禁断の島で遊ぶ
第6話 不良と地味子と空手と歴女は熱き海の秘宝を求む①
「ついにこの日がやって来たね、マコトさん」
青須第一公民館の入り口まで来ると、篠原は朗らかな声でそう言った。
「ついにこの日がやって来てしまった……」
同じくガラス張りの自動ドアの前で足を止めたオレは重苦しい声でそう言った。ドアの向こうには今日の予定を表示するためのホワイトボードが置いてあって、二階の大会議室の欄に『静岡県中部ボードゲーム会』の名前が記されていた。
「今回は大会議室が取れたんだな」
「うんうん。なので今日はあたしも短めスカート履いてきちゃいました♪」
篠原は腰の辺りを布地をぴらりとつまんで見せる。白地に藤の花模様のミニと、ついでにほどよく肉付きの良い太ももが目に眩しい。ったく、篠原はこういう女の子女の子した服が本当よく似合うよなあ。
「玄関で見せびらかすなって。さっさと行くぞ」
照れ隠しにそう言って、オレは一足先に館内へと歩を進めた。
「待ってよー、マコトさーん」
しかし勢いに任せて二階に上がったところまでは良かったが、大会議室へと続く廊下を歩いている内に、急に胸の内に不安が広がってきた。
「なぁ篠原」
「どしたの?」
「本当の本当にオレが参加して問題ないのか?」
前回の惨劇――あれを振り返る度、自分に再び静岡県中部ボードゲーム会に行く資格があるのかという思いが湧き起こってくる。
「問題ないって。この前も言ったでしょ? 主催者さんの方から来てくださいって言ってるんだから。気にするだけ損損」
「でもなあ……」
篠原の楽観的な意見にどうしても同調しきれず、オレが足取りを重くすると、篠原がわざわざ戻って来て、ショルダーバッグ(今日もとんでもなく重たそうだ)を掛けていない方の腕でオレの手首をぐいと掴む。
「だいじょーぶだいじょーぶ。さ、進んだ進んだ!」
帰宅部なのに相変わらずこのバカ
そんなこんなで半ば引きずられるようにして大会議室に入ると、受付に清楚系美人が控えていた。静岡県中部ボードゲーム会の主催者さんだ。
「こんにちは。今回もよろしくお願いします!」
篠原の快活な挨拶に続いて、オレも「あ、その……どうも」と頭を下げる。
すると主催者さんは電流に打たれたみたいに体を震わせた。黒髪ロングがふわりと揺れて、主催者さんの頬が熱を帯びる。
「こここ今回も来てくれたんですね! ありがとうございます! 是非楽しんでいってくださいね! いえ! 私はこの間のこと、気にしてませんから! 全然気にしてませんから!」
めちゃくちゃ気にしてるじゃねーか!!
「事前に声まで掛けてくれて本当にありがとうございます、
篠原が如才なく言って、自分とオレの受付手続きをまとめて済ませる。うーん、前回初参加にして既に主催者――仁志木さんと言うのか――と連絡先を交換しているし、見た目の割にコミュ力高いよな……。
「そう言やウタゲのやつはいるのかな」
「半分スタッフみたいなものだって言ってたから、先に来てはいると思うけど……うーん、見つからないね」
などと言いながら会場内を歩いていると、ウタゲよりも先に別の知り合いの姿を発見した。
「おい、篠原」
「あ、梶井さんだ! おーい」
呼びかけられたおぱっか頭の女子はすぐにオレたちに気づいて駆け寄ってきた。
「こんにちは、篠原さん。それに春川さんも」
「梶井さんも来てたんだな。ってことは……」
「はい。マイちゃんも一緒ですよっ」
心なしか誇らしげにそう言うと、梶井さんはぐるりと辺りを見回した。
「あそこです!」
本当だ。梶井さんが指さした先で、瀞畝マイが他の参加者と一緒になって、ゲーム置き場に山と積まれたゲームを眺めている。うーん、梶井さん、瀞畝レーダーでも内蔵しているのだろうか。
ともあれゲーム置き場の方へ向かうと、瀞畝もこちらに気がついて参加者の列から抜け出してきた。
「我が
そう言ってから、ふいにクラゲに刺されたみたいに体を震わせた。トレードマークのポニーテールがふわりと揺れて、瀞畝の頬が熱を帯びる。
「……や、ボクはこの間のこと、気にしてないから! 全然気にしてないから!」
そう言えばこいつもファンキーな性格の割に下ネタには耐性なかったんだっけ。ええいくそ。篠原、笑ってないでフォローしろ。
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