第4話 インスマスの戦い

 「琥珀で全部できている・・・」

 チャドやベラナたちは絶句する。

 見学者を排除した美術館の館長とヒラー、ハリスも驚きの声を上げた。

 「これはすばらしい・・・」

 館長は鑑定をはじめる。

 「博士。パンくずをたどってきたよ」

 ダスティは祭壇に近づいた。

 祭壇から映像が現われた。映像は後ろの壁に投影される。映像は白黒でアインシュタイン博士が映っている。

 絶句する館長たち。

 「この映像を見ているということは琥珀の間を見つけたのだね。これを見る頃には私やラバン博士、レミー博士、クロウ・タイタスは死んでいるだろう。アコードや私も含めて時空ブリッジを狙う者、邪神信奉者、時空侵略者とその下僕から守る事した」

 アインシュタイン博士は口を開いた。

 「この映像を見る頃には平和になっているだろう。だがその代わりに邪神信奉者や時空侵略者の下僕、時空ブリッジを狙う者たちが暗躍している。時空ブリッジを巡って歴史では二度の大戦が起こり古くは始皇帝やナポレオンも時空ブリッジを狙いその度に戦争になった。これを憂いた先人たちは時空ブリッジに関係する遺物や危険と思われる古代遺物や遺跡を名画や美術品、地上絵、遺物という形で封印した。私たちもそうしてきた」

 博士のそばにいたクロウ・タイタスが口を開く。

 「この映像を見るということはそういう輩からそういった危険な古代遺物を守る戦いが始まるということだ。そのために我々は国連に働きかけ”ブリッジゲート”チームを創設した。初代チームメイトはクロウ・タイタス、

アンリ・ローラン・ド・マリニー。スパイク、

ジェスロ、栗本、ラズリー、チャールズだ。どこまでやれるかわからないが守るつもりで戦う」

 ラバン博士ははっきり言う。

 「時空ブリッジを守らなければ時空の門が開いてしまう。そうすると邪神クトゥルーが復活する。そして世界は滅亡する。そうなる前に先人たちは未来人と一緒に時空兵器やアイテムを開発して封印した。それらは古代遺跡や遺物という形で隠した」

 レミー博士が世界地図を指さしながら言う。

 「近未来。隕石が落下する。私はマリニー博士と共同研究してこの隕石が落下すると予測した。その隕石には未来人からの贈り物が入っている。その頃にはまたゲートスクワッドも再結成されるだろう。幸運を祈る」

 アインシュタイン博士はそう言うと舌べらを出した。

 映像はそこで終わった。

 映写機をつかむジョセフ博士。

 映写機から指輪が落ちた。

 ダスティは指輪を拾った。

 「スパイク。君は初代ゲートスクワッドチームのメンバーだったんだ」

 ダスティが破顔する。

 黙ったままのスパイク。

 「琥珀の間をどうする?」

 ベラナが聞いた。

 「ロシアに返還する。もともとロシアの物だったからね」

 ダスティが当然のように言う。

 「え?だってこれお金の塊だよ」

 チャドとマイルズが反論する。

 「ナチスが盗んだものをアメリカ国内に隠したんだ。本来はロシアの宝だ」

 ガーランドがはっきり言う。

 「そうだよね。残念だな」

 深いため息をつくチャドとマイルズ。

 「記者会見しないとダメだね。政府に知らせないと」

 館長がポンと手をたたく。

 「アコードの調査隊が見つけたと言ってください」

 ヒラーは館長の腕をつかんでFBIの手帳を見せながら年を押した。

 深くうなづく館長。

 「わしも一緒に行って説明しよう」

 ガーランドはうなづいた。

 

