第6話 不良と地味子と空手と歴女は熱き海の秘宝を求む⑥

「まずは財宝カードの補充ということで、赤いカードの山札から2枚引いて手札に入れます。この時、手札が6枚以上になってしまったら、5枚になるまでカードを選んで捨ててください」


 手札に上限があるのか。しかも5枚。財宝カードを一人で4枚揃えないといけないことを考えると、なかなかキツそうだ。


「財宝カードの山札の中には、財宝の絵が描かれたカードの他に、ヘリコプターカードと土嚢カード、それに水位上昇カードというものが入っています。この内、ヘリコプターと土嚢は、ゲームの進行を助けてくれる特殊なカードです」


 篠原はヘリコプターと土嚢のカードをテーブルの上に並べて、それぞれの効果について説明した。


「じゃあ、浸水カードは?」


 瀞畝が尋ねると、篠原は笑って「気になると思うけど、先に浸水の進行について説明しても良いかな?」と言った。


「……財宝の補充が終わったら、続いて浸水の進行です。具体的には、青い浸水カードの山札からカードを引いていき、対応するタイルを裏返していきます。もしそのタイルが既に浸水していた場合は、引いてきたカードと対応するタイルをともにゲームから除外します」


「浸水したタイルがさらに浸水するとアウトなわけだな?」


「はい。ちなみに浸水カードを引く枚数は、水位ボードのマーカーの位置で決まります」


「最初は2枚で」「段々増えていくってことですよね……」


 瀞畝と梶井さんが不安そうに見つめ合った。


「うっふふふ。というわけでいよいよ水位上昇カードについて説明しましょう。このカードを引いたら、まず水位ボードのマーカーを1目盛り分上げます」


「「やっぱり!」」


「それから浸水カードの捨て山にあるカードをまとめてシャッフルし、。最後に、水位上昇カードを財宝カードの捨て山に置きます。まだ1枚しか引いてない場合は、山札からもう1枚財宝カードを引いてきて、浸水の進行に移ります」


 ん? 今何かさらっと恐ろしいことを言わなかったか? オレは思わず瀞畝と梶井さんの横顔を見るが、二人とも水位上昇カードの真の恐ろしさに気づいている風ではない。うーん、これは言った方が良いのかどうなのか。


「ここでゲームの勝敗について話します」


 と悩んでいる内に、篠原の説明が次の段階に進んだ。仕方がない。このことは後回しだ。


「まずは勝利条件ですが、4つの財宝を集めて、ヘリコプターが描かれた『愚者の発着場』に集合します。全員が集まったところで誰かの手札からヘリコプターカードを使用することで島からの脱出に成功し、ゲームに勝利します」


 カランと何かが落ちる音がした。どこだろう。近くではなさそうだし、まぁ良いか。


「続いて敗北条件ですが、こちらはいくつかのケースがありえます。まだ獲得していない財宝に対応したタイルが二つとも水没してしまった時。『愚者の発着場』タイルが水没してしまった時。いずれかのプレイヤーが水没したタイルから逃れられなくなった時。それから――」


 と、篠原が口を噤んだ。瀞畝がテーブルの下でごそごそやり始めたのだ。


「よーし、あったあった」


 しばらくしてテーブルの下から顔を出した瀞畝の手には白いお化けの模型が握られていた。


「どうぞ!」


 瀞畝は近くを通りがかった小学生の男の子にその模型を渡して言った。


「ありがとうございます!」


 どうやら遊んでいたゲームのコンポーネントを転がしてしまって、探し回っていたらしい。っていうか三つ向こうのテーブルで遊んでいたのか。結構遠くまで転がしたな……。


「楽しむのは良いことだけど、借り物なんだよね? 次からは丁寧に扱おうぜ」


 瀞畝が諭すと、男の子は素直に「はっ、はいっ! 気をつけます」と言った。


 道場でもそうなんだけど、瀞畝は子どもの相手をするとき(だけ)はすごくしっかりするんだよな……。


「押忍!」


 瀞畝はそう言って男の子を送り出すと、篠原の方に向き直って「篠ちゃんごめんっ。説明止めちゃったね!」


「ううん。大丈夫、続けるね。敗北条件の最後は――そう、水位レベルがドクロのところまで上がったとき。どれか一つでも条件を満たしたら敗北なので、そうなる前に、さっき言った勝利条件の達成を目指すというわけ。大丈夫かな、瀞ちゃん」


「うん。オッケー。ヒバっちもそうだけど、篠ちゃんも説明上手だよね! ボクの学校の数学教師に爪の垢を煎じて飲ませてやりたいくらいだよ」


「あはは。それじゃあ、最後の最後! 禁断の島では冒険者ひとりひとりに役職が割り振られます。役職ごと固有の特技があるので、それを上手く利用してください。というわけで、冒険者カードを使って各人の役職を決めまーす!」

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