とある新人賞に応募した小説が盗作された話

神城蒼馬

序:何故このコラムを書くのか

 事の発端は昨年、カクヨムが開催するとあるコンテストのひとつに自身の小説を応募したことにさかのぼります。


 そのコンテストは〝所定の小説作品の二次創作を対象にした新人賞〟というユニークな企画でして、応募規約にて『過去に同人イベント、ネット投稿サイト等で発表済みの二次創作作品(同人誌)も受けつける』とあったので、それに従い過去に私がコミックマーケットにて頒布した対象作品の二次創作小説を応募してみることにしました。


 ところが応募期限が過ぎた昨年10月、「他の応募者はどんな作品を書いてるのかな?」とわくわくしながら応募作品を読み進めるなかで、気になる作品を見つけてしまったのです。


 まず、その作品はキャンプションに書かれたあらすじや登場人物一覧(そのコンテストでは応募要項にてあらすじ・舞台・登場人物など物語の簡単な概要文を添えることが指定されていた)の内容が私の投稿作に類似していまして、その時点で「んん?」と引っ掛かりを覚えました。


 さらに小説本文を読み進めると、冒頭部分だけでも私の作品とキャラクター・設定・アイデアにおいて類似した要素がいくつも見られたため、またも「んんん?」と思わず唸ってしまいました。


 しかし、この時点での私はあくまでも黙ってスルーするつもりでいました。


 詳しくは別の章で後述する予定ですが、著作権法上の概念において保護対象となり権利を主張できるのは『著作物のなかの〝表現〟に対して』であり、『思想・設定・事件などの〝アイデア〟そのものは著作権の対象にならない』という予備知識があったからです。


 ところが……後日あらためて問題の作品を最後まで読んでみると、小説内における登場人物の台詞、会話のやり取りや状況描写などの地の文の表現エトセトラ――私の小説から一部単語やキャラの口調などを改変した上で模倣していると思われる箇所が、ちょっと看過できないほど大量に存在していることに気づいたのです。


 前述の通り、著作権とは著作物の表現を対象とするものでアイデアのみの模倣ならば法律上問題がないことになります。


 しかし、小説内の地の文章やキャラの台詞などはアイデアを元に創出された『表現されたもの=著作物』にあたるはずで、ごくありふれたフレーズや短い台詞などの一部に限られるならともかく、ストーリーの大部分に渡って文章の模倣が見られるとなると、これは明らかな剽窃ひょうせつ――いわゆる〝盗作〟にあたるのではないでしょうか?


     ***


 私としても今回の件をこのような形で書いて投稿するべきか否か、悩みました。

 

 せっかく特定の作品が好きな者、同好の士が集って盛り上がる二次創作コンテストなのに、私ひとりが騒ぎ立てることで水をさすことになってしまうのではないか?


 黙ってスルーすれば角が立たない出来事なのだから、私がこの件を一切忘れて〝無かったこと〟にすればいいのではないか?


 そもそもが本質的に一次著作物に依拠する二次的著作物(二次創作)に関することであり、二次創作において一次著作物の著作者(原作者)以外の人間が他者の二次創作物に対してどうのこうの言うのはナンセンスなのではないか?


 これらの疑念が渦を巻き、自分のなかで明確な答えがでないまま半年あまりの時間が過ぎました。


 それが何故、今さらこのような文章を書いてしまっているのかと問われれば、『起こった出来事を無かったことにはできない』と気づいたからです。


 仮に私がこの件をキレイさっぱり忘れたとしましょう。

 ですが、それによって当時の私がショックを受けたり傷ついたりした事実を消すことはできません。コンテストの裏でそのような出来事があったという事実もまた、現在も公開されたままである双方の類似した投稿作品という形をもって残り続けます。

 

 そして平成が終わり新たな時代が始まろうとする今、この胸の奥にあるわだかまりを残したままでは私自身が晴れやかな気分で令和元年を迎えることはできないだろう――という感覚がフッと訪れたのです。


 いっそ心に澱のように溜まった想いを思い切って吐き出してしまった方が、溜め込んだままの状態でいるよりもいくらかマシだろう、という考えです。


 ですから、このコラムは私の個人的なエゴ――腹の中に溜まったものを吐き出してすっきりしたい――という利己的な欲求に基づいて書かれたものに過ぎず、問題提起や告発のような広く公共に訴えるたぐいの大それた行ないがやりたい訳ではないのだ、という点を踏まえてこの先の章を読んで下さい。






※追記1:問題の作品について

件の作品が盗作であるかどうかの最終的な判断は、この後の章を読んだ方々それぞれの評価に委ねたいと考えています。

一連の経緯を把握し、その上で私の被害妄想だと評価されるならばそれも受け入れるつもりです。

またそれとは別に、個人的な印象として「おそらく先方は悪意を持って盗作した訳ではないだろう」ということを書いておきます。

詳細はまた別に述べますが、この件は故意ではなく過失であり、相手の技量・知識の不足等によりオマージュやインスパイアを越えてこちらの作品を過度に模倣する形になってしまった、創作・同人活動におけるある種の事故なのではないか?――というのが私の総合的な見解です。

ですが例え過失であったとしても被害は存在する訳だし、故意じゃないから不問という形で有耶無耶にしてしまうのもよくないんじゃないか、と思った上でこのようなコラムを書いてるとご理解下さい。

断罪が目的ではなく、先方に謝罪や作品の公開停止なども要求するつもりはありません。ただ起こったことを知っておいて欲しいのです。



※追記2:簡単な時系列について

2014年9月

・私が某作品の二次創作小説(以下、作品・甲)をpixivに投稿


2015年8月

・コミックマーケット88にて作品・甲をまとめた同人誌を頒布


2018年5月

・カクヨムにて二次創作コンテスト開催

・私が作品・甲をコンテストに投稿


2018年6月

・先方が私のアカウントをフォロー。作品・甲にレビューの☆をつける


2018年8月

・先方が二次創作コンテストに問題の作品(以下、作品・乙)を投稿

・私が作品・乙に気づく。この時点ではアイデアのみの模倣と判断


2018年9月

・先方が作品・乙の続きを投稿


2018年10月

・二次創作コンテスト応募締め切り

・私が作品・乙の続きが投稿されていたことに気づく。全文を読んだ末に盗作と判断


2019年4月

・本コラムを投稿

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