 ボストンにあるアコード事務所に入るダスティたち。

 ガーランド、ハリス、ヒラーは館長と一緒に説明に行っている。

 ふと窓から外を見ると夕日が見えていた。

 「ダスティ、サニー、チャド、マイルズ。事務所の上の階の部屋は何室か取ってある」

 ベラナは部屋の鍵を渡した。

 食堂でピラフを食べているとスパイクはテレビをつけた。

 「今、新しいニュースが入ってきました。ボストン美術館の地下から本物の琥珀の間が発見されました。発見したのはアコードの調査隊です。これは歴史的な発見です」

 女性アナウンサーは口を開いた。

 「早いなもう記者会見だ」

 チャドがハンバーガーを食べながら言う。

 「ヤフーや動画サイトでも流れてる」

 ダスティは携帯端末を見ながら言う。

 「琥珀の間を狙っている連中にわかりやすいように流したのか?」

 スパイクはささやいた。

 「そうなるな。あとは敵の出方次第だ。次はどうでるかだ」

 ジェスロは小声で言う。

 「俺の直感ではまだ事件は終わってない。連中はあの子を狙う」

 スパイクは感じたことを言う。

 「いつもそうだが君の直感は当たる」

 栗本は魚定食を食べながら言う。

 ダスティはピザを食べながら携帯端末を見ている。

 「連中は相当しつこそうだ。裏では傭兵を雇いダミーの探偵会社を使い魔物を召喚できる召喚士を支配する魔術をかけた」

 ラズリーが声を低めた。

 「私はクルップ社が怪しいと思うね」

 チャールズが言う。

 ダスティたちも身を乗り出す。

 「ハッキングしてわかったことはクルップ、飯綱開発とレイス共同事業でこのタワーを造っている」

 チャドはタワーの写真を出した。

 「シアトルタワー?」

 ベラナが聞いた。

 「ウオーデンクリフタワー。二コラ・テスラが造った。二コラ・テスラは天才科学者であると同時に発明家だった。あのエジソンと交流か直流電流でもめている。そして彼は日露戦争のときにロシア帝国のニコライ二世からあるものを造るように頼まれる。それがこのタワーだ。ロシア帝国は実際に満州の奉天でそれを作って日本軍をプラズマパワーで壊滅させようとしたが電力が足りずに失敗。おかげで二コラ・テスラは大恥をかいてロシア帝国は日本に負けた」

 マイルズはipadを出してわかりやすく説明した。

 「二コラ・テスラはその時、ニコライ二世に自分は時空侵略者を呼ぶことができると大ホラを吹いた。それ以前に何度か自分はエイリアンと何度か交信したとかぬかしていた」

 チャドは声を低めた。

 「何も証明できずに死んだ」

 たたみかけるスパイク。

 「そういうことになるね。でも彼の発明を誰かが復活させクルップ社との共同事業に持ちこんだ。事実、インスマスにウオーデンクリフタワーが建っている」

 マイルズが衛星画像を見せた。

 そこには五十メートルを超える塔が建っている。

 「しかし一本だけではこの国は滅ぼせない」

 ジェスロが口をはさむ。

 「彼らもそんなバカじゃないさ。別の目的だろうな」

 スパイクが核心にせまる。

 「例えば時空ブリッジをつなげてしまうとか?」

 ダスティが口をはさむ。

 「そこまでは出力が足りないね。電力会社はないし電線はない」

 否定するチャールズ。

 「ここから先はアコードの仕事だ。明日は君たちをあの町に送っていく」

 ジェスロが言う。

 唐突に全員の携帯が鳴り出した。

 「緊急地震速報?そんなアプリは入れた覚えないよ」

 ダスティが驚きの声を上げる。

 「日本じゃなくて震源がボストン沖だって」

 サニーの顔が青ざめた。

 すると皿やコップが小刻みに揺れてドンという突き上げるような衝撃にテーブルやその辺のものにつかまるダスティたち。

 「地震だ。机の下に潜れ」

 栗本はダスティとサニーの頭を机の下に押し込んだ。

 大きな揺れは最初だけ次第に揺れは小さくなってやがて揺れなくなった。

 ホッとするダスティたち。

 「火の元に気をつけろ」

 栗本は食堂にいた従業員たちに注意を促す。

 「さすが地震国日本」

 感心するジェスロ。

 「本日東部時間十八時ごろマグニチュード5・8の地震が発生しました。震源はボストン沖四十キロ。津波の心配はありません。ですが多少の海水の変動はあると思われますので海や河口には近づかないで下さい」

 男性アナウンサーが報告する。

 「火の元は大丈夫で非常口はOK」

 栗本は出入口や火の元を確認している。

 「栗本さん大丈夫だよ」

 ダスティは声をかけた。

 「それはわかっている。まああの大震災のこともあるからね」

 栗本はお茶を飲んだ。

 「栗本さんの家は東北地方だったんですか」

 ダスティがたずねた。

 「家族は横浜にいて助かっている。自分は予選レースの打ち合わせで石巻にいた。そこに震度7の地震が来て大津波が押し寄せた。自分たちは助かったが石巻や大槌の方は大津波で街は壊滅した」

