第3話 不良は五七五で悶々とする⑤

「改めて紹介するね! 彼女はボクの中学時代からの友人の春川マコトだよ! こっちは高校に入ってから友達になった梶井かじいセイナ――セナちゃんだ!」


 ボードゲーム置き場から少し離れたところに集合したところで、早速口火を切ったのは瀞畝だった。


「火薙中央高校一年の梶井です。よろしくお願いします」


 見た目通りおっとりした性格らしい彼女――梶井さんは、そう言って丁寧に頭を下げた。っていうか、瀞畝は火薙中央ヒナ高に進学してたのか……。


「お、おう」


 梶井さんの礼儀正しさに気後れしたのと、瀞畝の進学先を今の今まで把握していんかったことについて(一応は)申し訳なさを抱いたのとで、オレは思わずサマにならない返事をしてしまう。


「じゃあ、次はそっちの番だね」


 おまけに瀞畝にフォローを入れられてしまった。まぁ良い。気を取り直してやるべきことをやろう。


「わかってる。この体と声と態度がでかくてやたら元気なのは瀞畝マイだ。オレと同じ中学で、同じ空手道場に通っていた」


「押忍、よろしく!」


 瀞畝は篠原の方を向くと、腕を十字に交差させながら言った。


「こちらこそよろしくお願いしまーす」


「で、こっちが五十海東校の同級生の篠原――篠原ユウキだ」


 オレの言葉に、篠原は一瞬細い目をより細めた。心なしか、表情が固い。オレのことを非難しているようにも見える、そんな表情だった。


「梶井さんもはじめまして。良かったら一緒に遊ぼうね?」


「はい! 喜んで」


 と思ったら、すぐにいつもの篠原スマイルに戻って、梶井さんを誘いだしている。うーん、何だったんださっきのは。


「でも意外だね。武闘派の春川がボードゲームの集まりに参加するなんて」


「篠原が誘ってくれたんだよ」


「篠ちゃんが?」


「「篠ちゃん?!」」


 オレと梶井さんが同時に突っ込んだ。昔から瀞畝は初対面の相手でも物怖じせずに距離を詰めていくタイプなのだが、それにしても篠ちゃんはないだろ……。


「アリです」


 ああそうだった。篠原は篠原で、割とぐいぐい来るヤツだったよ。ま、本人がそれで良いってんなら、これ以上突っ込むのも野暮ってものだ。


「こいつはこう見えてボードゲームが大好きなんだよ。篠原がいなきゃ、オレもこういう世界に足を踏み入れることはなかったと思うぜ」


 誇張も気負いもなく言ったつもりだったが、口にしてからじわりと気恥ずかしさが込み上げてくる。隣の篠原が「うふふー」と声に出して笑いながら、さっき一瞬だけ見せた硬い表情が嘘のように頬を緩めていることに気づくと、余計に照れくさく思えてくる。


「……そういう瀞畝こそ、何でボードゲームの集まりに参加したんだ?」


 オレが同じ問いを返すと、空手家は得意げにふんと鼻を鳴らした。


「道場では知性派として知られるボクとしては、こういう頭良さそうな趣味のひとつも嗜まないといけないと思ってさ」


「確かにお前は恥の多い人生を送ってきたけどよ」


「なっ! 恥の多い人生略して恥生じゃなくって! インテリジェンス! インテリジェンスモンスターパワークラッシュの、ち、せ、い!」


「なんだかやたら強そうな知性だな」


「ムキー! 馬鹿にして!」


 オレたちが――主に瀞畝が――わあわあやり合ってる横で、いつの間にか梶井さんと篠原が距離を縮めている。


「……マイちゃんはああ言ってますけど、私がどうしてもって誘ったんですよ」


「多分照れてるんですよねわかりますすごいわかります」


 微妙にこそばゆい会話をするでなっての。


「おー、盛り上がってるね」


 と、タイミングよくウタゲがオレたちのところに近づいてきた。


「そろそろ開会の時間だ。主催がみんなに挨拶するから一端向こうの方に集まってくれ」


「「「「はーい」」」」

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