第5話 不良と地味子と低血圧子は城塞都市を再建する⑫
それからもう三戦、カルカソンヌで遊んだこともあって、オレたちがメリーさんを出る頃には六時半を回っていた。
「随分日が沈むのが遅くなったなぁ」
「まだ結構明るいもんね」
「おかげで多少帰りが遅くなっても親に怒られなくてすむ。わたしはこの時期が一番好きだな」
「えー。湿気でめっちゃ髪の毛広がるじゃん」
「ユウちゃん髪質ふわっとしてるからねー」
そんな感じでオレたちは駐輪場の前で雑談モードに移行したが、それもちょっとの時間だけで、ウタゲが腕時計をチラ見して「そろそろかな」と言ったのを合図にお開きとなった。
バス通のウタゲを駅まで送り届けた後で(またね、二人とも)、オレは篠原とともに歩き始める。二人して自分の自転車を引きずって。
「そう言えばお前らって、中学一緒なのに帰る方向はてんでばらばらなんだな」
「あ、うん。中学三年まで県営住宅に住んでて、この春休みに引っ越したの」
「へー。割と最近の話だな」
「今度ウタちゃんと一緒に遊びに来てよ。まだ新築だから綺麗だよ!」
「それも面白そうだな」
お隣のポッキー君(コーギー・オス)には何となく会いづらいけどな。心の中で呟いてから、メリーさんでのウタゲとのやり取りを思い出して、オレは顔をしかめた。
「……にしてもウタゲのやつめ、変なことを言わせようとしやがって。魔人さんに続いてメリーさんでも出禁になるところだったじゃねえか」
「あたしとシェアした都市のこと? まあまあ。実際に口にしたわけじゃないし、他にお客さんもいなかったわけで」
フォローするようなことを言う篠原だが、言ってる側からころころ笑い出しているのでまったくフォローされてる気がしない。オレはそれでちょっと不機嫌になって、唇を尖らせた。
「他の客は関係ねーって」
「そうなの?」
「……オレがあんまくだらねーことばっか言ってると、篠原が嫌な気分になるんじゃねえかなって思ったんだよ」
「そうなの?」
篠原は一度小首を傾げてから、ぱっと花咲くような笑みを浮かべた。
「ありがとう、マコトさん。あたしに気を遣ってくれて。でも、大丈夫だよ」
「大丈夫って、何が」
「ウタちゃんがああ見えて昔から結構キツい下ネタを飛ばしてくるから、あたし、結構耐性ついてて」
「そうなのか?!」
「そうだよ。だから、この間のことも今回のことも全然気にしてない。むしろ――」
「むしろ?」
「あたしは良いと思うよ、マコトさんの●ン●ン」
「良くねーしそもそも生えてねーよ!!」
というか往来でなんてこと口にしやがる。
「ごめんごめん。それと、魔神さんのことだけど、マコトさんは別に出入り禁止になんかなってないよ。さっき主催者さんからあたしのところにメッセージが飛んできて『この間のことは気にしなくていいから、またきてくださいって伝えてください』って言ってたし」
「主催者さんて、オレが例のアレを絶叫したときに真っ赤になってしゃがみ込んじゃった人だよなあ」
「あたしやウタちゃんと違って耐性ないから……」
「なんかめっちゃ行きにくいんだが」
「でも、わざわざこうやって言ってくれたんだから」
「わかってる。次も一緒に行ってくれるか?」
「もちろん!」
そうしてオレたちは、分かれ道に着くまでずっと、自転車を引きずって歩いた。
「そう言えば旅行の話だけどよ」
信号機の色が変わるまでのわずかな時間に、オレは往路で話題になったことにもう一度触れることにする。
「いつか時間と金に余裕ができたら、世界遺産とか観に行ってみるのもいいかも知れないな」
「世界遺産! それこそカルカソンヌとか?」
「大本命はそれだな。んでもって、どっかの草原で寝そべってやるんだ」
「さっきのマコトさんの手下みたいに?」
「……ああ、そうだな」
一人ってのはちょっと寂しいけどな。とは言え、エッセンとカルカソンヌがどれくらい離れてるのかすらイメージできない今のオレに余計なことを言う資格があるわけもないので、当然黙っておくことにする。
「とは言えいきなりカルカソンヌはきつそうだ。最初はもう少し近いところに行ってみるのが良いかな」
「具体的には?」
「
「県内じゃん!」
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