 どこか遠い目をする栗源。

 黙ってしまうダスティ。

 七年の二〇一一年三月十一日の運命の日、いつもと変わらない日常を大地震と大津波が破壊した。地震よりも大津波で亡くなった人たちが多い。そして電源を失い福島第一原発の爆発。考える事の多い災害となった。自分はテレビでその大津波と大地震の映像を見たし動画でしか見たことない。自分でも何か恐ろしいことが起こっているという恐ろしさを感じたのを覚えている。

 あの大震災で人間だけでなく普通のミュータントもマシンミュータントも巻き込まれた。死者の中には大津波に巻き込まれて死んだマシンミュータントも入っているのだ。

 「これで一件落着でよかった」

 チャドとマイルズがうなづく。

 「でもなんかまだ解決していない気がする」

 ダスティが気になることを言う。

 「ここからはアコードとFBIの仕事よ」

 サニーが言う。

 「だってインスマスの半漁人の問題が解決していないよ。隕石といい地震といいなんか嫌な予感がする」

 ダスティはなんともいえない不安を言う。

 なんか心のどこかでモヤモヤしている。

 「それは俺も納得していない。ここから先は我々アコードの仕事だ」

 横山は言った。

 クルップ社本社

 社長のクレメンは怒りにまかせてボールペンをへし折った。

 テレビニュースでアコードと政府の会見が続いている。

 「琥珀の間はアコード調査隊が発見したことになっていますね」

 イレーヌは紅茶を運んできた。

 「そうきたか」

 クレメンは紅茶を飲む。

 アコード調査隊は表向きは調査だが裏では監視任務をしている。誰も本物の琥珀の間発見に沸いているときが行動しやすいだろう。

 「インスマスにいる支店長にこう指示をしろ。プロジェクト始動」

 すました顔で言うクレメン。

 「社長はインスマスに行くのですか?」

 イレーヌがたずねた。

 「私はここにいる。顧問弁護士を待機しておくんだ。失敗したときのために謝罪会見の用意もしておくんだ」

 クレメンはほくそ笑んだ。


 翌日。

 食堂でご飯を食べるチャド、マイルズ、サニー、ダスティ。

 しかし廊下を魔術師やハンターたちが何人も走っていく。

 ジェスロ、栗本、ラズリー、チャールズも軽い食事をすませて足早に出て行く。

 「ベラナ。どうしたの?」

 ベラナをつかまえるダスティ。

 「ボストン港やプリマス、ケープゴットでおたまじゃくしみたいな魔物の浮上が相次いでいるから退治に行くんだ」

 ベラナが言う。

 スパイクはテレビをつけた。

 「君らはここで待機だ。あまり外へ出るな」

 横山が注意する。

 ベラナ、横山、グロリアは退室する。

 「新しいニュースが入ってきました。ボストン港、ケープゴット、プリマス港で相次いで小型のおたまじゃくしのような魔物の浮上の目撃が相次いでいます。港や川には近づかないで下さい」

