第5話 不良と地味子と低血圧子は城塞都市を再建する⑪
全員が気迫のこもったプレイングをする内、ついにゲームは最終局面を迎えた。
「残念。あたしはここまでか」
いっとき、ウタゲの都市への乗っ取りをやり返すなど猛追を見せた篠原だったが、一歩及ばず、最後は自分の未完成の都市に三辺都市を繋げて最後の手番を終わらせた。
「残り一枚、か」
その一枚を引くのはオレだった。ウタゲとの点差は見込みで6点。よくここまで挽回したとも言えるし、それでも6点の差があるとも言える。
「リップ片来い!」
しかし、オレが引いたのは残念ながらL字の道だった。いやまぁルールブック片手に表になっているタイルを数えていけば、最後の一枚がどんなタイルが明らかなわけだけど、あと一手で完成する都市がある以上、つい期待してしまうのが人情だろう。
「道かあ……」
まだ誰も置いてない道に繋げたところでたかだか3点にしかならない。草原も――見えている範囲では6点以上が得られるところはなさそうだ。うーん、これは負けたかな。
肩の力が抜けていくのを感じながら、ふと顔を上げたところで、真剣な表情でテーブルを見つめるウタゲの姿に気づいてしまう。
はっとして、テーブルに置かれたタイルを見つめ直し、そしてオレは正解を発見する。
「悪いなウタゲ」
「ん、何がだい?」
そう尋ねるウタゲだが、半ば以上オレがこれから言おうとしている内容を理解しているような口調だった。
「お前が最後まで気を抜かずに遊んでくれたおかげで気づいちまったんだ」
「悪くはないさ。それで気づけたんなら、それが君の力量だ」
オレはウタゲの言葉に小さくうなずくと、古くからある二つの草原をつなぐように最後のタイルを置いた。
二つの草原はいずれもウタゲのものだった。
もしも二つの草原がつながらずにゲームが終わっていたなら、それぞれについて得点計算が行われていたことだろう。草原と草原の間には二つの都市が存在し、共通の――しかし別個の得点源となっていた。
二つの草原は一つになり、別個の得点源は別個の得点ではなくなった。結果、ウタゲは実質的に3×2=6点分のマイナスを食らったことになる。
そしてまたオレは小さなL字の道の上に自分の手下を置く。これで1点。この1点がまさに決定打となって、オレは勝者となったのだった!
「いやー負けたね」
ゲームが終わって一息ついたところで、ウタゲはサバサバした態度で言った。こういうところは本当、出来たヤツだと思うぜ。
「無理して乗っ取りを狙うより、独自の点数を確保しながら相乗りしていく方が効率的だってことに気がついたのが良かったな」
「なるほど。やっぱり相乗りに的を絞っていただね」
「そういう意味じゃ、ここの都市を篠原とシェアできた辺りが分水嶺だったのかも知れない」
篠原がオレと相乗りする形で完成させた都市を指さして言う。
「あははー。本当はあたしが勝ちに行きたかったんだけどねー」
「ユウちゃんもチャンスはあったと思うよ。例えば……」
ウタゲがいくつかのタイルを動かして、具体的な手順を説明する。こういう感想戦も面白いな、カルカソンヌってのは。
「なるほどね! 確かに」
「まぁでもユウちゃんに対してはわたしの引きが鬼だった」
これはゲーム中盤でやった篠原が育てていた大都市の乗っ取りのことだろう。
「あれはキツかった」
「ま、なんにしても今回は春川君の大勝利だ。ここの都市にカンパイと言ったところかな」
そう言ってウタゲは、先ほどオレが示した都市を指でなぞると、健闘をたたえるように微笑を浮かべた。
「なぁウタゲ、ちょっと聞いても良いか?」
「何だい?」
「こいつにも三日月、とか手裏剣みたいな格好いい名前はないのか?」
感想戦を経て、オレはこの都市の形に愛着を持ち始めていた。もしも何か呼び名があるのなら、それを知っておきたいと、心の底から思ったのだ。
「わたしはちょっと聞いたことないかな――」
そうか。残念だな、と言いかけたところでウタゲの表情が変わった。
「いや、むしろこれは春川君の得意ジャンルじゃないかな」
にやりと小悪魔的な笑みを浮かべるコロポックル。
「何だよ得意ジャンルって」
「え、それって」
篠原がそう言ってむせる。オレの脳内で何故かアラートが鳴った。
しかしオレは改めてその都市をじっくりと眺めてしまう。
三辺都市を中心にして、その左右にくっついたリップ片。残りの一辺――リップ片を左右とするなら前方と言うべきか――に土管型の二辺都市がつながりそれをリップ片で閉じる。具体的にはこんな感じの都市だ(↓)。
∩
||
⊂_⊃
そう。それはつまり――。
(チ●チ●じゃねーか!!)
思わず出そうになった叫び声をかろうじて押さえ込むと、オレはウタゲの頭にエア手刀を繰り出したのだった。
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