第7話 不良と低血圧子はささやかな謎を解き明かす⑦
「よしゃ。倒した!」
強敵ドラゴンライダーを倒したオレは思わず快哉を叫んだ。
「やるね」
既にゲームは終盤に差し掛かっている。ここで敵モンスターを倒せるか倒せないかな差はかなりでかい。オレは自分の流れがきたことを鋭敏に感じ取りながら、さらなる探索を試みる。
「壁です」
流れなんてなかった。
「……そう言えば、篠原は持ってきたキューブはこのゲームでしか使われていないものなのか?」
手元の地図に×印を書き込みながら何となく思いついたことを呟いてしまう。
「悪い。こっちから再戦を要求したのに、つい」
ウタゲは「構わないよ」と言って、柔らかく微笑んだ。
「それはそれとしてゲームも進めようか。Hの4からHの5に」
「セーフだ。ほら、『カルカソンヌ』のコマなんかは他のゲームで使われることもあるんだろ? だったら、篠原が隣のおねえちゃんと遊んでいたのは別のゲームだった可能性もあるんじゃないかと思ってな」
「わたしが知る限り、このタイプのキューブを使うゲームは他にないと思う。2006年のリメイク版もキューブの色や形状が違うしね。それにもしユウちゃんにとっての思い出のゲームが『ドラゴンクエストダンジョン』ではないのなら、オープン会であんなリアクションはしないんじゃない? 続いてHの5からIの5」
あんなリアクションと言うのは、「え!? これって」と叫んで箱を手に取ったときのことを言っているのだろう。
「またまたセーフ。言われてみれば確かにそうだな。ただ、その件については別の引っかかりもあってな」
「別の引っかかり?」
「ああ。篠原の話ではおねえちゃんはゲームを菓子箱に入れて持ち歩いていたんだよな? なのにどうして箱を見て思い出のゲームを連想したんだろうって」
「それは箱の中央にプリントされたイメージ写真を見たからじゃないの?」
「あぁそうか。けど、そうだとするとなおのこと篠原が遊んだゲームは『ドラゴンクエストダンジョン』で間違いないってことになるよなあ。何だってあいつははじめから答えのわかっている問題をオレたちに出したんだ?」
「わたしもその答えを一緒に考えたいから、春川君を家に招いたわけだけど……よし、決めた。Iの5からJの5」
「ウタゲの番が続くな。でもって、ウタゲのことだから仮説もないわけではないんだろ?」
「まぁね。わたしが考えたのはゲーム会で遊んでみたら期待していたほど面白くなかった可能性だ。ユウちゃんもわたしと一緒に結構色々遊んだし、まぁまぁ古いゲームだからね。昔ほどは面白いと思わなかったとしても、不思議はない」
「そうか? 結構面白いと思うんだが」
「結構じゃダメなんだ。ユウちゃんにとってはね。Jの5からJの6」
「通し。強いな」
「ユウちゃんにとって、お隣のおねえちゃんと遊んだゲームは特別なものだ。だから、期待していたほど面白くないと思ったら、次に考えるのはこうだ。自分が隣のお姉ちゃんと遊んだのは本当にこのゲームだったのか。もしかしたら他に本当のゲームがあるんじゃないかって――」
ウタゲがオレの視線に気づいて、かぶりを振った。
「……わかってるさ。この仮説には大きな穴がある。Jの6からJの7」
「それこそ落とし穴だ。Vの2に移動して交代だな」
「やれやれ。わたしはここまでか。一応春川君の反論を聞いておきたいんだけど?」
「思い出が美しいばかりに期待も強くなり、期待が強いばかりに思い出のゲームをそれと認められなくなってしまう――篠原はそんな拗くれた性格じゃねーよ。Iの4まで戻ってIの3に移動」
「宝箱のマスだよ。どうする?」
「開ける。キーアイテムだろ」
「ご明察」
「これであとはダンジョンの主を見つけて倒せばオレの勝ちだな。Hの3まで戻ってHの4。そう言えば篠原がこの間『コミュニケーションゲームとか協力ゲームが好き』って言っていたけど、昔からそうだったのか?」
「通し。うーん、コミュニケーションゲームはメリーズ・ラムに行くようになってからだから割と最近じゃないかな。協力ゲームはそうだね。昔からだと思う。それこそ二人で『禁断の島』を遊んだとき以来だ」
「なるほどな。じゃあ、そういうことなんだろ。Gの4。でもってGの3!」
「なにかわかったみたいだね。さておきダンジョンの主がいるよ。どうする?」
「もちろん戦うさ!」
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