壱:盗作とオマージュの境界線

■依拠性と類似性

 

 そもそも盗作とはどのような行為をさすのでしょうか?


 インターネットで『盗作』の意味を検索するとこんな解説が出てきます。


―――――――――――

とう‐さく〔タウ‐〕【盗作】

[名](スル)他人の作品の全部または一部を、そのまま自分のものとして無断で使うこと。また、その作品。剽窃(ひょうせつ)。「論文を盗作される」

(出典:小学館デジタル大辞泉)

―――――――――――


 日本語において盗作とはこのように定義されています。

 

 では何を持って盗作かそうでないかを判断するかというと、〝依拠性〟と〝類似性〟によるとされます。


 類似性とは、そのまま「AとBに共通する性質がある」ことです。


 ある作品Aと作品Bを比較した場合、両者に類似性がないのならそもそも盗作になりません。ですから盗作か否かを判断する場合、二作品における類似性が重要な根拠となります。


 では依拠性とはなんでしょう?


 依拠性いきょせいとは、〝る〟と〝る〟の二文字が意味する通りに「ある作品がすでに存在する他の作品に基づいて創作されている」ことをさします。


 古今東西、小説漫画その他映像表現問わず、数え切れないほどの作品が世に送りだされている訳ですから、中には盗作でなくとも異なる作家が相手の存在を知ることもなく同じような作品を発表する……なんてケースも存在します。


 仮に作品Aと作品Bに類似性が認められても、片方がもう一方を模倣した事実がなければそれは〝偶然の一致〟に過ぎず、そこに著作権等の侵害は発生しないのです。


 なので盗作か否かの判断においては、類似性と同様に依拠性が確認できるかどうかが重要になってきます。


 では、これらを踏まえ私の書いた小説である『作品・甲』と問題の『作品・乙』の場合をみていきましょう。




■検証①:両作品の依拠性

 

 まずは依拠性について検証してみましょう。


 前章の追記2にて簡単に時系列をまとめていますが、私が『作品・甲』を執筆したのは今から約5年前の2014年の7月から9月にかけての期間になります。

 補足すると、原形となる作品の一部(序盤の1万字ほど)を執筆したのはさらにその前で、2008年の3月頃の話です。


(あらためて書くと、二次創作コンテストが開催された時点からみても10年も前じゃん……という事実に私自身ちょっと驚いています)


 10年前に書いたプロトタイプは当時ネット上で交流のあった知人のみに公開していたもので、未完成原稿であったそれを全面的に改稿し完成させたものが『作品・甲』です。それをまずは2014年9月にpixivへ投稿しました。


 それから2015年8月の夏コミ(コミックマーケット88)にて、加筆修正をほどこした『作品・甲』の同人誌を頒布しています。


 その後、二次創作コンテスト開催を受け昨年2018年5月11日に『作品・甲』をカクヨムに投稿しました。


 こうした経緯を提示することで、まずは「相手が先に作品を発表し、後から私の方が模倣している――などという可能性はない」ことが理解していただけると思います。


     ***


 では逆に先方の『作品・乙』が私の『作品・甲』に依拠している根拠はどうでしょう。


 私が昨年5月に『作品・甲』を投稿したのち、6月に入ってから私のアカウントが先方からフォローされました。またその際に相手は『作品・甲』を含むこちらの複数の投稿作にレビュー(☆)をつけています。(通知機能の履歴より確認)

 先方がコンテストに『作品・乙』を投稿したのは、投稿日時によりその後の9月以降であることが分かります。


 つまり、先方は事前に私の『作品・甲』を読んでおり、その影響を受けた上で自作を執筆された可能性が高いのです。


 無論、フォローやレビューをしたからといってそれのみで確実に作品を読んでいると100%の断定はできませんので、先方の依拠性を証明するには少々弱いかもしれません。 


 しかし同時に、先方がこちらの作品を全く知らなかった――「偶然の一致である可能性は否定される」ことが了解していただけるかと思います。




■検証②:両作品の類似性


 前項にて、断定はできないものの先方の『作品・乙』が私の『作品・甲』に依拠して創作されたと推定できるくらいには、事実関係を提示できたかと思います。


 では次に、両作品の類似性について検証してみましょう。


 ある意味でここからが本題といえますね。双方の作品にどの程度の類似性がみられるのか、互いの小説内より類似していると思わしき箇所を一部抜粋してみましょう。


 まずは私の『作品・甲』の文章です。


―――――――――――

ティーゲルは俺たちが狩る」

 MSE副長ヴィーラント――腕を組んで座ったまま、ギロリと壇上を睨む。

 BVT捜査官――舌打ち/忌まわしげに会議室の一角に陣取るMSEの一団を見やる。

「ティーゲル男及びその所属するテロ集団には、BVT直属の〈特殊憲兵部隊コブラ・ユニット〉本隊から選抜した人員で対応する。末端部隊である諸君らMSEの独走を許すことは出来ない」

