第6話 不良と地味子と空手と歴女は熱き海の秘宝を求む⑦
そしてオレたちは禁断の島へと降り立った!
「こちらメッセンジャー、こちらメッセンジャー。『白銀の門』に到着しました。これよりオペレーションを開始します!」
初手番の篠原がそれっぽい台詞でゲームの開始を宣言する。
「こちら技術者の春川。『赤道の門』周辺2カ所が浸水中。注意されたし」
「探検家のボクも配置についたよ! けどもう浸水してるー?! ぶくぶくぶく」
「だっ、ダイバーも配置完了です! って、なんか私だけやけにみんなから遠いんですけど!」
改めて盤面を見ると、確かに梶井さんだけちょっと位置が離れている。
■■
瀞■■□
■■■■■梶
★□篠■□■
春□■□
■■
【■:通常のタイル □:浸水タイル ★:愚者の発着場】
だが、それよりも気になることがあった。『愚者の発着場』の位置だ。
このゲームで勝利するためには、島のあちこちに隠された財宝を全て集めた上でヘリコプターのカードを持って『愚者の発着場』に集合しなければならない。となれば集合場所が島の外縁部にあるというのはあまり良くないことなのではなかろうか?
「……さて、まずはあたしの番なので、早速ですがメッセンジャーの力をお見せしようと思います!」
おっと。先の展開は気になるが、今はとりあえず経験者である篠原の動きを見ることにしよう。
「さっきの話だと、メッセンジャーだけは離れた場所にいるプレイヤーにも自分の手札を渡すことができるんだったな」
「そうですそうです。ちょうどあたしは梶井さんが持ってる『風の像』と瀞ちゃんが持ってる『大地の石』を持ってるから計2アクション使って、二人にカードを渡すね。はい、どうぞ!」
「おお、なるほどなるほどー。サンキューだぜ篠ちゃん!」
「私もありがとうございます。とりあえずマイちゃんが『大地の石』狙い、私が『風の像』狙いの動きをしていくってことで良いんでしょうかね?」
「カードの出方次第ではあるけど、ひとまずはそれで!」
「「了解!!」」
「で、まだあと1アクション残っているから、隣接する浸水タイルを1個補強して、財宝カードを引きます。1枚、2枚っと」
「お、また『大地の石』を引いてきたね」
「次の手番で渡すことになるかもね。次、浸水カードを引きます!」
宣言通り、新たな浸水カードが公開され、2枚のタイルが裏返る。
「……差し引き1枚増えただけだけど、テーブルの上がまぁまぁ青白くなってきた感じがするな」
「油断してるとあっという間に水浸しだから気をつけてね」
「オーケー。だが、そういう盤面こそオレの出番だな!」
オレは自分のコマを二つ動かして、『物見櫓』のタイルの上にのせた。
「ここで補強だ!」
オレは『物見櫓』のタイルの上下にある浸水状態のタイルをまとめて表にした。1アクションで2つのタイルを補強できるというのが、オレこと技術者の能力だった。
「『愚者の発着場』に行くルートは確保しておいた方がよさそうだからな。財宝カードの受け渡しは後に回させてもらったぜ」
続く財宝カードの補充でも水位上昇は起きず。しかも任意のタイミングでタイルの補強が行える土嚢カードまで手に入れることができた。こいつは行幸だ。
「じゃあ、今度はボクの番! うーんと、えーっと、そうだ! 春川に『大海の杯』を渡してから『大地の石』を入手できるポイントの近くに移動しようと思うんだけど、どうかな?」
「良いんじゃねえか?」「春川さんも水の杯を一枚持ってるし」「うん。やってみよう、篠ちゃん!」
「なら、行くよっ!」
瀞畝は自分のコマを『物見櫓』に動かし、オレに財宝カードを手渡してから、さらに『大地の石』が奉られた神殿のひとつ――『陽光の神殿』に向かって斜めに移動した。上下左右に加えて斜めも移動や補強の対象となるというのが探検家・瀞畝の特殊能力なのだ。
「やった、『大地の石だ』。これで篠ちゃんからカードをもらえば4枚揃うね」
「良いですねー良いですねー。それじゃあ引き続き浸水カードもお願いします」
篠原に言われて青いカードの山札をめくった瀞畝が顔を強ばらせた。
「ぎええ! ヘリポートが!」
開幕早々、絶対に沈んではならないタイルが裏返ってしまったのだ。瀞畝ならずとも叫びたくなるところだが――。
「大丈夫大丈夫。浸水しただけなら問題なく発着できるから」
「あ、そうか。良かったぁ」
「今度は私の番ですね。『風の像』がある方向に移動するのは確定として、タイルの修復と財宝のパス、どっちを優先すべきでしょうかね……」
「悩ましいところだが、今のところ炎の水晶は誰も集めてないし、タイルの修復を優先しても良いかも知れないな」
オレの手元にもあるにはあるが、本格的に集めるとなると他の色の財宝カードを誰かに渡すか、最悪捨て札にしていかなくてはならない。
「でも、とりあえず篠ちゃんと合流してカードを渡しておくのもアリかもよ。どうせ5枚までしか持ってられないんだから」
確かに手札の少ない篠原に不要な財宝カードを戻せば、そいつを捨て札にしなくてすむかも知れない。瀞畝にしては一理ある。
「あ、でもそもそもこの手番では篠原さんのところまで行けないので……こうします! 左に1つ移動、続いてダイバーの潜水能力を使って浸水したタイルを泳ぎ、1アクションで2つ分移動します! でもって今泳いだタイルを補強して、手番終了です!」
「おー、うまいことやったねセナちゃん」
「はい、頑張りました!」
梶井さんは瀞畝の賞賛に口角を上げてそう応じると、財宝カードの山札に手を伸ばした。
「……って、ここで水位上昇ですかー! やだー!」
そう。梶井さんが出したのは、忌まわしき水位上昇カードだった。
「まぁまぁ。いずれどこかでは出てくるカードなんだから。1枚目なら浸水カードを引く枚数も増えないし、慌てず、騒がず、やっていこ?」
「はぁい……」
篠原の慰めに、梶井さんは肩を落として応じた。篠原の言うように遅かれ早かれ誰かが引くことになるんだからそこまで気落ちしなくてもとは思うが、やっぱり引いた当人にしてみればショックなのだろう。
「はじめに水位メーターを1つ上げるんだったな」
こういうときは下手に優しい言葉をかけるよりも、どんどんやるべきことをやっていった方が良い。オレのような口下手人間の場合は特に。
「うん。そして、浸水カードの捨て札をシャッフルして山札の上に置いたら、水位上昇カードを捨てにして次のステップに進みます」
「セナちゃんはまだ1枚しか財宝カードを引いてないからもう1枚引くで良いんだよね?」
「うう、二連続だけはやめて二連続だけはやめて」
さすがに乱数の神様も自重したようで、梶井さんが次に引いたのは『風の像』だった。
「ふー、良かった。じゃあ次は浸水カードを」
安堵のため息を漏らしつつ、梶井さんが赤いカードの山札に手を伸ばした――。
「待った!」
オレは鋭く言って、梶井さんの動きを静止した。
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