 女性アナウンサーが注意する。

 画面に小型の魔物の群れが浮いている映像が見えた。

 ダスティの頭の中で魔物の群れと半漁人がどこかでつながる。

 「スパイク。アコード本部へ行かないとダメだ。ぜんぜん解決していない。時空ブリッジの門を誰かが開けようとしている」

 訴えるように言うダスティ。

 「インスマスは危険だ。それに全米のハンターに召集命令が出ている。この分だと非常事態宣言が出て軍も出動する」

 スパイクは携帯端末を見せた。

 「原因はインスマスのタワーだ。時空に穴を開けようとしている。止められるのは僕の時空兵器だ」

 ダスティははっきり言う。

 「ダスティ。やめなさい」

 強く言うサニー。

 「インスマスのタワーは時空兵器でないと止められる」

 真剣な顔になるダスティ。

 「おまえいい顔になっているじゃないか」

 フッと笑うスパイク。

 「坊ちゃん。インスマスは恐ろしい所だよ。半漁人と邪神の眷属がウヨウヨいるんだよ」

 チャドとマイルズが首を振る。

 「ダスティ。戦いになったら俺たちから離れるな」

 スパイクは厳しい顔で注意する。

 「はい!!」

 うなづくダスティ。

 「ちょっと待ちなさいよ」

 サニーがわりこんだ。

 「まだあるのか?」

 ムッとするスパイク。

 「私達も戦うわ」

 真剣な顔で言うサニー。

 「とんだ泥船に乗ったがやれるところまでやるぞ」

 チャドとマイルズが互いに見合わせる。

 「では今すぐ出発だ。アーカムにテレポートする。そこで武器を調達する」

 スパイクは強い口調で言う。

 ダスティたちはうなづく。

 「テレポート」

 スパイクは呪文を唱えた。力ある言葉に応えて彼らの姿が消えた。次の瞬間、どこかの大学の敷地内に着地した。

 「ここは?」

 周囲を見回すダスティ。

 「ミスカトニック大学の中庭だ。ここを出ればアコード本部と魔術師協会本部がある」

 スパイクは答えた。

 「本当にミスカトニック大学に来れた」

 目を輝かせるダスティ。

 ミスカトニック大学はハーバード大学と同じようなアイビーリーグの名門である。ただマサチューセッツ工科大学やハーバード大学とちがうのは研究者のほとんどは考古学者や魔術書や古代魔術、時空ブリッジ関係といった学科や研究棟が多いこと。大図書館が扱う書籍も魔術書から閲覧禁止の暗黒魔術やネクロノミコンやルルイエ異本、ナコト写本といったものまで蔵書は珍しい書物が多い。閲覧禁止のものは特別閲覧室でしか扱っておらず閲覧にはアコード本部や魔術師協会本部の許可が必要と厳重だった。寄稿本以外にも宝物庫には魔術武器や魔術アイテムも保管している。戦前の南極探検、西オーストラリア砂漠探検での考古学、地理学においての多大な功績を挙げている。セーラムの魔女の家での遺物も保管されている。

 だが進学には高い壁があり、魔術師であることと魔物ハンターの訓練を受けてハンター資格があることである。それも地元の魔術師協会やアコード事務所の推薦と大学入試を受けなければ入学できなかった。

 大学の中庭を出ると魔術師たちが続々とテレポートしてきて隣接する基地へ入っていく。

 同じように魔物ハンターや邪神ハンターも続々と本部へ入っていく。

 「レクター」

 スパイクが呼んだ。

 足早に歩いていたレクターが振り向き駆け寄ってくる。

 スパイクはレクターの腕をつかみ中庭に引っ張りこむ。

 「ダスティ?サニー?」

 驚きの声を上げるレクター。

 あわてて口をふさぐスパイク。

 「どうしてここに?」

 レクターは声を低めた。

 「武器がいる。初心者でも扱える魔術武器を持ってきてくれないか」

 スパイクが指示を出す。

 「わかった」

 レクターはしぶしぶうなづくと中庭から出て行く。

 「図書館のカフェにいろ。そこならいても怪しまれない」

 スパイクは図書館を指さした。


 「新しい情報が入ってきました。政府はマサチューセッツ州全域に非常事態宣言を出しました。インスマス全域の魔物の活動の活発化を受け軍の出動要請が出ています。東海岸全域に魔物警報が出ています。公共の避難施設に避難してください」

