第5話 不良と地味子と低血圧子は城塞都市を再建する②

 篠原とともに雑居ビルの駐輪場に自転車を止めていると、五十海南女子高の制服を来た小柄な少女がビルの階段を上っていくのが見えた。


「おーい、ウタゲ」


 少女――火場ウタゲに声を掛けると、彼女はおや、という表情でこちらを振り返った。


「ああ、春川君。それにユウちゃんも一緒か」


「はろはろー」


 ぱたぱたとウタゲの側に駆け寄って、三人でメリーズ・ラムの扉を目指す。


「ああ、いらっしゃいませ。今日はみなさん一緒でしたか」


「ううん。たまたま下で合流しただけだよ」


 マスターの尋ねに軽く応じると、ウタゲは我先にいつもの席へと向かった。


 続いてオレたちも椅子に座り、飲み物のオーダーを済ます。


「さて、何して遊ぶんだ?」


「うーんと……ユウちゃん、今日は何も持ってきてないの?」


「手ぶらで来たけどどうして?」


「や、てっきり春川君がウボンゴ3Dでリベンジしたがってるかなと思ってね」


「「ウボンゴ3D……」」


 ウタゲの言葉に思わずオレと篠原が声をハモらせてしまう。


 おそらく脳裏に浮かんだ光景も同じなのだろう。オレと篠原は何となく互いに目線を逸らしつつ「あ、あれは……また今度で良いんじゃないかな」「そ、そうだね。また今度で良いよね」と言い合った。


「……なんなのこの微妙な空気は」


 ウタゲの指摘はもっともだった。オレはぶるぶるとかぶりを振って篠原のあのなまら柔らかい感触を頭の中から追い出すと「そ、そうだ!」と声を上げた。


「この間のオープン会で篠原が気にしていたゲームがあったよな。ほら、拡張ってのが山ほどあるゲーム」


「ええと、カルカソンヌのこと?」


「そうそれ。確かこの店にも置いてあったように思うんだが……」


「これだね」


 そう言って無駄に無駄のない洗練された動きで棚からボードゲームの箱を取り出したのはもちろんウタゲだ。


「さすがウタちゃん」


 箱には青い尖塔が印象的な中世ヨーロッパの城塞と赤い前方後円墳のようなマークが描かれていて、上の方に大きく『カルカソンヌ』とある。このタイトルで良いはずなのだが……。


「でもパッケージのデザインがオープン会で見たやつとは微妙に違うような」


 よく見ると『カルカソンヌ』の『ヌ』の下に『J』ってかいてあるし。


「こっちの方が新しい版だね。しかもローカライズされたやつ」


「JはJapanのJなのか」


 重版された上に、わざわざ日本向けのバージョンを作ったってことは結構売れているのかも知れない。いやまぁ、売れ行きはこの際どうでも良い。オレとしては篠原が気にしていたゲームが一体どんなものなのか、是非とも遊んで確かめて見たかった。


「ふふ。何となく話はまとまったようだね。それじゃ今日はカルカソンヌで遊んでみようか」


「「異議無し!」」

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