第1話 不良と地味子は仮初めの夫婦になる②
週末――メリーズ・ラムという名前のボードゲームカフェには、二十人近い客が入っていた。ちょうどイベント日らしく店の入り口でマスターに『自由に席を移動して好き好きに遊んでください』と言われた。
しかしオレはともかくとしておとなしい性格の篠原にそんな芸当ができるのだろうか――?
「レディース&ジェントルメンで遊ぶんですか? やりますやります! 参加者二人追加でお願いしまーす!」
適応力たけえな! っていうかオレも参加することになってる?!
「ユウちゃん、今何人?」
と、篠原よりもあたま一つ分くらい背の低いコロポックルみたいな少女がオレたちのところへと近づいてきた。見覚えのある顔だ。
「あっ、ウタちゃん! うーんとね、六人だよ!」
篠原が嬉しそうに声をあげた。やはり先だってのショッピングモールでの騒動の際に待ち合わせをしていたあいつのようだ。
「じゃあ、わたしで七人か」
ウタちゃんと呼ばれた女子は、低血圧っぽい声で言ってから、後ろを振り返った。
「リョウタロウ、お前も入れ」
「ウタゲ
中学の制服を着た背の高い少年がぶすっとした声で言ったが、本気で嫌がっているわけではなさそうだった。
「後でいくらでも相手してやる。良いからマスターに言って、ゲームを借りてきな」
「はいはい」
低血圧コンビの会話はそれで終わった。
「これで八人。そろそろ始めても良いんじゃないか?」
ウタ――ウタゲの一声でオレたちはテーブルに向かった。分厚い一枚板の天板が格好良い。
「男女比はちょうど良いけど、チーム分けはどうしようか?」
ウタゲが誰にというわけでもなく尋ねると、篠原がちらりとこちらを見てから「マコトさん、まだボードゲーム自体初めてだし、あたしとペアでも良いかな?」と言った。
ひょっとして気遣われたのだろうか? まぁ適応力と言うかコミュニケーション能力は武力交渉に特化しているところはあるけれど。
「なるほど。それじゃあ夫婦で参加の人もいるし、ペアはいじらないことにしようか」
「異議なーし」「良いですよ。それでお願いします」
そう応じたのは初めからいた四人のうちの二人。夫婦で参加してるとおぼしきペアだ。
「お前とペアかよ」「こっちの台詞だ」
続いてオレたちと同じくらいの男子二人組。初めからいた四人のうちの残り二人だ。ちょっと名残惜しそうに篠原に目線を送るあたり、異性とペアを組みたかったのかも知れない。
「俺はウタゲ姉とペアか」
「不満か?」
「稼いだ給料を実の姉に持ってかれる程度にはな」
これはリョウタロウとウタゲのやり取り。何の例えかはよくわからないが、とりあえず二人が姉弟だということはわかった。小柄な姉と背の高い弟。体つきは対照的だが良く見れば目鼻立ちがそっくりだ。
「満場一致ってことで良いかな? それじゃ始めよう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます