第3話 クリーンセンター
「それ、そっちじゃねえよ。こっちだ。違うよ、そこだよ」
クリーンセンターには市の職員以外に、ボランティアなのかアルバイトなのか、数人のお年寄りが、ごみを置く場所の指図をしている。
彼らのぶっきらぼうな口調が私は好きではない。だから、クリーンセンターに行くのは少々億劫なのだ。
でも、不燃物を捨てに行った今日………
私はセンターの職員にも、そしてぶっきらぼうな物言いのお年寄りにさえ本当は言いたかった。言葉が喉元まで来ていた。でも、あまり世間話をする雰囲気ではなかったから、言わなかった。
『………桜が満開で、綺麗ですね』
クリーンセンターの門を入ると、右に大きく反れる坂を上る。受け付けの車列に並ぶと、敷地が桜の木に囲まれているのが分かる。平成最後の寒波と風で、少し散ったとは言え、とても綺麗だ。
クリーンセンターの人たちは、あきらかに穏かだった。誰も不機嫌そうにしていない。いつもはぶっきらぼうなお年寄りも何故か対応が丁寧だった。
『きっと桜のお陰で、皆雰囲気が軟らかいんだ。桜が人を穏やかにさせているんだ。あのぶっきらぼうなお年寄りたちも、桜が綺麗だと思っているに違いない………』
こじつけかもしれない。でもなんか嬉しかった。
私は勝っ手に思っている。
花を『綺麗だ』と思える人の心は生きている……。
あのぶっきらぼうなお年寄りたちの心だって、きっと何かを感じ、生きているはず。
だから、「桜が満開で、綺麗ですね」って言いたかった。
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