第4話 襖貼り
自宅の2階に、日課の柔軟体操をする以外に入る事はない6畳の和室がある。2匹の猫が障子と襖をビリビリに破いてしまった無惨な部屋だ。
1年半前に障子を直した。緑色の和紙と青色の和紙を交互に貼り、自分で言うのもなんだが、お洒落に仕上げた。
でも……襖は難しい。
枠を外さなくても貼れるやつがあるかどうか調べた。アイロンで貼れるとか接着面がシールになっているやつとかはある。でも、思った以上にビリビリニされてしまった襖に、そのまま上から貼るのは無理だと思った。それに……。
『できればシックな柄がいいな』
ネットで探すと、絣【kasuri】という黒っぽく、洒落た襖紙が見つかった。しかし、[購入後は専門店に依頼してください。]と書いてあった。
『襖貼り、自分で出来ないかな……』
田舎だから、襖の専門業者なんてどこにあるか分からない。おそらく頼めば畳屋さんがやってくれると思うが。なあなあな人間関係で成り立っているから、いくらかかるか検討がつかないのが、田舎の怖いところだ。
取り合えず、トントントン。木槌で叩いて枠を外した。でも、思いのほか下貼りのちゃちり紙と襖紙が貼り付いていて、はがすだけで一苦労だ。綺麗にはがしておかないと、綺麗に貼れないから、神経を使う作業だった。だから、押入れ、両面貼りの片引き、地袋、6枚全部はがしたら疲れてしまった。
……それから色々と忙しくなり、作業は中断。襖は枠が外されたまま放置された。
2017年11月から1年半もの間。
毎日、柔軟体操をするために部屋に入ると、気持ちが少し重くなった。
『ああ、襖どうしよう。いつまでもこのままにしておけない』
そう思いながら、どこか見て見ぬ振りをしてきた。面倒な作業だから、時間があってもなかなかその気になれなかったから。
『もうあきらめた。業者を探して依頼しよう』
だがしかし。ある日、目が覚めると突然襖貼りがしたくなった。やる気が突然湧いてきた。1年半もの熟考の期間を経て自分ではやらない、と決めたのに、突然湧いたやる気に少々戸惑った。が、気が付くと朝から下貼りのちゃちり紙を貼り始めていた。
貼り方をネットで見ていたし、必要な材料、道具もホームセンターに行ったついでに少しずつ揃えていはいた。
だから、仕事に行く前に、そして帰宅してからこつこつと、作業をし、ちゃちり紙を貼り終えた。
そして……。パソコンのお気に入りに入れていた、襖紙専門店を1年半ぶりにクリック。念願の襖紙を購入。
『やっぱりお洒落だ。かっこいいぞ、これは気に入った』
難敵、両面貼りからチャレンジする。初めてだから苦労する場面もあったが、始めてしまえば何とかなる。1年半もの間、襖貼りの知識を少しずつ頭に入れておいたのだから。
出来栄えは…… 専門業者に出したそれと、あまり変わらず仕上がっていると思う。
1年半の時を経て、青と緑の和紙を貼った障子に、絣【kasuri】の黒くて落ち着いた色の襖。納得のいく和室が完成した。
充実感とともに、この部屋をこれからどう使うか、想像が膨らむ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます