第2話 隕石落下

 クルップ社。

 社長室に秘書と数人の男性が入ってきた。

 「クレメン社長。FBIが動き始めました」

 女性秘書は何枚か写真を出した。

 クレメン社長と呼ばれた男性は新聞から顔を上げた。

 「ほう。動き出したか」

 クレメン社長は写真に視線をうつす。

 「アコードも動き出しています。中でもこの老人はガーランドという旅をする魔術師で帆船ヴィクトリーと融合するミュータントです。彼は時空コンパスを持っています」

 女性秘書は報告する。

 「この少年は?」

 時空コンパスを持っている少年を指さすクレメン。

 「ダスティ・コッパーボトム。ノースロップジャクソンフォードの農場で働く農薬散布機のミュータントの子供です。情報によると時空コンパスを扱えるそうです」

 女性秘書が資料を渡した。

 「ハイリンヒ君、立花君、杉浦君、赤田君。時空コンパスを扱える少年が現われたそうだ。時空ブリッジプロジェクトは前進しそうだ」

 クレメンはダスティがうつる写真を指さす。

 「どこまで扱えるのか見ないとわかりませんよ」

 ハイリンヒと呼ばれたドイツ人は腕を組む。

 「ガーランドという魔術師は時空、時間魔術が使えたし、クロウ・タイタスのチームに入っていたということもある。あの少年に近づいてみてはどうですか?」

 立花は提案する。

 「邪魔が入る前にタワーの完成させないといけません」

 赤田が声を低める。

 「”琥珀の間”の捜索をこの子を使えば早まりませんか」

 杉浦が提案する。

 「イレーヌ。そうだな。それがいい」

 うなづくクレメン。

 「では実行にうつります」

 イレーヌと呼ばれた女性秘書は言った。


 翌日。

 ワトーの農場にある格納庫に近づく女性。

 ビシッとした女性物スーツを来た女性は周囲を見回す。

 広大なとうもろこし農場の上空を二機の農薬散布機を見つけた。

 女性は修理工場にいるサニー、マイルズ、チャドに近づいた。

 「何の用ですか?」

 サニーが振り向いた。

 「私は調査会社の者です。イザベラと言います」

 首から下げた認識票とファイルのパンフレットを見せる女性調査員。

 「何の調査ですか?」

 サニーが聞いた。

 チャドとマイルズが振り向いた。

 「私達はある依頼でここに来ています。時空ブリッジの調査をしてます。最近では異変が起こっています。それ関連しているのではないかと思います」

 イザベラは資料を見せた。

 資料に目を通すサニー。

 「私達は調査するし探偵もします。魔物襲撃現場の片付けにこの老人が来ていて彼は時空コンパスを持っていました。それをこの少年に渡しています」

 報告するイザベラ。

 「何が言いたいんですか?」

 サニーは資料を突き返した。

 「時空コンパスを扱える方を探していまして調査にご協力いただければと思います」

 イザベラはガーランドとダスティがうつっている写真を見せた。手には時空コンパスを持っている。

 「断ります」

 サニーはあっさりと言う。

 「ギャラは弾みますよ」

 しゃらっと言うイザベラ。

 舞い降りてくるダスティ。

 「何をしているの?」

 ダスティは機体から六対の鎖を出すと散布装置を外した。

 「何?この匂い?」

 顔をしかめるイザベラ。

 「肥料と農薬だよ」

 ダスティが答える。

 「君がダスティ?」

 イザベラは話を切り替えた。

 「そうだよ」

 「私は調査会社のイザベラです。時空コンパスというのをご存知ですか?」

 「知っている。魔術師協会のホームページに載っている」

 「時空コンパスは時空魔術師や時間操作能力がなければ扱えない。君がそのコンパスを持ったら反応したというのを聞いて「琥珀の間」の調査に協力していただきたいと思いました」

 名刺を出すイザベラ。

 サニーが名刺を取り上げる。

 ムッとするイザベラ。

 「僕は君となんか協力する気ないし、コンパスはガーランドの持ち物だよ」

 しゃらっと言うダスティ。

 「私も依頼者との守秘義務がありまして内容はお伝えできません。私達が所属する会社はクルップ社です。クルップ社では世界一周レースに出るチームも持っています」

 「でも参加資格は十八歳からだよ。そこの会社がいくらコネがあってもバレたら出場停止になる」

 はっきり言うダスティ。彼は鎖をイザベラに巻きつけ引き寄せた。

 「一緒に飛ぼう」

 「離して。やめて」

 もがくイザベラ。しかし相手の力は強くふりほどけない。

 「ちょっとあなた、保護者なら注意しなさいよ!!」

 イザベラは声を荒げる。

 「私は保護者じゃないわ。空のドライブを楽しんできて」

 つくり笑顔で言うサニー。

 舞い上がるダスティ。

 ダスティはイザベラを機体の脇に抱えたまま農場の低空飛行していた。


 下宿先のアパートは食堂は共同で、トイレや風呂は自分の部屋にある。

 仕事から帰ったらチャド、マイルズ、レクター、ダスティ、サニーがよく食堂に集まりお茶したり食事する。

 「気になるの?」

 サニーがシチューを食べながら聞いた。

 「琥珀の間って何?」

 サンドイッチを食べるダスティ。

 「じゃあ明日アコード事務所に一緒に行きましょ。たぶん誰かいるだろうから」

 「琥珀の間ってロシアのサンクトペテルブルクにある博物館のだろ。あれは七十年前の第二次世界大戦でナチスドイツの爆撃で一度破壊されたんだ。それを十二年前に修復して元通りにした」

 レクターがピザを食べながら言う。

 「そうなんだ」

 身を乗り出すダスティ。

 「それはそれは全部琥珀で出来ていた。それ以外は知らない」

 レクターは口ひげをなでながら言った。


 翌日、ロスサンチェスのアコード事務所に入ったのは学校が終わってからだった。

 アコード事務所に入るサニーとダスティ。

 「ガーランドさんかベラナさんいらしゃいますか?」

 サニーが受付嬢に聞いた。

 「ガーランドさん、ベラナは外出中ですがジェスロ、チャールズ、ラズリーがいます」

 受付嬢が答えた。

 「ジェスロさんの部屋は?」

 サニーが身を乗り出した。

 「ジェスロは私だが?」

 ロビーに入ってくるジェスロ。

 「ちょっとお話が。琥珀の間をご存知ですか?」

 サニーが話を切り出す。

 「知っている。ここでは何だから奥へ」

 ジェスロは手招きした。

 奥の部屋に入るとラズリー、チャールズがいた。

 「チャールズです」

 「ラズリーです」

 二人のイギリス人は名乗ると名刺を渡す。

 「探偵さんなんですか?」

 驚きの声を上げるサニーとダスティ。

 「普段はイギリスで探偵やりながら貿易会社を経営している。ガーランドの仕事の関係でアメリカに来ている」

 チャーズルは説明する。

 「そうなんですか。昨日、農場に調査会社の人が来たんです」

 サニーは名刺を渡した。

 「バーバラ調査事務所。聞いたことがない。新設された会社かな」

 チャールズはパソコンに入力した。

 「全米探偵協会やイギリスの探偵事務所には登録がないな」

 チャールズが答える。

 「クルップ社のレースチームに誘ってきた」

 ダスティが口をはさむ。

 「クルップはバイオ関連事業の企業で確かにレースチームを持っている。世界一周レースの参加は十八歳からだ。年齢はごまして入るのは無理だね。マシンミュータントは子供もそうだが社会保障番号の元にデータ化されたタグコード番号があってごまかせない」

 ラズリーが番号カードやバーコードカードやパスポートを見せながら言う。

 「知ってる。ハワイに行く時やたらに手間がかかった」

 ダスティがうなづく。

 「その調査会社の人は依頼人に頼まれて時空ブリッジ関係の調査をしていてこの子の力が必要だって言われました。隠し撮りした写真を見せてきた。ガーランドさんとこの子が映っている写真で時空コンパスを持っている写真まであった」

 サニーが心配する。

 「時空コンパスはその名前のとおり、時間操作、時空操作能力がなければ使えない。それに目をつけた依頼人は誰か調査しないといけないね」

 チャーズルがうなづく。

 「時空コンパスと琥珀の間の関係は?」

 ダスティは核心にせまる。

 「琥珀の間は大戦中、ナチスドイツが爆撃して破壊された。でも都市伝説があってナチスドイツから逆に奪った者がいるそうだ」

 ジェスロが琥珀の間の写真を見せた。

 

 琥珀の間とは、ロシア連邦内のサンクトペテルブルクにあるエカテリーナ宮殿内の一室である。その名の通り、部屋全体の装飾が珀で出来ており、これは世界で唯一のものである。琥珀が第二次世界大戦のレニングラード包囲戦中にドイツ軍に持ち去られため、琥珀の間は失われていたが、一九七九年から始まった復元作業により、二〇〇三年に琥珀の間は完全に復元された。

琥珀の間に使用された装飾は、ロシア西欧化の基礎を築いたピョートル大帝がプロイセン王、フリードリヒ・ヴィルヘルム一世から譲り受けた装飾が元になっている。

琥珀の間の原型とも言える「琥珀の部屋」はプロイセンで構想され、制作が開始された。当時のプロイセン王フリードリヒ1世は、琥珀の部屋の装飾、独創性を好んだという。しかし、フリードリヒ一世は琥珀の部屋の完成を見ることなく、この世を去っている。その後、琥珀の部屋の装飾はフリードリヒ一世の子、フリードリヒ・ヴィルヘルム1世の時代に、ピョートル大帝が所望し、贈られることとなる。しかし、装飾はすぐに組み立てられることはなく放置された。

ピョートル大帝の死後、即位したエリザヴェータは自国文化の更なる西欧化を図ったが、

冬宮(現在のエルミタージュ美術館)の改築の際に、放置されていた装飾は宮殿の謁見の間の装飾として、ロシアで作られた装飾と共に利用された。こうして、当初のプロイセンで構想された琥珀の部屋より大きく広い空間となった。この時点で琥珀の間としては完成していたと考えられる。

その後、琥珀の間は夏宮に移された。完成は一七七〇年、エカチェリーナ二世の時代であった。エカチェリーナ2世は琥珀の間をことのほか愛し、部外者の立ち入りを禁止していたという。

第二次世界大戦中の一九四一年六月、ナチスドイツは独ソ不可侵条約を破り、ソビエトとなっていたロシアの大地に進行した。七月にはドイツ軍はレニングラードと名を変えた

サンクトペテルブルクに進行し、九月にはエカテリーナ宮殿へ入ることとなる。その後、

宮殿内にあった多くの美術品と共に琥珀の間の装飾は略奪された。ナチスドイツによる

侵攻先での美術品の略奪は、ヒトラーによる新美術館の建築のためであった。

琥珀の間の装飾はケーニヒスベルクに運ばれた。そして、ケーニヒスベルク城の博物館

で保管されることになる。琥珀の間は、暫くカリーニングラードにて展示されたが、イギリス空軍の空爆にあい、琥珀は全て消滅したとされている。

琥珀の間の復元は第二次世界大戦後、戦争中に破壊されたエカテリーナ宮殿は修復が進められていたが、琥珀の間は琥珀そのものが失われていたため、その復元については手の施しようがなかった。その後、一九七九年より琥珀の間の修復が開始されることとなる。

修復の際には、琥珀の間に関する視覚的資料がほとんど残されていなかったため、復元は困難を極めることとなった。復元にあたった人々の地道な作業が実り、二〇〇三年に二四年の歳月をかけた修復が完了し、フランスのエヴィアンサミットに先立って世界の首脳に披露された。


 「歴史が深いですね」

 サニーとダスティが声をそろえる。

 テーブルには美術年鑑やエルミタージュ美術館のパンフレットが何枚かそろっている。

 「なんでこんなに資料があるんですか?」

 ダスティがたずねた。

 「私とラズリー、チャールズ、スパイク、ガーランドは大戦末期にアインシュタイン博士とある極秘作戦に関わっていた。それはナチスドイツから奪われた琥珀の間を持ち帰る事だった」

 ジェスロは重い口を開いた。

 「ええええ!!」

 驚きの声を上げる二人。

 「栗本の部隊とラバウルやトラック、マリアナでスパイクと一緒に戦っていた。マリアナ諸島が陥落してしばらくしてアコードから極秘作戦をハワイ司令部から聞いたんだ」

 ジェスロが戦時中の資料を出した。

 「二ミッツ提督からアインシュタイン博士の護衛でドイツ国内に潜入する作戦命令を受けた」

 「ヨーロッパ戦線ではマリアナ諸島の戦いと同時期にノルマンディ上陸作戦があった。私達はイギリスでジェスロとスパイクと合流してアインシュタイン博士と出会った。一九四四年の一二月頃だ。西翼のカーンと東翼のサンローを陥落、パリ解放されヒュルトゲンの森とバルジの戦いが始まっていた頃、私達チームは連合軍の米軍第三軍のジョージ・パットン将軍と一緒にドイツに向かった」

 ラズリーは思い出しながら言う。

 「それはすごい話だよ」

 感心するサニーとダスティ。

 「その頃はレジスタンスの地下通路を使ってドイツ国内に入った。ナチスが管理する列車を強奪して琥珀の間を奪った」

 チャールズが言う。

 「イギリスからアメリカまで私とスパイクが博士が乗る輸送機を護衛した。博士は琥珀の間をどこかに隠した。アメリカの地図にない街か村の古い教会で時空コンパスでしか探せないそうだ」

 ジェスロが思い出しながら言う。

 「時空コンパスを持っているガーランドさんはどこなの?」

 「今、イギリスの魔術師協会。いつ帰ってくるかわからないから待つしかないよ」

 困った顔をするジェスロ。

 つまんなそうな顔のダスティ。

 「ダスティ。サニー。あまり怪しい人にはついていかないことと家に入れないこと」

 注意するチャールズ。

 二人は深くうなづいた。


 二人が農場に戻ると格納庫のそばにワトー、レクター、チャド、マイルズがいた。

 「どうしたんですか?」

 サニーがたずねた。

 「町の寄り合いの話なんだがスパイクには町から出て行ってもらうという話が出ている」

 ワトーは難しい顔をする。

 「ええええ!!」

 驚きの声を上げるサニーとダスティ。

 「この間の事件もある。彼がこの町にやってくる以前、彼はお酒グセが悪くてニューヨーク、アトランタ、ロサンゼルスといった大都市から各町や村を転々としていた。アコード事務所や魔術師協会のツテで紹介されて引っ越してもその先々で問題を起こした。トラブルメーカーだね。一番多いのは酒グセと素行の悪さ、チーム組んでも行動できない。同僚への暴力事件。刑務所に二回入っている。出所して一〇年前にこの町にやってきた」

 レクターが書類を出した。

 「でも資料は一九六五年からだよ」

 指摘するダスティ。

 「タイタス・クロウが失踪して一年後になるわ」

 サニーが気になることを言う。

 「戦後はお酒の事件やトラブルはないね。たぶんクロウ・タイタスとすごい仲がよかったみたいだ」

 ダスティが写真を見て指摘する。

 「それか偉大な邪神ハンターが尻拭いしていたかだね」

 チャドがしれっと言う。

 「戦時中は日本軍と戦った英雄だ。一九三四年に入隊。中国戦線で日本軍と戦ったが飲酒グセで干されていた所を上官から「一機撃墜するごとに五〇〇ドル」と騙されてフライングタイガースに入隊。そこで最多の撃墜数を誇るエースパイロットになる。戦争の激化でガダルカナルのヘンダーソン基地でコルセア部隊に配属になる。そこでの戦いの最中に戦闘機と融合した。彼の人生の前半は戦いの連続だね。彼はイラクやアフガニスタン、ベトナム戦争で傭兵のハンターとして従軍している」

 マイルズが記録資料を出した。

 「それって慢性戦闘中毒者じゃないの」

 サニーが指摘した。

 「ワシもそう思う。マシンミュータントの中には戦いを求めてしまう患者がいて彼は同僚とアコード事務所からカウセリングを受けている」

 レクターがうなづく。

 黙ってしまうダスティ。

 慢性戦闘中毒者が何か知っている。二度の大戦でマシンミュータントに多くの患者が出ている。常に戦場を求めて彷徨うことを意味する。戦いの味が忘れられずに戦うのだ。軽度、中等度はカウセリングと隔離施設。重傷患者は専用の隔離施設に幽閉されてしまう。

 「今、スパイクが出て行ったらそれに換わるハンターがいるんですか?ロスサンチェスにやってきた魔物は異次元から召喚された強力な魔物だった」

 訴えるように言うダスティ。

 「それなんだが出張所にベラナが派遣されるそうだ」

 ワトーが腕を組む。

 「彼女だけじゃあんな強力な魔物とは無理だと思う。年々襲ってくる魔物が強力になっている。キメラやガルラ、ベビーモス、ダークドラゴンは地球にはいない。そんな強力な魔物を召喚できる魔術師はそんなにいるわけじゃない。誰かがスパイクを追い出そうとしている」

 これまでの状況を推測して言うダスティ。

 「でもね。アコード本部からもスパイクは追い出されている。それにどこの国へ行ってもトラブルメーカーはたぶんどこへいっても同じだと思うよ」

 困った顔をするワトー。

 「そんな・・・」

 絶句してしまうダスティ。

 それ以上自分に反論はできなかった。

 

 翌日。アコード出張所。

 出張所に入るサニーとダスティ。

 詰所にベラナ、横山、グロリアと町長が顔を揃えていた。

 「スパイクを追い出すのは本当ですか?」

 ダスティが詰め寄る。

 「優秀なハンターはそばに置いておきたいんだけど彼の過去を調査した結果なのだよ」

 町長は口を開いた。

 「彼の過去を調査しようと言ったのは誰なんですか?」

 サニーがたずねた。

 「副町長だよ。あんな事件もあるし過去を調べたら刑務所が二回に事件化していない事件がゴロゴロ。刑事告訴を検討している」

 町長が難しい顔をする。

 「ええええ!!」

 驚く二人。

 「ベラナ。あんな強力な魔物が現われたら退治できるの?」

 ダスティが指摘する。

 「そこは我々で何とかするしかない」

 ベラナはため息をつく。

 「今から彼の住んでいる家に行って一週間以内に荷物をまとめるように通告するだけだ」

 町長は席を立って出張所を出る。

 「そんな・・・」

 ダスティは反論できずに事務所を出た。

 「本当なら優秀なハンターは追い出したくないんだが」

 つぶやくように言う横山。

 「アコード本部、魔術師協会本部、裁判所の決定なんだ」

 グロリアがため息をつく。

 「コルセア戦闘機だ」

 ダスティが指をさす。

 舞い降りてくるF4Uコルセア戦闘機。スパイクである。彼は着地すると元のミュータントに戻った。

 「裁判所からこの通知が来た。いつでも出て行ってやる」

 スパイクは裁判所の通知証を見せた。

 「我々も貴官にアコード隊員、魔術師協会の資格を取り消す事の通達をしにきた」

 グロリアは通知証を見せた。

 「この意味がわかるか?貴官はハンター資格を取り消される」

 横山が強い口調で言う。

 「アコードと魔術師協会、ハンター協会を離れるということはいつでも裁判所に突き出せるということだ。突き出されれば刑務所行きは確実だ。国外へ出てもいいがどこへ行って他国のアコード隊員からの監視がつく」

 ベラナは通知書を渡した。

 引ったくるように取るスパイク。

 横山、グロリア、ベラナとスパイクは互いににらんだ。

 

 

  「戦争をロクに知らない青二才が」

 言い捨てるスパイク。

 腕を組む町長。

 「スパイク。君はこの町を出て行ったらどこへ行くんですか?どこへ行ってもやっていけないと思います」

 ダスティは疑問をぶつけた。

 すると携帯電話のブザーが鳴った。

 「緊急地震速報?」

 携帯アプリで緊急地震速報が流れるように設定になっていた。

 町長たちは顔を見合わせた。

 スパイクはコルセア戦闘機に変身した。

 その時である出張所の窓が小刻みに震えた。

 「あれは何?」

 ダスティは出し抜けに叫んだ。

 機首を向けるスパイク。

 空の彼方から巨大な光の塊が近づいてくるのが見えた。

 「隕石だ!!」

 サニーたちは声をそろえた。

 巨大の光の塊は長い尾を引きながら西の方角へ飛び去った。

 「国防省から緊急出動メールだ」

 グロリアとベラナが携帯を見せる。

 「俺のは防衛省からだ」

 横山が携帯メールを見せた。

 「僕も行きたい」

 ダスティは農薬散布機に変身した。

 「ダメだ。危険だ」

 ベラナはF18戦闘機に変身した。他の二人も変身する。

 「行かせてやればいいじゃないか」

 それを言ったのはスパイクだ。

 「なんて無責任な・・・」

 言葉を失う町長とサニー。

 「貴官がなんで追い出されるのか今わかる気がする。具体的な話はあとだ」

 グロリアが二つの光を吊り上げる。

 「ダスティ。私から離れるな。乗せてやる」

 ベラナはコクピットを開けた。

 「わかった」

 ダスティは元のミュータントに戻って濃くピットに飛び乗る。

 「サニーさんも保護者として」

 横山はそう言うとコクピットを開けてサニーを乗せた。

 三機は舞い上がると飛び去った隕石の追尾を始めた。

 「おもしろくなりそうだ」

 つぶやくとスパイクも飛び立った。

 「NASAから落下地点が送信されてきた」

 グロリアはデータを送信する。

 「ネバタ州ブラックロック砂漠か。そこに落下しても人的被害はないか」

 ベラナが納得する。

 「落下の衝撃波でクレーターができるかもしれない」

 横山が口をはさむ。

 「確かにブラックロック砂漠なら誰も住んでいない。運がいいといえば幸運か」

 ベラナが言う。

 携帯を見るダスティ。

 しかし携帯電話は電磁波の影響で圏外になっていた。

 しばらく追跡していると何か爆発するような衝撃波に機内が揺れた。スピードがガクッと落ちた。

 「隕石のせいでGPSと電波に障害が出ている。基地と通信ができない」

 ベラナがふと気づいた。

 「僕はなんの影響もないよ」

 ダスティが首をかしげる。

 「それは君が農薬散布機だからね。私達は戦闘機だから任務によっては最新機器も積む。それは電磁波の影響を受けやすいものだったりする。たぶん周囲の都市では電波障害が出ている」

 グロリアが説明する。

 「百里基地とつながらない」

 横山が口をはさむ。

 「それはそうね。電波障害で緊急地震速報が入った。それも日本の」

 納得するサニー。

 なんでそうなったのかわからないが日本の福島でマグニチュード6・1の地震がなぜか自分の携帯アプリに入っていた。

 「もう影響が出ていたのか」

 しれっと言う横山。

 砂漠の方角へ飛び去る隕石。ベラナたちは電磁波の影響でスピードが落ちて隕石にぐんぐん離れていく。

 雑木林に舞い降りる三機。

 しばらくすると砂漠の方角から閃光とともに衝撃波が広がった。


 三十分後。ブラックロック砂漠。

 砂漠に舞い降りるベラナ、グロリア、横山の三機。

 ブラックロック砂漠は、アメリカ合衆国ネバダ州北部の乾燥地帯であり、グレートベースンに属し、更新世のラホンタン湖が乾燥した名残である湖底がある。その古地質学的形状、十九世紀のカリフォルニア州への移民の道として、またロケット実験や地上速度記録を出す場所として著名である。毎年バーニングマンの祭が開催される場所でもある。

 機内から出てくるダスティとサニー。

 砂漠にはクレーターはないが隕石の破片がたくさん散らばっていた。隕石は空中で爆発して四散したようである。

 元のミュータントに戻るベラナたち。

 「誰もまだ来ていないか」

 ベラナがつぶやいた。

 ダスティはそこに落ちていた隕石の破片を拾った。せつな熱さを感じて落とした。

 「不用意に触るな」

 ベラナが注意する。

 うなづくダスティ。

 しばらく行くと爆心地に着いた。直径五十メートルのクレーターが出来ていて真ん中に車くらいの大きさの隕石がそこにあった。

 ふいにダスティの電子脳に音楽が聞こえた。なんでかわからないが聞いたことのあるクラシック音楽である。

 周囲を見回すダスティ。

 どう考えても音源は隕石である。

 「どうしたの?」

 サニーが異変に気づいた。

 「なんかクラシック音楽が聞こえる」

 首をかしげるダスティ。

 「そんなのは聞こえないが」

 ベラナが首を振る。

 横山やグロリアも首を振る。

 「聞こえないわ」

 サニーが耳を澄ますが何も聞こえない。

 「僕もわからないけど隕石から聞こえる」

 ダスティは隕石に近づいた。

 隕石が四つに音を立てて割れた。割れた隕石から琥珀色の玉が五つ落ちた。

 その時である飛翔音が聞こえて軍事用車両やヘリコプターが接近。

 サニーはダスティの腕を引っ張る。

 隕石から離れるベラナたち。

 車両から兵士と一緒に政府関係者が何人も出てくる。

 「隕石に触った人はいるかね?」

 政府関係者の一人が聞いた。

 「いえ、いません」

 答えるベラナ。

 「その民間人は?」

 別の政府関係者が聞いた。

 「私が連れてきました」

 ベラナが答えた。

 「君はなんで民間人を入れるのかね。そこの民間人と一緒に君らもあとで事情を聞かれるだろう」

 くだんの関係者はそう言うと兵士たちに指示を出していた。

 -一時間後ー

 プレハブの簡易留置施設にガーランド、ジェスロ、栗本、ラズリー、チャールズが入ってきた。

 拘束されていたダスティとサニーが振り向いた。

 「ガーランドさん。ベラナたちが基地に連れて行かれた」

 心配するダスティ。

 「彼女たちは基地に帰って事情を聞かれているだけだ」

 ジェスロが言う。

 「ここから出られるけどしばらく監視がつくだろう」

 ラズリーは監視カメラを見ながら言う。

 サニーとダスティはうなづいた。


 ロスサンチェスにあるアコード事務所に帰ったのは三時間後である。

 「ここには盗聴器もない。大丈夫だ」

 ラズリーとチャールズ、栗本、ジェスロは部屋を調べながら言う。

 「君は隕石を触ったのかね?」

 ガーランドが聞いた。

 「触りました」

 ダスティは隕石を触った手を見せた。まだ火傷のあとが治っていない。

 「君は他のミュータントより治りが襲いようだね。あの隕石はミュータントには有害なのかもしれない」

 ガーランドはメガネをかけた。

 「じゃあ人間も影響が?」

 サニーが心配する。

 「政府の調査団の話では人間や普通のミュータントには影響はでていない。火傷のような症状は隕石に触った君だけだ」

 ラズリーが隕石の写真を見せた。

 「隕石に近づいたらクラシック音楽が聞こえました。そして隕石が割れて琥珀色の玉が五つ出てきました。でもなんで僕だけに聞こえるんだろう?」

 ダスティがぶつやくと内ポケットからビー玉くらいの大きさの琥珀玉を五つ机に出す。

 「ダスティ。持ってきちゃダメでしょ」

 叱るサニー。

 「本物の琥珀だ」

 鑑定するラズリーとチャールズ。

 「あの隕石から出てきたんだ」

 身を乗り出すダスティ。

 「あの隕石の成分は鉄隕石で小惑星探査機

「はやぶさ」が探査した小惑星「イトカワ」と一緒だね」

 資料に目を通すジェスロと栗本。

 「また隕石の調査に行くんですか?」

 ダスティがたずねた。

 「ここからは科学者とNASAの仕事だ。学生は学業に励みなさい」

 ジェスロはダスティの肩をたたいた。


 「本日、東部時間十時頃、隕石が落下しました。落下地点はネバタ州ブラックロック砂漠です。人的被害はないもようです。ですが衝撃波による被害がネバタ州と近隣の州に出ておりけが人が多数でています。落下地点の砂漠には直径五十メートルのクレーターがあります。落下した隕石の大きさは直径二〇メートル。重さは約一万トン。衝突直前に空中で爆発したもようです」

 女性キャスターは原稿を見ながら報告する。

 「今日はこのニュースで持ちきりだね」

 農場の下宿先でチャドは振り向いた。

 「隕石は見に行ったんだろ?」

 マイルズが身を乗り出す。

 「ベラナたちに乗せてもらって行ったら隕石が爆発したあとだよ。隕石は砂漠に散らばっていたし、しばらくすると政府関係者や軍の車両がやってきて僕達はベラナたち一緒に留置場に入れられた」

 ダスティは説明する。

 「何もしていないのに留置場?」

 レクターが聞いた。

 「隕石落下なんて大事件だからしょうがないと思うわ」

 サニーはため息をついた。


 翌日。ロスサンチェスのゲームセンター。

 「ダスティ。昨日ベラナたちと隕石を見に行ったんだろ」

 炭酸ジュースを見ながら言うクリス。

 うなづくダスティ。

 「どうだった?」

 デビットが身を乗り出す。

 「隕石は空中爆発して砂漠に散らばっていた。そしたら軍と政府関係者がすぐやってきて僕達とベラナたちは留置場行きになった」

 不満そうなダスティ。

 「それもひどいよね」

 クリスとデビットが同情する。

 「じゃあ俺と隕石探索しに行かないか?」

 ふいに背後で声がして振り向く。

 「チャック」

 嫌な顔をするダスティ。

 「そこの女性と知り合いか?」

 聞き返すクリスとデビット。

 「こいつは僕を三年前までよく押さえつけたミュータントでそこの女はイザベラっていう保険会社の調査員だよ」

 ビシッと指をさすダスティ。

 「すごい失礼な子供ね。私は調査会社の調査員よ」

 目を吊り上げるイザベラ。

 「おまえなんかと行く気ないね」

 ダスティは声を荒げた。

 笑みが消えるチャック。

 とっさにダスティは炭酸ジュースをひっかけ、股間を蹴り上げた。

 くぐくもった声を上げるチャック。

 「逃げろ」

 ダスティは逃げ出した。

 クリスはりんごジュースをイザベラにひっかけデビットと逃げ出す。

 三人はゲームセンターを飛び出すと変身して舞い上がった。

 ロスサンチェス繁華街を飛び出し郊外に出る。郊外を出ればノースロップジャクソンフォードのワトーの食堂である。

 三人はワトーの食堂の駐車場に舞い降りた。

 息を切らす三機。

 「もう追ってこないのっておかしい」

 ダスティが気になることを言う。

 いつも小突き回すように舞い押さえつけた。いつもベラナや同僚のミュータントに吹き飛ばされていた。

 その時である鋭い鉤爪に主翼をつかまれ、上空へ持ち上げられ鷲か鷹のように農薬散布機を獲物のように器用に引っくり返し芝生に舞い降りた。

 「このガキがよくもあの時は地面にたたきつけたな!!」

 ミグ29ファルクラムに変身したチャックは叫んだ。

 「おまえなんか刑務所に入れてやるからな」

 言い返すダスティ。

 しかし機体をひっくり返されては身動きができない。

 チャックは四対の鉤爪で強く機体底部を何度も引っかいた。

 ダスティの電子脳に機体に受けたダメージや損傷が痛みとして変換される。しかしいくら引っかかれてもゴムのようにへっこむだけで傷がつかない。

 心臓音が聞こえた。自分には心臓はないがどこからか金属がきしみ、肉が割れるような耳ざわりな音が聞こえた。

 チャックは鉤爪に力を入れた。

 「ぐうう・・・」

 目を剥きうめくダスティ。

 銃声が響いてチャックが変身する機体に弾が弾かれた。

 チャックは力をゆるめた。

 「その子を離してもらおうか?」

 ワトーはショットガンの銃口を向けた。

 「おまえ人間だろ。なんで機械仕掛けの俺達を構うんだよ」

