振り返っちゃ駄目だよ。ほら、先生が見てるよ。睨まないでね、三人共女の子だよ。



 講義はこそこそ三人で話しながら受けて前半、後半は直ぐに時間が過ぎた。講義内容は問題無い。余裕のよっちゃんです。


 フラムちゃんは後で合流するから友達の所へ。

 ミーレイちゃんは終わってもこっちを見てる。なんですか?


「アレス君って凄く良い匂いがするね」

「匂い?あぁ、花の匂いかな。毎日ポプリを作ってるから」


 お花屋さんの上にある部屋だから、花の匂いがするのは当然か。部屋にも沢山飾ってるし、しおれた花は加工してポプリにしたり、最近は香水の研究もしてる。

 店長曰く、私の配合したポプリが貴族の女性の中で軽くブームらしい…店長顔広いな…

 1日10個限定販売…もちろん即完売する。余った花を使っているから、生産量は変えないつもり。


「へぇー、どんなポプリ?」

「見る?一個あげるよ」


 鞄に手を入れて、収納から小さな瓶…ポプリを渡す。

 これは自信作。女子力アップする事間違いなし!



「うわぁ、凄く良い匂い!貰って良いの?」

「うん。これはまだ試作だから」

「ありがとう!」


 凄く喜んでくれた。それはもう喜んでくれた。良かった…他の人の意見って大事だから助かる。

 ミーレイちゃんは一組の教室へ戻って行ったので、聖域に行こうと席を立つと、数人の男の子がこっちに来た。


「お前、フラムと…つ、付き合ってんのか?」

「付き合っていないよ。君はフラムちゃんの事、好きなの?」

「は?き、一緒に居たから気になっただけだ!行くぞ!」


 素直じゃ無いねぇ。好きなの?って聞けば慌てるのは特性なのかな?解りやすい…



 一人になったので、聖域へ。

 ……

 ワンピースに着替えて聖域から出ると、フラムちゃんが待っていた。


「アスティちゃん。帰ろう!」

「うん!」


 手を繋いで学校から出る。注目はされるけど、話し掛けられる訳じゃ無いから気にしない。


 フラムちゃんの友達が居たから、会釈して通り過ぎていく。


「フラムちゃんは今日も剣術道場?」

「うん。午後は大体道場だよ。アスティちゃんは来ない?」

「私は流派が違うから遠慮するよ。魔物と闘う方が性に合ってるし」

「そっかぁ。魔物ってどんなのと闘うの?ゴブリン?」

「オーガだよ」


 フラムちゃんが首を傾げて、もう一度聞いてきた。オーガだよ。

 そうそう、Cランクの。言って無かったっけ?オーガだよ。

 またまたーって言われても、オーガだよ。



「アスティちゃん…新人冒険者にそそのかされたの?」

「いや、私は一人で倒してるよ。むしろ私が一人で倒すせいで、新人冒険者がオーガに挑戦してるんだよねー。困ったものだ」


 うんうんと頷いて、迷惑な冒険者を思い出す。フラムちゃんは余り信用していないな…それなら光の日に連れて行こうかな…駄目かな。


「じゃあフラムちゃんも来る?オーガくらいなら一日で倒せる様になるよ?」

「いやいやいや、無理無理無理!それは無理!一日でなんて無理でしょ!?」

「そう?私は一日で倒せる様になったよ?大丈夫!止めを刺すだけだから!」


 本当に止めを刺すだけ。壁を二、三回越えれば倒せるよ!やろう!決めた、フラムちゃんもオーガを倒そう!

 友達は一緒に努力して、乗り越えて、綺麗な夕陽を見るって本に書いてあったから!


 お店で、血の気が引いた顔をしているフラムちゃんと別れる。

「店長ただいまー!」

「おかえりなさぁい!」


「行ってきまーす!」

 また着替えて大通りへと繰り出す。武器屋に行くだけだから、地味眼鏡は外そうかな。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 店長お勧めの武器屋。

 大通りの真ん中から路地裏に行った先。

 中に入ると、武器が並び、奥に店主さん。髭もじゃのおじさん。


「いらっしゃい」

「どうも、ゴンザレスさんの紹介で来ました。アスティです」

「…聞いているよ。見せな」


 少し欠けた竜剣を出して、店主に渡す。

 刃を光に当てて、欠けの具合を見ている。


「…直ぐに直すなら、高ランクの魔石が要る。無かったら三週間って所かな」

「あっ、じゃあこれ使って下さい」


 デスジャイヂ・ギガンテスの魔石を取り出して渡す。どうやって使うかは解らないけれど、これで充分過ぎるというので良かった。


「魔石は使い切れない。良かったら買い取るが…」

「あっ、じゃあお願いします!予備の武器が欲しいんですけど、見て良いですか?」

「ああ、白金貨五枚分なら無料にしてやる」

「そんなに!?ありがとうございます!」


 白金貨五枚…これなら良い武器買える!店内を見渡して、軽そうな剣を探す。

 ……ミスリルの剣を発見。軽くて魔力伝導率が高い金属。女性用の小振りな剣を手に取ってみる。


 …重心は真ん中。技を出しやすいかな。これは…白金貨三枚、買おう。


 後は…ナイフかな。持っていた安いナイフは折れたから、ミスリルは白金貨二枚…丁度良い。


「これ下さい」

「…まいど」


 ミスリルの剣とナイフは、持っていって良いと言うので収納する。夕方に出来上がるというので、一人で『パンケーキのお店パンパン』へ行く。

 もう一度行ったから怖くない。男の子の格好だけど気にしない。

 甘い物が食べたいんだ。




 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「いらっしゃいませー!お一人様ですかぁ?」

「…はい…一人です」

「じゃあご案内しますねぇー!お一人様ご案内します!いらっしゃいませー!」


「「「いらっしゃいませー!」」」


 やめろ!ボッチなのを周知させるな!声がデカイんだよ!

 それが無かったら最高なのに…


 席に案内されて、パンケーキを注文する。

 待っている間は本を読もう。ロバートさんが犯罪心理学の本を貸してくれたからそれを読む。

 読んでいると、誰かが立ち止まってこちらを見ている気がする。悪かったね、ぼっちで。



「…あ、あの、この前学校に来てましたよね…」


「…はい?あっ、ミーレイちゃん…」


 うわー…気まずいよね。同級生に会うなんて…

 ミーレイちゃんが友達らしき人と来ていた。

 やめて…何こいつ男のくせに一人で来やがってみたいな目で見ないで…


「あっ、えっ、あの、なんで私の名前知っているん、ですか?」


 ……あっやばい…眼鏡してない…



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る