「先の戦闘でうちの小隊員が負傷させられた。借りは自分たちで返す」

 BVT捜査官=憮然と。「貴官がそこまで部下想いだとは知らなかった」

 その光景に一部の隊員が〝またか〟といった顔で肩をすくめる――壇を挟んで睨み合う両者=MSE副長ヴィーラントと眼鏡のBVT捜査官――犬猿の仲として有名な二人。

     (中略)

「無論だ。任務中に遭遇しうるあらゆる脅威から都市と市民を守り抜くことこそ、全ての治安組織に共通する使命と言えるだろう。諸君らMSEの信念は我々もよく理解している。そうであるからこそ、君たちは上層部から与えられた役目に忠実でありたまえ」

「ええ、承知しております。この都市を守るためならば、我々は例え虎であろうとドナウのワニであろうと、何とでも戦ってみせますわ」

 その発言を聞いた一同から、僅かな失笑と共にどこか弛緩した空気が流れる。もちろんドナウ川にワニなどいない――かつて消防隊が野生化したペットのワニを捕獲したという珍事をネタにしたジョーク/みなの緊張を解こうとする、摩耶の茶目っ気。

 BVT捜査官=咳払い。「では、以上をもって解散としてよろしいかな。MSE副長殿?」あくまでも生真面目に確認。

「はっ。では我々MSEは、本来の職務にあたります」

 ヴィーラント=直立&敬礼/それっきり不満を億尾も出さず踵を返す――摩耶=微笑みを振り撒きながら後に続く。

 それを合図に、次々と席を立つMSE隊員たち/退出する副長&補佐官に続く――響たち〈ラーゼン〉小隊の三人も、みなを追うように会議室を後にした。

―――――――――――


 特徴的な文体ですが、これは原作に似せているためです。(余談ですが小説の文体には著作権が適用されないらしいので、文体を真似ただけでは盗作にならないようです)


 次に問題の『作品・乙』の文章です。


――――――――――― 

「連中は俺達の獲物だ」

 捜査官=うんざりしたように振り返る――はしばみ色の瞳の奥に見え隠れする烈火/声の主を睨み付ける――食事を邪魔された獅子の如き怒り。

「何か言ったか、アウグスト?」

 視線の先――MSKの集団/その最前列に座る男。

 粗く切られた赤銅色の髪/顔の中央を横切る一文字傷/細めた淡褐色の瞳――獲物を見据える猛禽類のような鋭さ。

 M S K副長リロイ・初鷹はつたか・アウグスト/通称〈鷹の目ホークアイ〉――優れた洞察力と観察眼を以て標的を捕らえる現場指揮官/周知の事実=壇上に居た捜査官とは不倶戴天の敵同士――噂=元は名コンビ同士だった。

「連中は俺達の獲物だ、と言った」

「私の話を聞いていなかったのか?」

「アンタに言ったんじゃない。俺の部下達に言ったんだ」

「ほう、お前はいつからそんなに部下想いになった?」

「ウチの部隊員が、そいつらに負傷させられた」

「だからこそMSKを外した。そちらには荷が過ぎると思っての判断だ」

「借りは自分達で返せる。他人に尻拭いしてもらうほどガキじゃない」

     (中略)

「では、我々は平時の任務に当たるが、よろしいかな?」

「無論だとも。我々BVTの使命は、考えうる全ての手段によって、市民を脅威から守ることにある。そのための平時の任務に特憲コブラや機甲部隊が力を割き辛い分、MSK諸君が尽力すればその分事件の早期解決を図れるだろう」

 要約=〝誰がお前達を活躍させるものか〟/隠す気のない本音。

「承知した。我々の全力を尽くすとしよう」

 リロイを見やる隊長/頷くリロイ――いかにも不満げ=他の隊員も同様。

「では、以上で解散だ。尚、選抜人員と今後の予定については追って連絡する」

 勝ち誇ったように宣言する捜査官/獲物を狩った獅子の咆哮の如く。

 席を立ち、会議室を出るMSK一同=憤懣を漂わせながら/その背中を追いかけるもの=冷笑。

―――――――――――


 どうでしょうか。

 二つの文章が似ていると思いましたか、それとも似てないと思いましたか?

 

 より詳細に比較していきましょう。




■盗作とオマージュの違い


 ふたつの文章からは、プロット・シチュエーション・キャラクターの配役等において類似性を感じ取れます。


 両作品ともに〝ある事件の捜査会議を行っている場面〟で、〝部下の負傷をかばう特殊部隊の副長とそれを皮肉る上層部の捜査官の二人が口論している〟という状況や人間関係も共通してますし、〝主役となる特殊部隊が捜査から外され会議室から退場する〟という流れも一緒です。


 ですが、これらの要素はあくまでも作品を構成する〝アイデア〟に過ぎません。そして前章でも述べた通り、アイデアは著作権の対象外です。


 つまり――小説における設定やキャラクター、シチュエーションなどはアイデアの範疇であり、それらが類似していたとしても法的には問題がないことになります。


 いわゆる〝オマージュ〟や〝リスペクト〟、あるいは〝インスパイア〟と呼ばれるものですね。


 ある作品のアイデアからヒントを得て、そのアイデアを利用した創作を行ったとしても、それは盗作(著作権の侵害)ではなく新たに創出された別の創作物であるとみなされる訳です。


 では上記の文章において『作品・乙』は私の作品のオマージュであるといいきれるのでしょうか?