 女性アナウンサーは地図を指揮棒で指さしながら説明した。

 「すごい大事になったな」

 チャドはピーナッツを食べながら言う。

 「ボストン国際空港及び東海岸全域の空港は閉鎖されています。間もなくアコードのヒューラー総司令官の会見が始まります」

 女性アナウンサーは言った。

 唐突に携帯の緊急地震速報が鳴った。

 「え?地震アプリ?」

 ダスティが驚く。

 「その携帯電話が日本のメーカーだからかもしれないね」

 マイルズが携帯電話のメーカーを見ながら言う。

 「日本じゃあ地震アプリを入れる人が多いらしいよ」

 チャドがコーラを飲みながら言う。

 小刻みに揺れる店内。

 ドン!と突き上げる衝撃。

 しばらく大きく揺れていたがすぐ収まっていく。

 「地震の間隔が狭まっている感じがする。むしろ地震はあのタワーの出力が高まっているのかもしれない」

 ダスティが気づいたことを言う。

 店内に入ってくるスパイクとレクター。

 スパイクは大型のプラズマビームガンを背中にしょっている。大きさも等身大の大きさを誇る。

 レクターは旅行バックからレールガンと呼ばれる魔物撃退用ライフル銃を出した。

 「使い方は拳銃と同じだ。レベル1と2は熊や象を失神させる威力がある」

 レクターは即席で使い方を教える。

 真剣に聞くダスティたち。

 「ここにいたのか?」

 不意に鋭い声が響いて振り向くダスティ達。

 店内に入ってくるベラナたち。

 「スパイク。未成年のそれも訓練を受けていない者達を戦わせるのかね?」

 ガーランドの鋭い眼光が光る。

 「十分戦える。戦時中は女子供も戦った」

 当然のように言うスパイク。

 「今は戦時中じゃない。時代錯誤だ」

 栗本とジェスロが反論する。

 「やはりハンター資格は取り上げるべきだったな」

 ベラナは声を低める。

 「だが今は非常事態だぞ」

 レクターがわりこむ。

 「この戦いが終われば剥奪する」

 エミリーが口をはさむ。

 携帯電話の地震アプリが鳴り始めた。

 ダスティは携帯をのぞいた。

 「震源がインスマス沖五〇キロ。マグニチュード6・5?」

 サニーやチャドも驚きの顔をする。

 ドン!という衝撃とともに縦に大きく揺れ部屋全体がきしんだ。

 「大きいぞ」

 栗本は思わず柱をつかんだ。

 揺れは次第に収まった。

 「地震の間隔が狭まってる。それに震源が移動している。栗本さん。日本じゃ震源が移動することはありえるの?」

 ダスティが話を切り替えた。

 「それはありえるだろう。東日本大震災がそうだったからね。でも今回の地震はインスマスにあるタワーが原因だ」

 栗本は推測する。

 「僕もそう思う。意図的に誰かが時空に穴を開けようとしている。地震はそれのせいで起こっている」 

 ダスティはテレビにうつる地図を指さした。

 

 

 

  「・・・東部時間一〇時頃大きな地震が発生しました。震源がボストン沖、セーラム沖と移動しています。マグニチュード6・5。

震源はインスマス沖です。ここでは断続的に小さな地震が発生しています。発生源はこのタワーだと思われます」

 男性アナウンサーが報告する。

 「アコード本部より全米の魔術師、魔物ハンター、邪神ハンターに招集命令が出ています。またNASAによるとインスマス上空に高いなんらかのエネルギー源がありそれによる影響と思われます。大きな地震があった地区の方々は津波の恐れがあり海や川に絶対に近づかないでください」

 女性アナウンサーは原稿を読みながら呼びかけた。

 「飛行禁止区域が増えました。マサチューセッツ州、ロードアイランド州、ニューハンプシャー州、バーモンド州、ニューヨーク州全域と東海岸全域。これらの州に入る道路や高速道路も通行規制及び通行禁止区域が増えています」

