第2話 不良はブシドーに目覚める②

「やだ。あたしったらマコトさんがあの日っていうからてっきり女の子の日とのとかと思っちゃったよ~。失敬失敬」


 人気のない廊下まで連れ出して「篠原が今日一日ずっとそわそわしてたからボードゲームで遊ぶ予定でもあるのかと思ったんだよ!」と早口で息継ぎなしに捲し立てると、篠原は目をぱちくりさせた後で、そんなことを言ったのだった。


 誤解が解けたのは良いが、割とあっけらかんとした感じに『女の子の日』って言うんだな……。体育は好きでも保健は苦手なオレはついそんなことを思ってしまう。


「で、実際のところどうなんだ? 今日……なんだろ?」


 気を取り直して、本題に戻る。字面だけを切り取ると相変わらずオレが篠原にセクハラを仕掛けているような気もするが(口にしてから気がついた)あくまでこれはボードゲームの話だ!


「マコトさんの想像通りだよっ。これからメリーズ・ラムに行ってウタちゃんと遊ぶ予定なんだ」


 やっぱりか。


「ウタゲって、この間のゲームの説明が得意なやつか」


「そうそう。覚えててくれたんだね」


「なかなか印象深いヤツだったしな」


 オレが言うと、篠原はくすりと笑ってから「もし良かったら、マコトさんも来ない?」と誘ってきた。


 こういう展開を想定していなかったと言えば嘘になる。むしろ期待しいていたというのが正直なところだ。しかし、ウタゲとかいう女と遊ぶというのが引っかかった。


 この間少し一緒に遊んだだけでも、篠原とあいつが気心知れた仲だということは察しがついた。それだけに、二人で会う約束をしているところにオレのような部外者が割り込んで良いものかと思い悩んでしまうのだ。


 それに女子の「あなたも来ない?」には額面通りに受け取って良いケースと、そうでないケースとがあるものだ。安易に誘いに乗って互いに気まずい思いをするというのは避けたかった。


「あ、そっか。今の言い方は良くなかったかも」


 と、篠原が人差し指を顎に手を当てて、呟くように言った。


「ボードゲームって、二人より三人の方がずっと遊べるゲームの幅が広がるんだ。ウタちゃんは間違いなく喜ぶし、あたしもマコトさんが来てくれたら嬉しいよ」


 それから篠原は自然な動作でオレの方へと一歩踏み出して、短いけれど形の綺麗な指でオレの制服の袖を掴んだ。


「だから一緒に来ない?」


 ここまで言われれば断る理由はない。


「どうせ暇だしな」


「やったね!」


 オレのあまり社交的とは言えない答えに、しかし篠原は満面の笑みを浮かべる。


「お店に着いたらさっきの『ゲームの説明が得意なやつ』っていうの、本人に言ってあげて。絶対喜ぶから」


「気が向いたらな」


 オレはお前と違って思ったことを包み隠さず伝えることが苦手なんだよ、とは心の中でだけ呟くことにする。

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