第6話 不良と地味子と空手と歴女は熱き海の秘宝を求む②

 四人で益体もない雑談をしているうちに開会の時間になった。


「みなさん、前に注目お願いしまーす」


 部屋の前面――ホワイトボードの前に立ってそう言うのはもちろん主催者の仁志木さんだ。それほど声を張り上げているわけでもないのに、みんな一斉にそちらを向くあたり、声の出し方を心得ている感じがする。


「今日はみなさん、静岡県中部ボードゲーム『魔神さん』にお集まりいただきありがとうございます。私は主催の仁志木ナオと申します。早速ですが、開会に先だって、当会で遊ぶ上での注意事項について説明しますね」


 説明の内容は前回とほとんど一緒だったが、全員襟を正して耳を傾けている。笑いの絶えない賑やかなゲーム会だが、この時ばかりはピリッとする。こういうバランス感覚は、ちょっと尊敬に値すると思う。


「――他に何か困ったことがあれば大小問わず、私に相談してくださいね。色々うるさく言いましたが、一番大事なのはみんなで楽しく遊ぶことです。それでは第二十一回『魔神さん』、これより開会です!」


 ともあれ開幕。さて、とりあえずはオレたちの取るべき行動は――。


「ウタちゃんと合流しよっか」


「だな。瀞畝と梶井さんも良かったらオレたちと来ないか?」


 篠原の言葉にうなずいてから、オレは残りの二人を誘ってみることにした。


「是非是非!」


 すぐに声を上げたのは梶井さんで、瀞畝はと言えばぽかんとした表情で立ち尽くしている。


「ん? 瀞畝は何か他にやりたいことがあるのか?」


 オレが尋ねると、今度はワナワナと震えだした。前田光代方式の発作か?!


 オレはさりげなく篠原をかばう位置に立つと、重心を落として体躯の力を抜いた。


 しかし――。


 がし。


「なっ!」


 瀞畝は一切の敵意害意を感じさせない動きで、オレの左腕を両手で握りしめた!


「ありがとう!」


「え?!」


「なんか我が宿敵からこうも積極的に誘われるのが新鮮で! ありがとう! ありがとう! これで向こう二年は孤独死しなくて済む!」


 いや別にそこまで積極的に誘ったつもりは……って、なんか半泣きになってるんだが!


「マコトさん、どんだけ瀞ちゃんを寂しがらせていたの……」


「むしろ私が寂しい件」


 そして予想外の方向から非難の眼差し×2が!


「ああもううるさいうるさい。瀞畝もいい加減手を離せどさくさに紛れて関節を極めようとするな」


 オレは肘を畳みこむやり方で手首(リスト)のロックを外してから、えへんえへんと派手な咳払いをした。


「……ともかくウタゲを探しに行くぞ。瀞畝と梶井さんは遊びたいゲームを選んでいてくれ」


「「はーい」」

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