 男性アナウンサーが道路を指揮棒で指さしながら説明している。

 「ベラナ。このままだと邪神が復活して時空ブリッジを使って侵略者がやってくる」

 訴えるように言うダスティ。

 「わかっている。だからあのタワーを破壊に行くんだ」

 強い口調のベラナ。

 「あのタワーのせいで時空ブリッジが強制的に開いてしまう。エネルギーが不安定で未完成だよ。それを止められるのは僕の時空兵器だけだ。僕をあのタワーに連れて行って」

 食い下がるダスティ。

 「それは危険よ。あそこは魔物の巣だ」

 ハリスが言う。

 「私達も行くが覚悟はしている」

 ヒラーが決心したように言う。

 いきなり駆け出すダスティ。

 「どこへ行くの!!」

 あわてるサニー。

 店外へ飛び出して農薬散布機に変身したダスティに飛びかかる零戦。各坐して地面に押し付けられるダスティ。

 零戦は栗本である。

 「おまえの体は戦えるように出来ていない」

 はっきり指摘する栗本。

 「わかってる。僕は農薬散布飛行機だもん。でもあのタワーは僕なら止められる」

 六対の鎖をばたつかせるダスティ。

 「安全の保証はできない」

 栗本は押さえつけながら言う。

 「離せ。僕なら止められる」

 ダスティは強い口調で言う。

 「離してやれ。そいつの決心は変わらなさそうだ」

 スパイクはコルセア戦闘機に変身した。

 栗本はダスティを離すとスパイクに近づく。

 「俺は納得していない」

 栗本はコクピットの二つの光を吊り上げる。

 「わかっている。だが行くしかない」

 スパイクは零戦のプロペラをつかんだ。

 威嚇音を出す二機。

 「ダスティ。なるべく我々から離れるな。そこの三人もだ」

 ガーランドはため息をついた。

 「本気ですか?」

 エミリーが耳を疑う。

 「レクター。その武器だけでは邪神の眷属を傷つけられん。本部の武器庫に案内する」

 ガーランドは手招きした。

 彼の案内で地下の武器庫に入るダスティ達。所狭しと並らぶ棚には魔術杖からハンマー、トンファ、棍棒、長剣といった武器から最新のライフル銃まで並んでいた。

 「今から行く所はここだ。インスマスだ」

 ガーランドは壁の地図を魔術杖で指さした。

 インスマスは半漁人たちが住む前は普通の港町だった。一六四三年に建設されたこの町は南北戦争前は造船業で栄え、十九世紀に入ると中国やインドとの貿易で繁栄。そんな港町に転機が来たのは、この町で有名な貿易商だったオーペッド・マーシュ船長は西インド諸島のとある島にいる「深きものども」と呼ばれる半漁人と接触。安物ガラス細工と引き換えに金製品を持ち帰ってインスマスは繁栄したがダゴン教団は密かに作られ半漁人と交雑が進んだ。ある時、インスマス沖の悪魔の暗礁からやってきた半漁人の仲間が住民を虐殺。マーシュ家、ウエイトリー家、ギルマン家、エリオット家、フィリップス家の五つの家系を頂点とする邪神崇拝の拠点に変わった。

何度も政府による摘発と攻撃を受けて拠点は破壊され、国連やアコードの監視団に監視されるという現在に至る。

 そのインスマスに行く道は一本だけ。監視チームのいる検問所を通過しなければいけいない。この寂れた町に入る路線バスも鉄道もなかった。

 

 アコード本部から出てくるダスティたち。

普段着ではなく国連軍の戦闘服を着用している。武器は魔術武器を携行。レールガンと呼ばれるビーム銃タイプの武器を持つ。魔物だけでなくマシンミュータントも殺傷できるという武器である。

 ダスティたちは戦闘装甲車に乗り込んでインスマスへの一本道を走る。

 アコード隊員が検問所の量子結界のスイッチを切った。

 インスマスを囲む隔離結界が消えて戦闘ヘリや戦闘機が侵入する。

 戦闘車両の窓からのぞくダスティ。

 戦闘機や戦闘ヘリはいずれもミュータントで戦時中に活躍した大戦機や往年の戦闘機から最新の戦闘ヘリも混じっていた。

 海に視線を移せば艦船が見える。

 戦闘艦のミュータントも交じっているのが見えた。

 上空を通過する輸送ヘリには普通のミュータントのハンターと戦車のミュータントが乗っているのが見えた。

 インスマスに入る装甲車。

 町はバラック小屋が並び道路や路地は雑草だらけ。荒れ放題の町の広場で半漁人たちが太鼓の音に合わせて踊っていた。半漁人のそばでインスマス面と呼ばれるカエル顔の人間たちが踊る。

 戦闘車両やハンターたちに気づくと隠してあった武器を手に取って連射。

 港から上陸してくる半漁人たち。手にはライフル銃や長剣といったもので武装していた。

 装甲車から飛び出すハンターやミュータントたち。

 銃弾や攻撃魔術が飛び交う中をダスティたちを乗せた装甲車はスピードを上げて通過していく。

 洋館のある丘にそのタワーは立っていた。

 タワー基部に男性が儀式をしているのが見えた。

 背後でミサイルが命中する爆発音が響く。

 どこからともなくインスマス面の人間と半漁人たちが接近してくる。

 二台の装甲車から飛び出すダスティ、サニー、チャド、マイルズ、ヒラー、ハリス、エミリーたち。

 別の装甲車から出てくるスパイク、ジェスロ、栗本、ラズリー、チャールズ、ベラナ、横山、グロリア。彼らはそれぞれ融合している戦闘機に変身。そして舞い上がりスパイクはプラズマガンを発射。

