第5話 不良と地味子と低血圧子は城塞都市を再建する⑩
中盤にさしかかったところで、大きな動きがあった。
「あっ」
篠原が中央の草原で育てていた都市に、ウタゲが相乗りを仕掛けたのだ。
「……ふむ。これが来たなら、こうだね」
さらに篠原の手が止まっているとみるや、双子のリップ辺を巧みに配置して、乗っ取りの構えを見せる。
「えっ、嘘っ」
「ふふ、これは引き運に助けられたかな」
仕上げにウタゲは紋章付きの三辺都市を置いて、巨大な都市を完成させた。乗っ取り成功である。8枚プラス紋章で一挙18点を叩き出した!
「グワー」
一方で頑張って育てた都市を奪われた形になった篠原はショックのあまり体を仰け反らせて絶叫する。でもグワーって。
「うーん、こりゃあウタゲの独走か?」
思わず呟いてしまってから、失策に気づく。これでは篠原を責めてるみたいではないか。
案の定、篠原が「ごめんねマコトさん。あたしの守り方が悪かったみたい。」と頭を下げてきた。うーん、困ったな。どうフォローしたものだろうと秘かに冷や汗を掻いていると、当の本人がにっこりと微笑んだ。
「でも、まだ勝負を諦めるのは早いよっ」
篠原は、裂帛の気合いを込めて引いてきた土管状の二辺都市タイルを、別の場所で育てていた自らの都市に繋げた。
「おい、良いのか?」
思わずオレがそう尋ねたのは、土管状のタイルのもう一辺が、オレの道付きリップ片と繋がっていたからだ。都市は完成するが、これでは相乗りの形になり、篠原だけでなくオレにも点が入ってしまう。
「良いんだよ。今はウタちゃんに追いつかないと」
そう言われて気がついた。相乗りになったところで篠原の点数が減るわけではないのだ。むしろオレが作った分の都市を自分の点数に加えることができるのだから、一人が大きくリードしているこの状況では極めて有効な戦術だ。
オレは再び回ってきた自分の手番で、今度はオレの方から篠原の道への相乗りを持ちかける。すかさにウタゲまでもが相乗りしようとしてくるにに対し、篠原が三叉路を使って分断する。
「さすがに防がれるね」
なるほど。妨害への対応力が上がるのも相乗りのメリットと言えそうだ。
とは言え篠原だって勝つためにプレイしている。協力体制は過信しすぎれば、思わぬところで足を掬われてしまうだろう。であれば次のオレの一手は――ウタゲの都市への相乗りだ。
「ほう。今度はわたしと? 春川君もなかなか見境ないね」
「勝つためだからな!」
ウタゲの点数を伸ばすことにもなるが、それでも一人で完成させられるよりはマシだ。ついでに言えば、相乗りをするだけして、こちらからは積極的に動かないという手もある。
「と言うことは乗っ取りを考えているのかな?」
「どーだろうな」
とは言ったものの、実のところ乗っ取りまでは考えていなかった。オレの狙いはあくまで相乗りだ。何しろ乗っ取りのためにには少なくとも2人の手下と、4回の手番が必要になる。手下一人が何の得点も生み出さない草原で寝ている上、そろそろ残りのタイル枚数が気になってくるこのタイミングで、積極的に乗っ取りを狙っていくのは得策ではないというのがオレの考えだった。
もちろんその上で、チャンスがあるならオレ一人で作った地形も完成させていく!
「よし来た! 都市完成で8点だ!」
今ので結構挽回してきたな。
「……こうなってくると、修道院タイルが春川君に寄ったことが響いてくるね」
ウタゲが左手の親指を顎に手を当てて言った。
「まーな。こればっかりはビギナーズラックというやつだ」
ゲームの合間にルールブックを読んで確認したのだが、修道院タイルは全部で6枚ある。そのうちオレが引いたのは4枚と、全体の3分の2をガメていて、確定しているだけでも28点もの得点源になっているのだ。
「でも、最後に勝つのはわたしだ!」
「やらせるかよ!」
「あたしだって最後まで諦めないよ!」
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