 個人的な見解を述べますと、かなり難しいのではないかと思います。


 なぜなら『作品・乙』の文章には、私の『作品・甲』の文章を改変して使用しているとみられる箇所が複数あるからです。


     ***


 例えば『作品・乙』における「ウチの部隊員が、そいつらに負傷させられた」「借りは自分達で返せる。(後略)」というふたつの台詞は、私の『作品・甲』にある「先の戦闘でうちの小隊員が負傷させられた。借りは自分たちで返す」という台詞を分割した上で改変を加えたものと受け取れます。


 またその前に出てくる「ほう、お前はいつからそんなに部下想いになった?」という別キャラクターの台詞も、こちらにある「貴官がそこまで部下想いだとは知らなかった」という台詞を会話の順序を入れ替えた上で改変したものに思えます。


 他にも類似した台詞がいくつもあります。



、全ての治安組織に共通する使命と言えるだろう。(後略)」(甲)

BVT使。(後略)」(乙)


。MSE副長殿?」(甲)

。尚、選抜人員と今後の予定については追って連絡する」(乙)


「はっ。」(甲)

が、よろしいかな?」



 また上記の抜粋文は長くなるので途中を略していますが、その省いている文章内にも



「(前略)それにテロリストに遅れを取るような未熟者がいるようでは、」(甲)

「だからこそMSKを外した。」(乙)



 やはりこちらの台詞からの模倣……と思える箇所が確認できます。


(関係ない話ですが、先方の文章にある『荷が過ぎる』はちょっと変ですね。こちらにある『荷が重い』を『荷が勝ち過ぎる』と改変しようとして脱字したのかな?)


 どうでしょう。ここで取り上げた捜査会議パートのみでも、これだけこちらの文章を模倣していると思われる箇所があるんです。


 文章を含め、著作物内の表現をそのまま盗用した場合は著作権法上における『複製権の侵害』にあたる訳ですが、今回のように原文の表現を一部改変して盗用した場合ですと『翻案権の侵害』が該当します。


(もうひとつ『著作人格権』における『同一性保持権(著作権法第20条)』というものが存在するのですが、長くなるのでここでは割愛します)


 何度も繰り返して申し訳ないですが、アイデアのみの模倣ならば道義的にはともかく法律上は問題がないものと判断されます。


 ですが――表現であるはずの小説内の台詞においても、これだけ類似性がみられるとなると……これを「模倣しているのはアイデアのみにとどまっている=盗作ではなくオマージュやリスペクトの範疇である」とみなすには、かなり無理があるんじゃないかと(汗)


     ***


 主に台詞に限定して比較してきましたが、前章で「地の文章からも模倣がみられる」と書いていた手前、上で文章を抜粋したのと同じ章内から、地の文における類似箇所の一例も提示しておきますね。


―――――――――――

 組織内でのMSEの評判――特甲児童を配置するためだけのお飾りパッチワークス部隊/問題だらけパッチワークスなお荷物/主力ワークホースまで継ぎ接ぎの寄せ集めパッチワークス

 本来、特甲児童の全州配備計画を念頭において設立されたはずのMSEと〈ラーゼン〉突撃小隊――だが/いくつもの政治的な駆け引きや組織内の権力争いに巻き込まれた結果、他の組織の穴埋めをするだけの予備戦力扱いに――ようするに、ただの補欠オマケ

 マスターサーバーの預言とBVTのによって事件が割り振られ、御呼びとあれば管轄区域も関係なくミリオポリス中のどこへでもヴィントのように出動シュトゥルムする――他の治安関係者からすれば、突然やって来ては好きなように暴れて帰っていく台風シュトゥルム・ヴィントのような厄介者。

(『作品・甲』より抜粋)

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―――――――――――

 だが、内務大臣直轄の特憲内に設置される予定が高度に政治的な調整により、BVTの機甲部隊直下に組み込まれることに。

 結果=特甲児童と他組織の問題児を配備した厄介部隊モノ――他所から戦力を掻き集めた継ぎ接ぎの化け物――上層部の采配次第であらゆる事件に首を突っ込む愚連隊/他の治安維持組織からのMSKに対する評価。

(『作品・乙』より抜粋)

―――――――――――


 さて、いかがなものでしょう。

 次の章では『翻案』の観点から検証していきたいと思います。






※追記1:これがいわゆる高度な政治的判断?

ちなみに私の作品で主人公の所属する部隊は「特憲(原作に登場する特殊部隊)内に新設された特捜部隊」という設定になっています。それを踏まえて先方の作品を読むと――「特憲内に設置される予定が調、BVTの機甲部隊直下に組み込まれる」

……な、なるほど。


※追記2:当方の小説の他サイトでの公開について

現在、一身上の都合によりカクヨム以外の投稿サイトにおける『作品・甲』を含む当方の作品は、全て非公開になっています。

また在庫切れにより同人誌のWEB通販等も停止していますので、ご理解下さい。

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