 そこにいたインスマス面の人間たちは感電して焦げて塵になった。

 どこからともなく大型のエイかコウモリのような魔物の群れが出現する。

 急旋回して背後を取り機関砲を連射する栗本。銃弾は炎の弾だった。命中して四散して燃えながら落ちた。

 ジェスロの機関銃の攻撃をかわす魔物。

 「魔物にしてはいい飛び方だ」

 感心するラズリー。彼はホッカーハリケーンでチャールズがスピットファイアだ。

 正確にミサイルで撃墜するベラナ、グロリア、横山。

 ヒラー、ハリスはレールガンで飛びかかる半漁人たちを撃っていく。

 エミリーが動いた。その動きはダスティや半漁人たちにも見えなかった。

 彼女が着地すると数十体の半漁人たちが袈裟懸けに切られ死んでいた。

 ガーランドは魔杖を向けた。黄金色の光が炸裂。衝撃波でインスマス面の人間たちは吹き飛ばされた。

 サニー、チャド、マイルズはレールガンを連射しながらその戦闘の中をダスティと一緒に駆け抜けていく。

 タワー基部に近づくダスティ。

 基部の前で男性は呪文らしいものを唱えている。その言語は英語でもない。何語か聞き取れないような低くうなるような声でつぶやき両手を高く掲げた。

 「もうすぐ時空ブリッジに乗れる」

 振り向く灰色の背広の男性。

 「君は誰?」

 ショートソードを抜くダスティ。

 ただの短剣ではなくれっきとした魔術武器である。アグラの小剣という邪悪な魔物も傷をつけられる霊剣だ。

 「私はビット。クルップのボストン支店の支店長だ。この任務は最高だ」

 ビットと名乗った支店長の両目は赤く不気味に輝いた。

 ウイーンという音ともにタワー先端部から青色の光線が空に向かって立ち上る。

 「君は何をやっているのかわかっているのか?」

 ダスティは身構えた。

 「偉大な神を呼ぶ。我々はこの光に乗り向こうの世界へ行く」

 トランス状態で言うビット。

 「おまえもその力がいるんだ。その力で時空の扉を開き邪神を復活させるんだ」

 手を高く掲げて笑うビット。

 「僕はこの力はみんなのために使う。おまえたちの好きにさせないぞ!!」

 ダスティは声を荒げた。

 確かにこの支店長の言うとおりこの力は悪用もできる。でも自分はそんなことはしたくないし大切な仲間を守りたいだけ。

 「愚かな子供だ」

 ニヤニヤ笑うビット。

 ダスティはタワー基部から出ている太い接続パイプに気づく。パイプは古びた洋館が出ている。

 せつなズンという突き上げるような衝撃とともに大きな揺れが襲った。

 たたらを踏むダスティとビット。

 揺れはしばらくすると収まった。

 洋館の広場には巨大な魔法円があるのが見えた。

 「エミリー、レクター、ガーランド洋館に突入する」

 ダスティはひらめいた。

 ダスティ、エミリー、レクター、ガーランドの四人は洋館に飛び込む。

 館内には半漁人とインスマス面の人間たちが量子コンピュータを操作していた。

 レクターはレールガンを連射。

 バルコニーにいた半漁人たちが落下した。

 エミリー、ガーランドは駆けながら半漁人たちやインスマス面の人間たちを斬っていく。

 ダスティは二階にある制御装置にかじりついてモニター画面のタッチパネルを操作した。

 「キリがないぞ」

 ジェスロは機関砲を連射しながら叫ぶ。

 「あのタワーを破壊するしかない。あの子が解除に失敗したら爆破する」

 スパイクは声を荒げ機関砲を連射。

 空を飛ぶ魔物は四散した。

 インスマス沖から月明かりに照らされて海が泡立ち巨大な何かが浮上してくる。

 「邪神クトウルーだ」

 栗本とラズリーが声をそろえた。

 洋館の広場にある魔法円からヌメヌメした触椀が何本から飛び出す。

 ダスティはプログラムを呼び出す。

 自分も自作パソコンは作ったことはあるしプログラムは友人に教わったしチャドやマイルズがやっているのを見て覚えた。

 「ワシにはなんのことかわからん」

 首をかしげるガーランドとレクター

 「ある意味天才よ」

 エミリーが口をはさむ。

 彼の友人の中にはプログラムを作るのが得意なのがいてそれの影響もあるし自作パソコンを作れてチャドやマイルズがプログラムを作っているのを見てそれもできる。

彼がマシンミュータントなのもあるが従来のマシンミュータントの子供にはない特質を持っている。

 ダスティは目を半眼にした。

 アインシュタインの映像の数字やストーンサークルの文字、輸送機の機体番号を組み合わせて解除を試みる。

 窓ガラスが割れてクトゥルーの触椀が飛び込んでくる。

 エミリーは持っていた剣で触手を何本か切断した。

 レクターやガーランドは飛びかかる半漁人たちを衝撃波で吹き飛ばした。