 笑い出すチャック。彼はダスティを離すと機首を向けた。

 身構えるワトー。

 クリスとデビットも遠巻きににじり寄る。

 にじり寄るチャック。

 突然、チャックに命中するミサイル。

 「ぐわっ!!」

 チャックはくぐくもった声を上げた。

 鎌居たちが切り裂き、氷や水の槍が次々突き刺さった。

 「ぐふっ!!」

 六対の鎖で機体を支えるチャック。

 「おまえをいつか刑務所に放り込まないといけないらしい」

 舞い降りるF-18、F-22、F-15の三機。

 ベラナ、グロリア、横山である。

 機体を起こすダスティ。

 「チャック。おまえなんか一生刑務所だ」

 ビシッと指をさすダスティ。

 「このガキが覚えてろよ!!」

 威嚇音を出すチャック。

 「ベラナ。こいつイザベラっていう調査員といて無理矢理隕石を調査しようと言ってきたんだ」

 声を荒げるダスティ。

 「ちがう!俺は頼まれただけだ」

 弁解するチャック。

 「じゃあ我々と基地まで来てもらおうか?」

 グロリアが声を低めた。

 「俺には黙秘権がある。弁護士が来るまでしゃべらない」

 当然のように言うチャック。

 「残念だな。おまえには児童虐待で二十件以上の告訴状が出ている。つまり裁判所の命令を断ればおまえは刑務所行きだ」

 言い返す横山。

 「ちくしょう!!」

 くやしがるチャック。

 「残念だな。チャック。刑務所行きで」

 しゃらっと言うベラナ。

 「無理矢理連れて行かれるのとどっちがいい?」

 横山が声を低めた。

 チャックは舌打ちすると元のミュータントに戻った。

 ベラナたちも元のミュータントに戻る。

 横山はチャックに手錠をかけると護送車両に乗せられて去っていく。

 「ダスティ!!」

 駆けつけてくるサニー。

 振り向くダスティ。

 「遅くなって申し訳ない」

 あやまるベラナ。

 「僕は平気だよ」

 戸惑うダスティ。

 「ダスティ。イザベラという女も警察で事情聴取を受けている」

 ベラナが言う。

 「そうなんだ。でも変だね。琥珀の間に興味ある人たちが隕石に目をつけるって」

 気になることを言うダスティ。

 「そうだな。確かにおかしい」

 うなづくベラナ。

 「僕は琥珀の間と隕石について調べたい。ガーランドさんの時空コンパスを使えば何かわかるかもしれない」

 訴えるように言うダスティ。

 「そうだな。私も不思議に思っていた。魔物襲撃といい隕石落下、インスマスの半漁人といい騒動を起こしている黒幕がいる」

 ベラナはうなづいた。

 「ダスティ。やめなさい。そんな危険な事」

 注意するサニー。

 「危険な事に僕達は巻き込まれている。黒幕は何か起こそうとしている。僕達は止めないといけない」

 はっきり言うダスティ。

 「それもそうよね」

 指摘されて納得するサニー。

 「明日、学校が終わったら迎えに行く。チャドとマイルズも手伝いに借り出す予定だ。お騒がせして申し訳ない」

 ベラナは申し訳なさそうに言う。

 サニーは深いため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る