第7話 不良と低血圧子はささやかな謎を解き明かす⑥

「なぁウタゲ」


「なんだい?」


「……これ、基本的には運頼みのゲームなんだよな?」


 二回続けて遊んだ後で、オレは憮然として言った。


 相手が作ったダンジョンが見えない以上、指定したマスに壁があるかどうかは運否天賦でしかないように思える。なのにウタゲは二回ともぶっちぎりの大差をつけてオレに勝利したのだ。


「運の要素が大きいゲームではあるけれど、戦いようはあると思うよ。例えば……移動を宣言するときに相手の表情を観察するとか。春川君は考えてることが顔に出やすいタイプだから、それで読めることも結構ある」


「マジか」


「ま、昔のユウちゃんほどではないけどね」


「ん? 篠原ってそんなに表情に出やすいタイプか?」


 大体いつもにこにこしてるから、割と表情を読みにくいタイプだと思うのだが。


「最近はそうでもないけど、わたしと遊ぶようになった当初は結構わかりやすかったね。緊張しているのがモロに顔に出るって感じで。ま、ボードゲームで遊ぶのに慣れてきたってことなんだろうね」


「かもな」


 慣れたのは何もボードゲームに限った話じゃないと思うぜ、とは言わずにおこう。


「話を戻して……これはちょっとしたテクニックなんだけど、宝箱は闇雲に開けていくより、ある程度マッピングを進めてから開けた方が良いと思う」


「どうしてだ?」


「どの宝箱にキーアイテムを置いてどの宝箱にミミックを仕込むか――そこには必ず対戦相手の意図があるはずだ。ダンジョンの全体像がわかれば、その意図を推測することができるだろう?」


「確かに……」


 どうやらウタゲはオレなんかよりもずっと丁寧に観察し、ずっと周到に考えながら遊んでいたらしい。くそう。なんだか段々悔しくなってきたぞ。


「ええい、もう一回だ! もう一回だけ勝負しようぜ!」


 当初の目的を忘れたわけじゃないけど、ゲームの攻略法を教えてもらったところで「はい終了」というのはさすがに切ないものがある。だからあと、もう一戦だけ……。


「そんなやめ時を見失った文明の指導者みたいな顔をしなくても大丈夫だよ。ひとまずは春川君の気が済むまで遊ぶことにしよう」

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