 アインシュタインの誕生日からエニグマ暗号機の記号や数字を組み合わせ量子コンピュータにあったサイコロの絵柄ボタンを背中の鎖を伸ばして押した。

 地鳴りの轟音は突然にやんだ。

 タワーから放出される光線が消えた。

 インスマス沖を浮上してくる巨大な影は再び沈降を始めた。

 町中で戦っていた半漁人やインスマス面の人間たちはいきなり海へ逃げ出した。

 タワーにヒビが入り中央部に青い光の渦巻きが現われて吸い込み始める。

 魔法陣から半分飛び出していた邪神クトゥルーも魔法陣の中に引きずり込まれていく。

 オーボエのような吼え声を上げるクトゥルー。それは断末魔の叫び声に近かった。

 洋館から飛び出すダスティ、ガーランド、エミリー、レクター。

 ダスティはタワー中央部にあるルービックスキューブが見えた。彼は農薬散布機に変身してタワーを支える柱に自分の機体を固定して残りの二対でルービックキューブの数字をそろえた。せつな衝撃波にはじき飛ばされ地面に落ちるダスティ。

 のたうつ触椀がダスティの機体に巻きつく。

 相手の力は強くて振りほどけない。

 「サニー、スパイク助けて!!」

 六対の鎖でそこにあった大木に鎖を巻きつけて叫ぶダスティ。

 「大変。ダスティが!!」

 サニーが叫んだ。

 エミリーとガーランドは持っていた剣で触手を切り落としていくがいくら斬っても再生してまた生えてきた。

 機首を向けるスパイク。

 プラズマガンを機体に固定して狙いを定め撃った。

 正確に触椀を焼き斬った。

 急降下するF18ホーネット。ベラナである。彼女は鎖を伸ばして散布機の機体をつかんでガーランド、レクター、エミリーもつかんで離れた。

 ジェスロと栗本も急旋回してそこにいたチャド、マイルズ、ヒラー、ハリスをつかんで飛び去る。

 タワーからの光は急にやんだ。せつな閃光ともに同心円状に爆発。タワーのそばにいた支店長やインスマス面の人間や半漁人、邪神クトゥルーも一瞬にして塵と化した。


 急激に暗雲が晴れて快晴になる空。夜明けの太陽がのぼってくる。それと同時に正体不明の光が多数のぼっていくのが見えた。

 検問所に着陸するベラナたち。

 「オーブだ」

 ダスティは元のミュータントに戻った。

 振り向くエミリーたち。

 夜が明けた空を赤色、黄色といったさまざまな色の小さな光が空の彼方へ昇っていく。

 「連中はどうやら生贄の儀式もやっていたようだな」

 スパイクが推測する。

 「閉じ込められていた魂や精霊が解放されたようね」

 エミリーが核心にせまる。

 そうでなければあんなにたくさんのオーブはありえない。

 「でも邪神はまた封印された」

 結論を言う栗本。

 「結果的にな」

 スパイクがしれっと言う。

 「あの子のおかげだな」

 ガーランドは笑みを浮かべる。

 「何をやったんだ?」

 ジェスロが聞いた。

 「琥珀の間にあった数字とルービックキューブとストーンサークルの数字を組み合わせてみたんだ」

 「すごいな。君は探偵になれるよ」

 感心するラズリー、チャールズ。

 「インスマスの連中はもともとタワーや時空ブリッジには興味なかった。クルップの口車に乗っただけかもな」

 ガーランドは視線を空にうつした。

 インスマス沖から正体不明の光が集まって龍となり昇っていく。

 「龍だ」

 ヒラーが叫んだ。

 「初めて見る」

 「本当に龍だよ」

 サニー、チャド、マイルズ、ダスティが声をそろえる。

 彼らの目にも黄金色の龍が見えている。中国の絵画に出てくるような龍である。

 どよめくアコード隊員たち。

 龍は空の彼方へ昇り去っていった。


 アコード本部に戻ってくるダスティたち。

 「今、ボストンの警察とFBIがクルップ社の支店に家宅捜索が入ったそうだ」

 ヒラーが口を開く。

 「間もなくニューヨーク本社にも家宅捜索が入るでしょうね」

 ハリスが口をはさむ。

 「そうなんだ」

 ダスティが振り向く。

 「一流企業や政治家がよくトカゲの尻尾きりみたいにするんだろ」

 チャドがしゃらっと言う。

 「クルップ社の本社で記者会見をやっているよ。さすが一流企業。顧問弁護士でがっちり固めてる」

 マイルズが携帯端末の動画を見せる。

 身を乗り出す栗本たち。

 「記者会見も決まった語句を聞きそうだな。死んだ支店長のせいにしようとしている」

 横山が指摘する。

 「世間は欺けても我々は欺けない」

 エミリーがしれっと言う。

 「警告は届いている。連中もわかっているだろうさ」

 スパイクが言った。

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る