第3話 不良は五七五で悶々とする③

 ボードゲーム会の会場となっている公民館は隣の中学校区にある三角屋根が特徴的な建物だった。何年か前に改築されたばかりで、まだほとんど汚れていない白い壁が日差しを受けて輝いている。


「マコトさん、こっちこっち!」


 駐輪場に自転車を止めたところで、背後から知ってる声が聞こえてきた。振り返ると、私服姿の篠原が立っていた。空色のワンピースにベージュのレギンス。こういう涼しげな服装もよく似合うな……って、荷物でかっ!


「重たくないか?」


 オレはクラスメートの華奢な右肩から釣り下がった巨大なショッピングバック(のようなもの)を指さして尋ねた。


「えー、普通だよ」


 大きめのボードゲームが五つ六つ入るくらいのサイズなんだが。


「さぁさ、行こ行こ」


 オレの内心を知ってか知らずか、篠原は明るく笑ってそう言うと、空いている左手でオレの手を引いた。


「近い近い」


 下校の時はあまり気にならないのだが(自転車が間に挟まるからだろうか?)、篠原のパーソナルスペースは休みの日になるとやたら狭くなる気がする。


「で、どの部屋でやるんだよ?」


 オレがさりげなく手をほどきながら尋ねると、篠原は一瞬しゅんとした表情を浮かべた後で、すぐに気を取り直して「二階の和室だよ」と答えてくれた。


「普段は大会議室を使うそうなんだけど、今回は取れなかったって」


「へー。どっちにしても結構でかい会場だな」


 そんなやり取りをしながら玄関ホールを通り抜けて、二回へと続く階段を上る。廊下を進み、一番奥の格子戸を開けると――受付用の長机の後ろに馴染みのショートボブがいることに気がついた。


「よう、ウタゲ」「こんにちは、ウタちゃん」


「おーす」


 低血圧っぽいだるそうな口調。服装もだぼっとしたシャツにジーンズと、完全に休日モードである。いっそのことオフでも制服を着た方が良いんじゃなかろうか。


「篠原から常連とは聞いていたが、スタッフだったのか」


「そんな大層なものじゃないよ。ちょっと手伝ってるだけさ」


 と言うわりに、実に手際よくオレたちの受付を済ませていく。


「まだ始まるまでちょっと時間があるし、先にボードゲーム置き場を見てくると良い」


 ウタゲに言われて部屋の奥に視線を向けると、床の間に溢れんばかりのボードゲームが置いてあることに気づく。というかちょっと溢れてる。


「あれ全部主催者さんの持ち物なのか……すげえ量だな!」


「主催者さんのものもあるけど、それだけじゃないよ。あそこにあるのは参加者のみんなが持ち込んだゲームなんだ」


「へー、ウタちゃんのもあるの?」


「もちろん。向かって左のアレアシリーズはわたしのだ」


「あたしのも置いて良いのかな」


「もちろん。ただ、あそこにあるゲームは持ち主に確認を取らなくても自由に遊ぶことができるってのがこの会のルールだから、大事なブツとヤバいブツはしまっとくと良い」


「りょーかい。今日はどっちもないから全部置かせてもらうよ」


「……大事なブツはともかくヤバいブツってのは何なんだよ」


「春川君も」「マコトさんも」「「いずれわかるよ」」


 何なんだよ。その妙に眩しい笑顔とボードゲームマニア特有っぽい妙な連帯感は一体何なんだよ。


「ヤバいブツについてはあんまり深入りしない方が良さそうだな……」


「はは。ともあれみんなの厚意で成り立っているルールだから、乱暴な遊び方をしないよう気を付けてくれよ。ま、ユウちゃんはもちろん春川君も見かけによらず細かいものの取扱いが丁寧なようだから、言うほど心配はしてないが」


「見かけによらず、ってのが余計だっての」


 憎まれ口を叩いておいて、オレは篠原とともにボードゲーム置き場へと向かうことにする。バッグ紐がすごい勢いで食い込んでる篠原の右肩がいい加減可哀想に思えてきたしな。本人は相変わらず平気な顔をしているけども。

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