第14話
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繋がっているのに離れている二人は、少しずつ元の距離まで縮まろうとしていた。
ある日の晩。海渡はいつものように湖へ訪れ歌を歌う。すると、雫もいつものように歌を歌った。
海渡にとっては、それが心から嬉しかった。
嬉しく思い思わずクスッと笑みが溢れる。水面が微かに揺れ、映る月の影もゆらりと揺れた。
――パシャッ。
一匹の小魚が湖から飛び跳ねた。
海渡は何かを期待するかのように揺れる水面を見つめる。すると、湖からゆっくりと頭が現れた。
海渡は、口を開け言葉を失う。
(これは夢?彼女が……姿を見せてくれた)
少し怯えた様子で海渡を見る雫。
その瞳に吸い込まれるのではないかと海渡は思った。海渡は危害は加えないといった含みも込めて優しく雫に話しかけた。
「大丈夫だよ。僕は、君に何もしない」
そう言って微笑むと、一瞬だけ雫の不安げな表情が柔んだ。
水面から出てきた雫は、恐る恐る海渡の傍まで歩み寄る。海渡は、それが何よりも嬉しかった。
雫は海渡の近くまで寄ると、また海渡の目を真っ直ぐ見つめた。
人にこうやって見つめられる事などない海渡。何故だか恥ずかしくなる。そして思わず、雫から目線を逸らした。
「………」
「………」
二人の間に沈黙が流れる。
その沈黙を最初に壊したのは雫だった。
「……海渡」
名を呼ばれた海渡は顔を上げる。その途端、まだ海渡のことを見ている雫の大きな瞳と目が合ってしまった。
しかし、海渡はそれよりも雫の声に聞き惚れていた。
鈴の音のように優しく、心に残る声音に。
(歌声と同じだ)
返事の無い海渡に対し、雫は心配そうな顔をしながら再び海渡の名前を呼んだ。
「……海渡?」
「あ、えっと!そ、その…どうして、僕の名前を知っているの?」
海渡は少し緊張しているのか、声が微かに震えていた。
「だって、知っているから。ずっと前から」
「え?」
「私のこと、怖くない?人間じゃない私を怖くないの…?」
雫は海渡に問う。やはり、雫の顔は何処か不安げな様子だ。
海渡は、そんな雫の心を安心させるようにニコリと微笑んだ。
「全然怖くないよ。寧ろ、う、嬉しいかな…?」
海渡は恥ずかしくなり思わず苦笑する。
「嬉しい?」
「う、うん。だって…ずっと、物語の中だけかと思ったから。信じられなくて、少し驚きはしたけどね。あはは」
そう言うと雫から不安が消えたのかホッと安堵の息を洩らし雫も微笑んだ。
その微笑みに、海渡の心臓がドキリと鳴る。
「ね、ねぇ。君は…その…名前とか、あるの?」
「私は、雫」
「雫?」
「そうよ。私は、雫」
そう言って、雫は、ただただ海渡に向かって微笑んでいたのだった。
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