第4話 不良と地味子は身成り余る処を以ちて身の成り合は不る処を刺し塞ぐ②

 篠原の手と口に蠱惑されてるうちに古典の授業が終わり、放課後になった。


「うっふっふー。マコトさん、今日はいつにもまして気合いたっぷりだね!」


 篠原は終礼が済むなりご機嫌でオレのところにやって来た。


「ま、まぁな」


 篠原の横顔に見とれていた悟られるよりはボードゲームで遊ぶ時間が待ち遠しくてしょうがなかったのだと思われる方が良い。オレは頬を掻きながらそう応じた。


「問題はどこで遊ぶかだよね」


「どうしたもんかな。メリーズ・ラムじゃ秘密特訓にならないしなぁ」


「そもそも今日はお休みだよ」


「あれ? そうなのか」


「うん。定休日」


「うーん、オレの家はちょっと狭いんだよなあ」


 というのは建前で、姉の部屋に居候している立場上、友人を招きづらいというのが本音だ。姉本人には怒られそうな本音だが。


「あたしの家でも良いけど、歩きだとちょっと遠いかも。……そうだ! 旧国道沿いの漫画喫茶とかどうかな」


「確かにあそこのカラオケルームなら机も大きいしボードゲームで遊ぶのには申し分ないけど……店的にはアリなのか?」


「前にそれこそメリーズ・ラムが臨時休業だった時もウタちゃんと遊んだことがあるから。あ、もちろんお店の許可はもらったよ?」


 前例があるなら良いか。一応入店の際に確認してみるけど。


「オーケー。それで行こう」


「じゃあ、ボードゲーム取ってくるね。先に駐輪場に行って待ってて」


 生徒用のロッカーにオレがリクエストしたボードゲームを突っ込んであるらしい篠原はそう言い残して、一足先に教室を出て行った。


 篠原の背中を見送ったオレは、バッグの中からケータイを取りだして、メッセンジャーアプリを起動する。


『明日の放課後、予定が空いてたらオレに付きあってもらえないか』


 オレが篠原のケータイにそんなメッセージを送ったのは昨晩のことだ。送る前に、アプリ上で何十回も文章を書き直したことや、書き上げてから送信ボタンを押すまでに三十分以上の煩悶があったことを篠原はもちろん知らない。


『いいよー。ボードゲーム?』


 かるーい反応が返ってきたのは送信してから一分も経たないうちのこと。ま、篠原ならそう言ってくれるかなと少しは思っていたけどさ。でも、ほっとしたのも事実であって、オレは思わず安堵のため息を漏らしたものだ。


『おう。できればを持ってきてもらいたい。特訓したいんだ』


『りょーかい。そういうことなら明日は二人で遊ぼっか』


『悪いな』


『ううん、大丈夫。明日はウタちゃん、用事がある日だし』


 オレの思惑を見透かしたような篠原のメッセージだった。


 ――実際見透かされているのだろう。だがまぁそれならそれで構わない。オレはオレの望みを果たすだけだ。


 オレは誰にも聞こえない声で「今日こそはウボンゴしてやる……!」と呟くと、ケータイをバッグにしまい直して自転車置き場へと向かった。

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