第6話 不良と地味子と空手と歴女は熱き海の秘宝を求む⑫
『禁断の島』をゲーム置き場に戻したところで瀞畝と梶井さんが連れ立って飲み物を買いに行ったので、オレたちは大会議室の隅で勝利の余韻に浸ることにした。
「いやー、さっきのマコトさんかっこよかったね! 『オレたち四人でひとつのチームだ』って。あたし、もー感動しちゃって感動しちゃって、今でも胸がカッカしてるよ」
全然余韻に浸れねえ!
「……褒めてもなんにもでねーぞ」
気恥ずかしくなってそっぽを向く。
「照れないのー」
わざわざ回り込んで、オレの顔をのぞき込んでくる。相変わらず教室以外では押しが強いヤツだ!
「照れてるんじゃなくって、リアクションに困ってんだよ」
「ごめんごめん。でもさ、嬉しかったんだ、あたし」
「嬉しい?」
「あたしってウタちゃんと遊ぶときはいっつもインストをお願いしてるから、今日、実はすごく緊張してたんだ」
そうだったのか。確かにいつもより口数は少なかったが、てっきり経験者としてあえてそういうプレイングに徹していたものだと思っていた。
「だから、瀞ちゃんにきちんとルール説明ができていないとわかったときはもう、焦っちゃって焦っちゃって、どうにかなる寸前だったの」
瀞畝も相当テンパっていたが、篠原も似たような状態だったわけか。
「だから、マコトさんがああやってあたしと瀞ちゃんの認識のズレを指摘した上で、『オレたち四人でひとつのチームだ。今、本当の意味で四人で一つのチームになった』って言ってくれて、本当に嬉しかったの。ありがと、マコトさん」
それから篠原は胸に手を当てて、すうっと深く息を吸い込んだ。
「何か久々に酸素を吸った気分」
「そんなわけあるか」
オレが笑って言うと、篠原は頬を緩めて「えへへ」と笑い返してくる。しんみりした雰囲気でいるよりも、その方がずっとお前らしいぞと、だからオレは心の中でだけ呟く。
「――そう言えば、瀞畝がルールを勘違いしていたとしても、ひとつ腑に落ちないことがあったんだよな」
「なになに?」
「ほら、オレが『愚者の発着場』まわりのタイルを補強しようとしたときに、梶井さんの提案でヘリコプターカードを使おうって話になったことがあっただろ? あのとき、瀞畝にしては珍しく、遠回しに嫌がってたんだよな」
今にして思えば、その後でテンションを上げてヘリコプターカードを使って見せたのは、そのカードを使いたくなかったという自分の心の内を悟られたくないためだったのではないだろうか。
「あー、それは多分、後に取っておきたかったんじゃないかなあ」
「脱出に使うためにか?」
あのときも瀞畝はそんなようなことを言っていたが。
「じゃなくて、セイナさんがピンチになったときのために、だよ」
「あ――」
「瀞ちゃんだって、ダイバーのセイナさんにはどうしても危険な場所に行ってもらわないといけな状況だってことはわかっていた。だから、彼女のために1枚でも多くのヘリコプターカードを温存しておきたかったんじゃないかな」
「そういう、ことか」
あの時点では瀞畝は全員が脱落するまでゲームが続くと思っていたのだから、ありえる話だ。
「誰だって、大切な友達を守りたいと思うのは当たり前だもん。まぁ瀞ちゃんの場合、マコトさんがいたから余計に意識したってのはあるかも知れないけど」
「ん? 待てよ、そこでなんでオレが出てくるんだ?」
語尾にパパパパパウワー、ドドンというやけに物騒なSEが重なった。篠原のケータイの着信音だった。
「あ。瀞ちゃんだ。これから戻るんでまた遊ぼうって」
「って……篠原お前、いつの間に瀞畝と繋がったんだ?」
「もちろん前回の魔神さんのときだよ?」
この隠れコミュ強者が! オレですらあいつの連絡先は電話番号しか知らないのに! と心の中で毒づいてから、もっと恐ろしい可能性に気がついた。
「ひょっとして篠原……オレがお前とボードゲームで遊ぶようになったきっかけをあのバカに話したんじゃないだろうな?」
オレが尋ねると、篠原は意味ありげに首を傾げてから、くるりと体の向きを変えて、大会議室の出入り口へと歩き始める。
「おい篠原!」
「友達のことをバカという人の質問には答えませーん」
「言ったんだな! おい、篠原!!! 待て、おーい!!!!!」
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