サムライで遊ぶ

第2話 不良はブシドーに目覚める①


 篠原ユウキがそわそわしている。


 という話をクラスメートに振ったところ、案の定「普段どおりじゃない?」という反応が返ってきた。中には「笑うと糸目になるし基本糸目だから全然わかんね」などと失礼極まりないことを言い出す輩もいた(のでそいつは殴っておいた)。


 ま、確かに教室では始終にこにこしているから、機嫌がいいのか悪いのか、気分が高揚しているのか沈んでいるのか、どうにも読みづらいというのはある。しかし、注意深く観察していれば気づくこともある。


 たとえば授業中にすごい頻度で腕時計見返しているとか。たとえば級友たちと話すときのにこにこ笑顔でもいつもより心持ち口角が上がってるとか。たとえば移動教室で廊下を歩いているときに小声で「ドナドナドナドナ、羊をの~せ~て~、ドナドナドナドナ、3:1サンイチ港~」などと変な替え歌を口ずさんでいるとか。


 これは多分だろう。そう勘付いたオレは放課後を待って篠原に声をかけることにした。


「今日は随分と機嫌良さそうじゃねーか」


「そ、そうかな?」


「おう。ひょっとして……アレの日か?」


「え?!」


「まぁ教室じゃちょっと言いづらいのかも知れないが」


「きょ、教室じゃなくても言いづらいよぅ」


 ん? 篠原にとってボードゲームで遊ぶってのはそんなの後ろめたい趣味なのか?


「いくらマコトさんでもそういうデリケートな話はちょっと困る……」


 デリケート? と心の中でオウム返ししてから気がついた。篠原がアレの日という言葉を誤解していることに!


「ばっ、ちげー! ぼっ、ボードゲームの話だよ!」


 思わず叫ぶと、オレは篠原の腕を掴んで教室から連れ出した。

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